第一章12 『ごめんなさい』
食事の時間になり、ティアラは再び食卓へと訪れた。のだが、たくさんの様々な料理が並べられていて、ティアラは思わず目を見開かせる。
すでにアドバンとアミリスは席についていて、ティアラを待っていると言わんばかりに視線はこちらへと向いていた。
ティアラはミャミュに促されるままに、後ろへ引かれた椅子に腰を下ろす。
するとアドバンとアミリス、ミャミュが目でコンタクトを取り、息を合わせて口を開く。
「「ティアラ」」「ティアラちゃん」
「ひゃい!?」
「「「誕生日おめでとう!」」」
重なる祝辞に、ティアラは意図せず目を見開く。直後、頬が緩んだ。
「ぁ、ありがとう?」
「なんで疑問形なのよ」
「いや、だって、いつもより豪華だったから、驚いて……」
「それはまぁ、誕生日はその歳が大きければ大きいほど盛大に祝うのが普通だしね、いつも通りってわけにはいかないよ」
「それは知ってたけど、こんなにとは思ってなくて」
「今回は一味違った贈り物もあるからな。期待しとけ」
「うん」
「さ、ティアラちゃんごはん食べて。今日は私、いっぱい頑張ったんだから!」
「ありがと」
そう言ってティアラはたくさん並べられた料理を何個か選び、自分の皿まで運んだあと、その一つを口に含ませる。
「おいしい」
「ホント!? 嬉しいなぁ、ふふん」
満面の笑みを浮かべたミャミュが嬉しそうに飛び跳ねる。
その若干素が出たミャミュの姿に頬を緩まし、ティアラは食事を続ける。
こうやって自分の誕生日を祝ってもらえるのは、とても嬉しかった。いつも通りの他愛のない会話をしながらの食事も、誕生日というだけで特別なものに感じられる。
あっと言う間に食事の時間は終わりに向かい、三人の食事のペースが遅くなり始めた頃、アミリスがミャミュに言う。
「ミャミュ、そろそろ……」
「うん!」
「お母様?」
アミリスの言葉を聞いて食器を片し始めるミャミュを前に、ティアラはアミリスが何をするのかと小首を傾げる。
そうして食卓が片付くと、ミャミュが奥からホールケーキを運んでくる。
「ケーキ?」
「アミリスが作ったんだよ?」
「え?」
「ちょっとミャミュ! 言わなくても」
「いやせっかく作ったんだから言わないと、ね?」
そう言ってティアラにウインクをするミャミュ。
「あっそっか。だからさっき厨房で料理してたんだ」
「え!? ティアラ見てたの!?」
「え? えぇ……」
「そっかぁ。バレちゃってたのかぁ」
「あっいやっ、でも、あたしのために作ってくれてるとは思ってなかったから」
「そうなの? ならビックリさせることはできたのね」
と、安堵に胸をなでおろすアミリス。それからアミリスは覚悟を決めた顔でティアラを見て、言う。
「じゃあティアラ、食べて……」
「ぇ、えぇ……」
その真剣なアミリスの視線に、ティアラはちょっとばかし緊張感が募る。
いつの間にかミャミュの手によってちょうどいいサイズに切り分けられたケーキが、それぞれの皿の上に乗っかっている。
ティアラはそれをフォークで一口サイズにして、それから口に運ぶ。ゆっくりと咀嚼して、味わって、それから飲み込む。
そして――、
「ちょっと、甘い……」
「たしかにちょっと甘み強いな……」
「――っ! アミリス!? 私が見てない間に砂糖増やしたでしょ!」
「ぁ、ちょっとだけ……ね?」
「ね? じゃない! そんなことしたら甘ったるくな――っ」
「でも!」
ミャミュの言葉を遮るように言って、ティアラは続けて口にする。
「……でも、うれしい」
アミリスが自分のためにケーキを作ってくれたことが、嬉しかった。
ちょっとばかし甘さの強いそのケーキの味が、ティアラの涙腺を緩ませる。必死に涙をこらえようとしたが、それよりも先に視界が歪むのが分かった。
「ティ、ティアラ!?」
「あっ、いや、違うの、ただ嬉しかっただけで……」
「そ、そんなに?」
困惑したような顔をしておどおどするアミリス。
涙を指で拭いながら、ティアラは笑みを浮かべて言う。
「うん、嬉しい。お母様、ありがとね」
その言葉を受ければ、アミリスは安心するような笑顔を向けてくれる。
「それじゃあいっぱい食べるかティアラ! 甘いが、それほど気になるわけじゃないしな!」
「うん!」
そう言って、ティアラとアドバンとアミリスはケーキを食す。
「もうティアラも十歳かぁ。学園入学もあとちょっとだもんね」
「そう言えばティアラ、発表の内容は考えてるのか?」
「――っ、発表……」
「ティアラ?」
「ちゃ、ちゃんと考えてるわ。安心して……」
心配の視線を向けるアミリスに咄嗟に返して、それからティアラは視線を落とす。
やがて三人ともケーキを食べ終わり、ちょっと残ったケーキをミャミュが厨房に戻してくると、アドバンが口を開いた。
「よし、食事も終わったことだし贈り物を渡すか!」
そう言って立ち上がったアドバンが、背中の後ろにプレゼントを隠したまま、ティアラの前までやってくる。
「ほい、ティアラ」
「これ、は?」
「耳飾りだ」
差し出されたのは全体的に金色で装飾されたイヤリングだった。先に青銀色の綺麗な石がぶら下がっている。
「石言葉は『大切な人』、だ。この石をもらった人には、ここぞという時にささいな幸運が舞い込むらしい……んだが、どうやら家族や恋愛感情を持った相手に渡しても効果はないらしい。だから、いつかティアラが大切だと思ったやつに、渡してやるといい」
「うん、わかった」
「ほら、つけてやるよ」
そう言ってティアラの耳にイヤリングを付けるアドバン。
「うん、似合ってるぞティアラ!」
「ありがとう」
「それじゃあ次はお母さんね?」
そう言って立ち上がったアミリスが、自分の傍に置いてあったプレゼントを手に取り、背中の後ろに隠したままティアラの前までやってくる。
「私からの贈り物はぁ! これ!」
「――っ! え、これって……」
「そう、真剣よ。学園に入るなら、持っておいた方がいいと思って、買っちゃった」
驚きに目を見開きながら、ティアラはそれを受け取る。
「刀身、見てもいい?」
「うん、いいよ」
その言葉を聞いてティアラは早速鞘から剣を引き抜く。
すると――、
「わぁ~!」
全体的に見てシルバーと言った色合いだ。
剣先には三日月の模様が刻まれ、刀身のあちこちに花びらが描かれている。そのデザインは自然と儚さを感じさせた。
鍔の中心には青銀色の宝石が埋まっており、持ち手部分も他と同じく白銀色と言ったところ。
柄頭の裏には四つの魔法陣が、四角の頂点の位置に存在する。
剣の全長は一メートルと言ったところ、少々ティアラには長いすぎるように思えた。
「お母様、これ……」
持ち上げることはできる、がどうにも振り回せるとは思えない重さだった。
しかし、そんなティアラを見てアミリスは『ふふん』と笑みを浮かべる。
「ティアラ、その剣にソースを流してみて」
「ソース? わかった」
ティアラは言われた通りにソースを込める。
すると四つの魔法陣が白銀色に光りだし、その四つの魔法陣の一センチ手前に、一回り大きい白銀色の魔法陣が生成される。
そしてその瞬間、剣が軽くなる。
「え?」
「この剣はね、込められたソースの量に応じて剣の重さが軽くなるの。それに加えて、ティアラのソースじゃないと反応しない特別製よ」
「それって高いんじゃないの……?」
「ティアラのためだもん。だから学園でもがんばってね?」
「お母様……」
涙が込みあがってくる。
嬉しさと――――の混じる涙が、ティアラの瞳から零れ落ちる。
そんなティアラを見て、アミリスは優しく微笑み涙を拭いながら言う。
「まったく、今日のティアラは泣き虫ね……」
「ごめん、なさい……ごめんなさい……」
「いいのよ? そんなに喜んでくれるなんてうれしいもん」
「ティアラちゃん、私からも贈り物」
そう言ってミャミュが差し出してきたのは、明らかに高級な櫛だった。
「学園では私がティアラちゃんの髪を梳いてあげられないからさ。色はティアラちゃんの髪の色と同じにしたの。どうかな。――わぁ!?」
追い打ちをかけるようにミャミュからプレゼントを受け取れば、ティアラは思わずミャミュに抱き着く。
「あ! ミャミュズルい!」
「ふふん」
ティアラに抱き着かれていることに嫉妬するアミリスと、あからさまに嬉しそうにするミャミュ。
そんな三人を、アドバンが微笑ましそうに見つめていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『ティアラ、学園入学ってなに?』
プレゼントを受け取り、部屋に帰ってきたタイミングで、ティアはずっと気になっていたことをティアラに問う。
「そのままよ。あたしは数日後に学園に入学するわ」
『数日後? そんなの聞いてないよ!?』
「言う必要がなかったからよ」
『ふ~ん……そう言えば、発表とかって言ってたけど、それは?』
「それは……加護を授かった者は、入学際の時に加護をどう使っていくか、発表することになってるから、そのことよ」
『加護?』
「特別な能力のことよ」
『ティアラはそれ持ってるの!? すごいじゃん』
「すごくないわよ。こんなの、ない方が……」
『ティアラ?』
「なんでもないわ。ティアには関係ないし……」
そう言いながら、アミリスからもらった剣を鞘から抜くティアラ。
『それ、綺麗だよね』
「うん……」
『それに鞘のあちこちに花が刻んであって、鞘先には満月がある。剣を鞘に戻すと、刀身に描かれた散った花と三日月が、満開の花と満月に変わるように作られてる』
それはまるで壊れてしまったものを完全体で上書きするかのようだ。
「そうね」
淡々とした返事を返して、ティアラは剣を鞘に戻す。
「あたしには、こんなものもらう資格なんかないのにね……」
『え?』
「変なこと言ったわ。忘れて……」
そう言って、視線を落とす。
その声音は、とても悲しみに満ちていた。
それを何とかしてあげたいと思っても、ティアは口を開けて閉じるだけに終わってしまう。
静まり返ったティアラの部屋には、妙な寂しさが募るばかりだった。




