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第一章10 『贈り物』


「やったぁ! 勝ったぁ! やったねティアラちゃん!」


「うん」


 一番目にミリティアとティアラの手札がなくなり、ミリティアは歓喜の声を上げる。

 その嬉しそうな様子を見れば、ティアラは思わず頬が緩んだ。


「そう言えばアミリス、このあとどこか行くの?」


「そうね、王都をぶらぶらしようと思ってたけど。それか、ティアラが行きたいところがあったらそこに行こうかな」


 そう言いながらアミリスは視線で質問してくる。


「行きたい場所、図書館……」


「そっか、ならそこに行こ」


「私も行きたい……」


 そう言うと、ミリティアはアルの方へ視線を向けて――、


「はぁ、行ってこいよ。その代わり貸し一つな」


「ならその借りは体で」


「いらねぇ」


「否定が早い!」


 ひどい、とばかりに吠え、ミリティアはあからさまに視線を落とす。


「ミリティアさん?」


「ん? なに?」


 ミリティアを心配して声をかけるも、返答する声は明るかった。


 気のせいかしら……?


「ティアラちゃん?」


「ううん、何でもないわ。それよりもミリティアさんも一緒に行くの?」


「うん! あっでも、二人がよかったらだけど……」


 そう言ってアミリスとアドバンへ視線を向ける。


「別にいいぞ、な? アミリス」


「うん」


「やった!」


 ミリティアは満面の笑みで喜んで、ティアラに微笑みかけるのだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 トランプを終え、四人は図書館へと来ていた。


『大きいねこの図書館』


「王都に一つだけの図書館よ。だからかしらね?」


 アドバン、アミリス、ミリティアの三人には本を読むテーブルで待っていてもらい、ティアラは本を探しに来ていた。


「そう言えばさっきトランプに反応してたけど、どうしたのよ」


『あぁ、それはトランプやババ抜きがわたしのいた世界にあった遊びだから、驚いちゃって』


「……ふ~ん、もしかすると昔にあんたと同じくこの世界に来た人がいたのかもしれないわね」


『わたしもそう思ったんだけど、言語も同じなわけじゃん? もし言語もその説で世界に広がったのだとしたら、矛盾するんだよ』


「矛盾?」


『うん、というか広がることがない。だって、仮にもうこの世界に言語が出来ていたとしたら、その異世界転移者は会話ができないでしょ? 言語が出来てなくても同様に。だからどっちにしろ、日本語が広がることがないの』


「たしかにそうね」


『だから、単なる偶然ってのが一番有力かなって思ってる』


「なるほどね」


「ティ~アラちゃん!」


 と、突然背後からリズム良く名前が呼ばれる。


「ミリティアさん」


「ふふん」


「――?――」


「はいこれ、誕生日おめでとう!」


 そう言って差し出されたのは、長方形のコンパクトな黒色の木製の箱。大きさはティアラの両手に収まるくらいだ。

 ティアラはそれを受け取ると、開けていいかとばかりにミリティアを見る。


「いいよ。開けてみて」


「うん」


 開けると、中にはいかにも高級そうな羽ペンが入っていた。


「羽根ペン?」


「そう! しかもね? これインクが切れないの! すごいでしょ!」


「そ、それって高いんじゃ!」


「そこはおねぇさんの太っ腹だから、ふふん!」


 胸を張って言うミリティアを前に、ティアラは嬉しくなって思わず頬が緩む。


「ありがとう。大切にするね」


「うん。それじゃあ、あっちで待ってるからね!」


 そう言ってミリティアは行ってしまう。

 その背中を見送って、ティアラは再度喜びの余韻に浸るのだが、


『ねぇティアラ! 誕生日ってなに!? そんなのわたし知らなかったんだけど!! 何も準備してないよわたし!』


「別にあんたからもらうものなんかないわよ」


『ティアラひどい!』


「あんたは、傍にいてくれるだけでいいわ」


『え……ティアラがデレた!!』


「デレてないわよバカ!」


 そう、ティアラは顔を真っ赤にして吠えるのだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 それからティアラたちは昼食を摂ったり、王都をぶらぶらと歩いて時間を潰した。

 ミリティアとは昼食を摂ったあとに別れたのだが、物凄く名残惜しそうな顔をしていた。

 そろそろ帰るということになり、ティアラたち三人は門へ向かう。すると、門の警備の人と会話をしている男がいた。

 その男は、二十代後半ほどだろうか。紫色の髪を低い位置でポニーテールに結んでおり、同じ紫色の瞳が警備の人へ向けられていた。男らしい顔立ちで、深い紫のマントを羽織っている。装飾は少なく、動きやすさを重視した王服――その服装から、身分の高さが窺えた。

 警備の人と何やら話しているようだが、その様子はどこか気さくで、堅苦しさは感じられない。


 ティアラはその男を知っている。――国王だ。


「メイザス?」


 ちょうど警備との会話を終えたタイミングで、アドバンが話しかける。


「ん? アドバンじゃないか。今日は休みじゃなかったか?」


「ちょっと出かけにな」


「そうか……」


 そうやって会話するアドバンたちを横目にしていると、ティアが聞いてくる。


『ねぇティアラ、この人誰?』


「国王よ」


『国王!? そ、そっかぁ、なんかイメージと違う……』


「まぁ、それは同感ね」


 と、ティアと話しているとメイザスの視線が突然、ティアラへ向く。


「ん、ティアラちゃんじゃないか。誕生日おめでとうな! 贈り物は~……ごめんな、考えてなかった。えっと~……」


 しゃがんで自分のポケットをまさぐるメイザス。


「ぃ、いいんです。会う予定じゃなかったんですから」


「いやいや、それでも何か上げたいところだ。あっこれとか! ん、あぁ~……」


 何かをポケットから取り出したかと思うと、それを見つめて困った顔をする。それからどうしようかと逡巡するメイザス。

 その様子に小首を傾げていると、


「ティアラちゃん手出して」


「は、はい……」


 言われた通りに手を出すと、その手の中に何かを握らせる。それからメイザスは小声で『お母さんたちには秘密だぞ?』と耳打ちする。

 その行為に目を丸くしつつも、ティアラは握らされたそれを手を少し開けて確認する。確認、して――、


「ぁ……」


 思わず喉が鳴り、口が開いたままになる。

 それは硬貨だった。しかも一番価値の高い硬貨――金剛貨だ。


「必要になったら返してもらうことになるけど、それでもいいか?」


 ティアラは全力で首を縦に振って肯定する。

 ポケットに入れることすらできない。もしポケットから落ちたら大問題だ。ゆえにティアラはしっかりと力を入れて金剛貨を握る。


『ティアラ、それってなに?』


「あとで説明するわ……」


 ティアの質問に緊張感に満ち溢れた声で返して、ティアラは立ち上がったメイザスを見る。


「何を渡したの?」


「ちょっとしたお小遣いだ」


「それよりメイザス、お前こんなところで何してたんだ?」


「国民との交流は国王として当然だろ? それだけだ」


「それだけって! お前レリーファちゃんの件で大分憔悴してただろ! 無理すんじゃねぇ!」


「――っ! 声がデカいぞアドバン! 今のが国民に知れたら不安がられて……」


「メイザス!」


 圧のあるアドバンの声。

 その銀色の瞳は真剣に、メイザスの顔を捉えていた。

 アドバンの本気が伝わったのか、メイザスは両手を軽く上げて降参を表明する。


「わかったよ。今日はもう帰って休む」


「あぁ、それでいい。お前はこの国の要なんだ。国民のことを思うなら、自分の心身を大切にしろ。大変なら、俺たちを頼ってくれてもいい」


「ありがとうな。じゃ、俺は帰るよ」


 それを最後に、メイザスはその場を去る。

 その背中を見送ってから、ティアラたちは帰路を辿るのだった。

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