第一章13 『学園都市』
あれから数日が経ち、ティアラは学園に行くために王都の魔法騎士団本部へ来ていた。どうやら最低でも、入学日の前日には学園にいないといけないらしい。
「あ! ティアラちゃん来たぁ!」
「ミリティアさん」
「こっちだよ、ついてきてぇ」
「うん」
先導するミリティアの後ろをしばらく歩くと、階段を下りたところに四つの転移魔法陣が存在していた。
「左からA学園B学園C学園D学園の順番だよ。でもちょっと待ってて、アミリスがティアラちゃんに会いたそうだったから呼んでくる」
「わかったわ」
そう言うと、ミリティアは階段を上って行った。
『アルファベッド……まぁいいや、ねぇティアラ、ティアラは何学園なの? ていうかなんで学園が四つもあるの?』
「正確には学園都市よ。この国の十から十五歳全員が通うわけだから、どうしても一つじゃ足りないのよ。それとあたしはDよ」
『全員? 通えない人とかいないの?』
「例外はあるにはあるらしいけど、基本はそういうのはないわね。どうにもメイザスさんが無茶言って全員入学できるようにしたらしいわ」
『そうなんだ……』
この前の誕生日の一件と言い、メイザスの行動は基本無茶苦茶なのだろうか。少なくとも普通とはどうしても言えそうにない。
『ティアラは学園生活楽しみ?』
「……別に、どうってことないわ」
『ふ~ん』
「それよりもティア、学園じゃ人多いんだからバレないよう気を付けないさいよ。あんたの存在はあたしとミャミュだけの秘密なんだから……」
『頑張る!』
「ダメ、死守しなさい!」
『死守!?』
思わず目を見開いてティアは応じる。
「ティアラぁ!!」
「ァ、アミリス速い、ちょっと待ってぇ!」
階段を駆け下りる音と共に、アミリスとそれを追いかけるミリティアが現れる。
「ティアラ!」
「お母様……? どうしたの?」
ちょっと涙目のアミリスの様子に、ティアラは思わず目を丸くする。
「ううん、何でもない! それよりティアラ、学園でも頑張ってね? けど無理はダメ! 何かあったらすぐに先生に相談すること! それでもダメなら、お母さんに手紙を送って」
「えぇ、わかったわ」
「ふふん」
ミリティアが突然ニヤリとした笑みを浮かべた。
「ティアラちゃん、さっきまでアミリス半泣きだったんだよ? ティアラちゃんがいなくなるぅって」
「え?」
「な!? ちょっとミリティアぁ!!」
「いいじゃん別にぃ」
「本当なのお母様?」
「ち、違うよ? ミリティアの嘘」
「まぁそういうことだよティアラちゃん」
ニヤニヤして言うミリティアは、ティアラの目から見ても悪魔的だ。
アミリスの頬に若干涙の跡が残っていることからも、ミリティアの言ったことは本当なのだろう。
「お母様、ありがとう。こんなあたしを大切に想ってくれて」
「当たり前でしょ! あと、こんなあたしとか言わない!」
アミリスの訂正に微笑み、ちょっと間をおいてからティアラは言う。
「それじゃあお母様、行ってきます!」
「うん、いってらっしゃい。何かあっても一人で抱え込まないこと! お母さんでもミリティアでもいいから手紙で相談して!」
「あっそうだティアラちゃん、私の妹に気を付けて、あの子は容赦ないよ」
「――? わかっ、たわ。二人ともありがとう、またね!」
その瞬間、魔法陣に立ったティアラを淡い光が包み込んだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ん、んん?」
目を開けると、視界に大きな城のようなものが映り込む。――否、その一部しか見えないほどに大きい。あまりにも大きすぎる。
「ぉ、おっきぃ……」
あまりのその大きさにティアラは目を見開いて硬直する。
『え? 何この建物? え?』
「が、学園よ。――そしてここが、学園都市!」
ティアラが後ろを振り返れば、学園都市の塀が遥か遠くに見えて、ティアはこの都市の大きさを実感する。
『ぉ、大きすぎない!?』
ここから塀まで軽く五百メートルくらいはありそうだ。
そして目の前に立ちはだかる学園そのものを見上げると、高さは軽く百メートルを超えているように思えた。
「学園は都市の中心に円の形であるらしいから、ここが都市の真ん中ね。にしても、大きすぎて学園の全体像が見えないわ……」
『ティアラこれ、移動どうするの? 徒歩?』
「違うわ。転移魔法陣が都市のあちこちにあるから、それを使えばいいだけよ。ほら、あそこにk寮への転移魔法陣があるわ。ってことはあたしはi寮だからこっちにいけばあるはずね」
『ねぇティアラ、せっかくだし歩きでいかない?』
「えぇ? じゃああんた歩きなさいよ」
「へ?」
その瞬間、ティアラから強制的に体の主導権を与えられて、ティアは思わず体を硬直させる。
「まぁいいや。それでティアラ、どっち行けばいいの?」
『後ろに大きな道があって、その先に寮が見えるでしょ? あれがk寮。学園の周囲は道になってるみたいなの。それでその円形状の道の縦と横に寮につながる道があるわけ』
「なるほど。それで? i寮の道がある方向は?」
『多分右よ』
「多分って言った?」
『右よ』
「今多分って言ったよね!?」
『いいから歩いて!』
「わかったよぉ……」
ティアラの言うとおりに、学園の壁に沿ってティアは歩く。するとやがて大きな道が見えてきて、その先に寮があるのが見えた。
「ねぇティアラもしかしてあれ?」
『多分そうよ』
「さっきから多分多いね」
『うるさいわね』
「……そう言えばさ、入学式とかっていつあるの?」
『入学式ってなによ? そんなものないわ』
「え? じゃあただ学園に入ったら入学完了みたいな感じ?」
『いや、入学祭があるわ』
「何それ!」
入学祭、その響きにティアは目を輝かせてティアラに聞き返す。
『そのままよ。入学を祝うお祭りみたいなもの。都市全体で行われる恒例行事ね』
「ほへぇ……。で? それはいつあるの?」
『四月一日、明後日よ。それについて、明日学園で説明があるらしいわ』
「なるほどねぇ」
うんうんと頷きながら、ティアは納得の意を表す。
それからティアは歩き続け、やがて寮の前までやってきた。
寮は横幅二百五十メートル、高さ十八メートルくらいの大きさだ。奥行きは二十メートルくらいだろうか。
「ティアラ、さすがに寮内はまずいから代わろ?」
『そうね』
そうしてティアはティアラへ体の主導権を受け渡す。
それを受け取ったティアラは、手を何度かグーパーして体を慣らし、それから寮の中へと入っていく。
入ると、カウンターのような場所があった。
「あの……」
「お名前は?」
「ティアラ・フォーカムです」
「ティアラ・フォーカムさんですね。部屋は六百六十六号室です」
『六百六十六!? 六六六ってなんか不吉だなぁ……』
そう思いを零すティアを無視して、ティアラは言われた部屋を目指した。
しばらく歩くとたどり着き、ティアラは扉を開けて中に入る。
「ベッドが三つあるわね。三人部屋かしら? まだあたししか来てないみたいね」
『今のうちに荷物整理したら?』
「そうね」
そう言ってティアラはカバンを置き、タンスに服を入れたり、机の上をセッティングしたりする。
真剣は机に立てかけ、櫛は机の上のはじっこに置く。
それを最後にティアラはベッドに腰を下ろし、荷物整理の終了に一息つく。と、その時、部屋の扉が開いた。
「ん?」
反射的に振り返ると、そこには少女の姿があった。
ふんわりとしたウェーブがかかる金色の長い髪が揺れ、淡く光る綺麗な金色の瞳がこちらを見ていた。
少女の身長は百四十センチくらい。体格は普通で、顔立ちは幼い。
その少女を、ティアラは知っている。――レリーファだ。




