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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どんな手を使ってでも有名になろうとした幼馴染と同窓会で再会した

作者: パミーン

ちょうど成人式くらいのころの話です。僕の大学の同期だった奴の中に、同級生でAV女優になった人がいたみたいで、「何とも言えない気分になった」と懐かしんでいたのを思い出して、くだらないことを考えながら書きました。

「はあ、式典長かったな。まあでもそれは仕方ないからな。それよりこれからが楽しみだ。」


 今日は二十歳の集い。先ほど式典が終わったところだ。ただただ長い間、椅子に座って市長やお偉いさんの話を聞くだけのつまらない式典だった。


 凝り固まった体をほぐすために背伸びをする。ぐーっと体を伸ばしながら左右に体を倒すと固まった筋肉が伸びて気持ちがいい。


 これから中学の同窓会、高校の同窓会が控えている。俺はもう二十歳を迎えているからお酒も飲める。俺はお酒が飲める体質でそこまで弱くないからお酒を楽しめるというのもあって同窓会が楽しみだ。


 まずは中学の同窓会から。俺は会場である駅前の居酒屋へと向かう。ああ、そういえば中学の同窓会となるとあいつが来るかもしれないんだな。いや、あいつはもう俺達とは全く違う世界にいるんだから来ないだろう。


 居酒屋の暖簾をくぐると長机が置かれており、そこに見知った顔が受付をしていた。どうやらここで受付をするんだな。


「〇〇中学校の同窓会の受付で間違いないですか?」


「はい、名前を教えてもらえますか?」


「松永公太です」


「えーっと名簿の……、松永、松永……、あった!松永君久しぶりだね!僕の顔は覚えているかな?」


「ああ、中学卒業して以来だけど分かるよ。大塚だろ?」


 大塚康史、俺の中学の時の友人だった奴だ。こいつとは結構気があって遊んだりもしたことがある。ただこいつとは3年の時に縁を切った。ある事情があってな。


「覚えていてくれてよかったよ。それとあの時は本当にごめん。今日はどうしても君に謝りたくて参加したんだよ」


「いや、いいんだ。もう過ぎたことだし、別に気にする必要もない。それに大塚だけじゃないからな」


「まあ……、うん……、そうだね。今日はほとんどの人が参加しているよ。なんでかは分かるかと思うけど」


「え!?もしかしてあいつが来てるからとかなのか?」


「そうだよ。聞いてなかった?」


「いや、全く……。そうか、あいつが来てるのか」


 俺は受付奥の宴会場への扉の方へ顔を向けた。あの先にあいつがいるのか……。あいつとはなるべく顔を合わせないでいよう。って言っても俺のことなんかとうに忘れているだろうしな。


 会場に入るとかなり広い宴会場となっていた。仕切りをできる限り外していて少なくとも俺達の学年のやつらが全員入っても問題はない広さだ。ここってこんなこともできるんだなと感心した。いつもは個室で少人数で飲んでいるからこんな広さの宴会は初めてだ。


 ふと人だかりができている場所があったので目がいった。そこにはあいつ——桃園胡桃、俺の幼馴染が男女に囲まれて談笑している姿があった。





 俺、松永公太と桃園胡桃は寺山楓というもう一人の幼馴染の三人で小さい頃から仲が良く、常に一緒にいた。俺は特にこれといった特徴もない普通の子供だったと評価している。だが桃園胡桃は見た目からして可愛らしく、ぶりっ子と言われるほどではないが行動が妙に男心をくすぐるような美少女だった。一方の寺山楓はサッカー一筋で小学生に入る前からサッカー教室に通っていた。


 そんなバラバラな三人だったけど、不思議と気が合い、小学校低学年の時は楓がサッカーに行く時間まではずっと三人で遊んでいた。


 ところが高学年に上がる頃から胡桃がこう言い始めた。


「有名になっていっぱいお金を稼ぎたい!」


 胡桃の家は少々複雑で、両親が離婚してどちらも胡桃を引き取らなかった。それで父親の弟夫婦が胡桃を引き取ったんだけど、いやいや引き取ったからなのかネグレクトされていた。常々家に居づらいことを俺と楓に愚痴っていた。


 だから多分自分で稼いで早く自立したかったんだろう。学年が上がるにつれてそういうことを口にすることが多くなった。


 それもあって俺は胡桃が心配で仕方なかった。なるべく家に帰るのを遅くしてあげるために我が家へ夕食に招待したり、たまに泊まらせてあげたりと気を遣っていた。


 そうしている内に俺は胡桃のことが好きになっていた。もちろん容姿や仕草といった「見た目」から惹かれるところもあったが、やはり彼女の優しさだったり守ってあげたくなる「中身」に惹かれていた。





 小学校を卒業後、俺と胡桃は同じ中学に、楓はサッカーが上手くなりたいからとサッカーに力を入れている私立中学へと進学していった。この中学の時に俺と胡桃の間に完全な亀裂が入ることになる。


 それは中学2年の時だった。ある時胡桃が髪を染めて制服を着崩し、ギャルと言われるファッションで学校に来出すようになったことがきっかけだった。


 彼女の見た目は思春期を経て、色気のある体つきになっていた。それにギャルという要素も加わって男子を魅了した。そこから彼女はとんでもない行動に出た。


「パパ活」というやつだ。


 1日2万円で見知らぬ男と一夜を共にする。そうすることで家に帰らずに済むし、お金も稼げる。一カ月そういう生活をすれば月に60万円くらい稼ぐことになる。それに味をしめた胡桃はそんな生活を始めたのだ。


 最初はそういう噂があるという話が俺の耳に入った。流石にそれはないだろうと胡桃を問い詰めるとあっさりと認めやがった。


 俺は好きな人がそんなことをするとは思ってもなかったし、簡単に体を明け渡すとは思っていなかったから物凄いショックを受けた。それでも俺はこれ以上彼女が傷ついたりするのは良くないと思って辞めるように諫めたりもした。


「私はどんな手を使ってでもお金を稼ぎたいの!そして早くあの家を出たいの!あんたにはあの家でいることの苦痛なんて分からないでしょ!私に二度と関わってくるな!」


 そう言われて何も言えなかった。俺の家は金持ちでもないが貧乏でもない。普通の家族で普通の幸せがある家庭だった。彼女の言うように家にいることで苦痛を強いられる生活ではなかったので彼女の気持ちが分からなかった。


 その一言がきっかけで彼女とは疎遠になった。問題はそこからだった。彼女は俺達の学年——いや、中学校の男子にも手を出し始めたのだ。先輩後輩関係なく。


 先ほどの受付をしていた大塚も胡桃と関係を持った男子のうちの一人だ。『彼女は一日2万円で一夜を共にする』、この言葉通りかどうか確かめた同学年の男子が始まりだった。彼女は2万円であっさり手を打ったんだ。


 そこからはお金さえ払えば肉体関係を結べる。しかもとびきりの見た目を持つ彼女とだ。思春期というのもあるだろう。男共はこぞって彼女と関係を持った。


 俺は胡桃の「中身」に惚れたはずなのに、いつのまにかその「中身」も全く違うものになっていたことに気づいた時、俺の力ではどうにもならないことを悟った。


 ただ、胡桃とそういうことをしないような奴らと付き合うようになった。それでも胡桃の魅力に惹かれて手を出してしまうやつもいた。それが大塚だ。先ほどの謝罪は友情よりも欲情に走ってしまったことへの謝罪だったというわけだ。


 もう俺の中では終わったことだ。俺の力ではどうしようもなかったこと。それと彼女への失望もある。だから今日俺が楽しみで同窓会に来たのは彼女に会いたかったからじゃない。彼女の誘惑に負けずに俺と友達付き合いをしてくれた奴らと酒を交えて親睦を深めたかったからだ。





 同窓会が始まって2時間、すっかり場は3つのグループができあがっていた。ひとつは胡桃を中心としたグループ。男子だけかと思ったが、女子もそこそこにいる。それは今彼女の地位が遥かに高いことが関係している。


 中学卒業後、彼女は高校へと進まず俺とは完全に音信不通となった。聞いた噂では有名になるために東京へ出てモデルやらなんやらをやりながら体を売っているというのは聞いたことがあった。


 そして18歳になるや彼女はAVデビューを果たす。それが多くの男を魅了し、一躍トップ女優に躍り出た。そこからSNSを通じてインフルエンサーとなり、男女問わず魅力ある女性として活躍しているんだ。


 だから男子だけじゃなく、興味のある女子も胡桃を囲っている。なんせ体を売りにしているから美容だとかダイエットだとかそういう分野の知識も豊富だ。自分も彼女のように魅力ある女性になりたいという女子もいるわけだ。


 もうひとつのグループはそんな胡桃に嫉妬しているグループ。こちらも男女問わず集まっており、遠くから胡桃を見ては僻んでいる。俺は彼女がどんな手段を使ってでも有名になりたいと言っていたから今あのような有名なインフルエンサーになれたのだったらそれでいいと思っている。


 だけどそもそも体を使って有名になるというのはあまり外聞がよくないのは確かだ。あいつらはそれを肴に酒を飲みながら文句を言っている。そんなことして楽しいのかなとは思うが。


 そしてもう一つのグループが俺のいるグループ。そんなことどうでもいいから思い出話に盛り上がろうぜのグループだ。俺がいるくらいだから、中学時代、胡桃の誘惑を跳ね除けた強者どもだ。なぜかこちらに大塚もいるが、まああいつとは縁を切った関係だしあまり気にはしていない。とにかく中学時代のくだらない話が楽しくて時間を忘れてしまうくらいだ。


 そろそろ宴も酣、俺のグループにいた生徒会長だった奴が最後に締めの挨拶を言って同窓会が終了した。俺は次の高校の同窓会に行かなくてはいけない。俺の進学した高校にはうちの中学出身の奴はいない。それはある理由があってだな……っと誰かが俺を呼んだみたいだ。


 振り返ると胡桃がいた。胡桃はこんな寒い中にも関わらず露出の高い格好をしている。そんなに胸を主張したり、脚を見せるために短いスカートなんて履かなくても十分に今の存在をアピールできるというのに。


「ねえ、あんた全く私のところに来なかったじゃない。どういうこと?」


 お前が二度と関わるなと言ったからじゃないか。何をいきなり言うんだこいつは?という顔をしていたんだろう。


「そんな顔しなくてよくない?とりあえずさ、そこの公園でちょっとだけ話をしようよ」


「俺は次があるから本当に時間がねえんだ。だからほんとにちょっとだけな」


 そう言って俺と胡桃はすぐ近くの公園に向かった。





 この公園も5年ぶりだ。胡桃と疎遠になってからはよく中学校の帰りにここに寄ったもんだ。そんな感傷に浸りながらベンチに座るように胡桃が促す。それに従って胡桃の隣に座った。


「5年ぶりだね、公太。元気にしてた?」


「ああ、元気にしてたよ。お前は……、聞かなくても大丈夫だな」


「何それ!ちょっとは心配してくれてもよくない?」


「いや、今や話題のインフルエンサー様なんだから心配する必要もないだろ。どうだ有名になってお金を稼げるようになって。最高だろ?」


 とりあえずそういって煽てておけば大丈夫だろと思って言った言葉が不味かったのか彼女の表情に陰りが差した。


「うん……、有名になれたし、お金もものすごい稼げてる……。……だけど、今日この場に来て何か違うって思っちゃったんだ……」


「ほう、胡桃がそんなことを言うなんてな。何が違ってたんだ?」


「公太言ってたじゃん、『もっと中身を大事にしろ』って。さっきも今も、私を『見た目』だけで見てる人たちばっか。それに気づいた瞬間に公太の言葉を思い出して……。それで公太に声をかけたの。私、間違ってたのかなってさ……」


「いや、間違ってないんじゃないか?お前は『有名になってお金を稼ぎたい』って言ってたんだから。それが叶ったんだ。手段を選ばずとも実現させる力を持ってるお前はすごいと思うよ」


 そう、お前はお前のやり方で力を手にしたんだ。でもな、こっちには……。


「おーい、こうちゃーん!迎えに来たよー!」


 向こうから俺を呼ぶ声がする。なんだ、もう来たのか。早すぎるだろ。


「え?誰?こんなきれいな人!公太これは一体どういうこと?」


「あれ?もしかして胡桃()()()?久しぶりだねー!元気にしてた?」


「なんで私の名前を知ってるの?あんた一体誰よ!」


「ひどいなー、()のことを忘れるなんて!楓!寺山楓だよ!」


 胡桃、え?って顔してるぞ。こいつはどう見ても楓だろうよ。


「楓()!?も、もしかして女だったの!?」


「え!?」


 ほら見ろ楓。自分が悪いんだぞ!小学校の時は「()()」呼びしてたし、サッカーに熱中し過ぎてたから男と間違われてやんの!


「胡桃、楓は元から女の子だ。それからお前は知らないだろうけど、こいつもインフルエンサーでな、そこそこ有名なんだよ」


「うそ……。そんな……。こんなの勝てっこない……」


 胡桃、何勝ち負けを気にしてるんだよ。お前の方が十分に有名なんだから。それよりなんで楓が勝ち誇ってんだよ?


「こうちゃん、顔に出てるよ!そりゃあの()()()()()に勝ったんだもん!当然でしょ?」


 ああ、大園カンナってのは胡桃の源氏名な。AV女優なんだから本名でやってたらどうしようもないだろ?てか楓は胡桃の何に勝ててそんなに嬉しそうなんだよ?


「まあこうちゃんには分からないだろうね!にしし!」


 分からなくても、いつものようにその笑顔を見りゃ十分だ。俺は立ち上がって楓の横に立つ。横から楓が俺の腕に絡まり、胡桃に告げる。


「これからこうちゃんと高校の同窓会なの!こう見えて私達付き合ってるんだ!もう時間ないから行くね!またねー!」


 楓に引かれながら公園を去る。遠くで女性のすすり泣く声が聞こえた気がした。

登場人物


松永公太

主人公。見た目よりも中身を重視する男。最初は桃園胡桃のことが好きだったが、中学の時に変わってしまった胡桃を見て恋が終わる。高校で再会した寺山楓のサポート(後述)を買って出たことで楓との距離が近づき、胡桃への酷い恋を乗り越え恋人となる。


桃園胡桃

負けヒロイン。どんな手を使ってでも有名になり大金を稼ぐことを実現した女。愛のない家庭で育ってしまったが故に間違った愛で成長してしまう。本当は同窓会で公太と再会し、愛を告白するつもりでいた。


寺山楓

勝ちヒロイン。出番がほとんどないにも関わらず最後に一番いいところを搔っ攫う女。胡桃からは男と間違われているが元々女(文中も男とは一言も書いていない)。サッカーのために女子サッカーの強い私立中学に進学するもケガにより離脱。やる気のない生活を送っていたところで中学の公太と再会。ケガから復帰するサポートを買って出た公太と同じ高校に進み、紆余曲折を経て恋人となる。公太が来ると思っていたよりも楓が早く二人の元に駆け付けたのは女の勘。


大塚康史

作中ではどうでもいい奴。公太との友情よりも胡桃への欲情が勝った男。同窓会ではしれっと公太側にいたが、周りからは「なんでこいつここにいるの?」と思われていたことに気づいていない。


生徒会長

名もなき強者どもの一人。生徒会長を全うするという精神力で胡桃の魅力を跳ね除けた漢の中の漢。本人が名前を公表してほしくないということだったので名前は出していない。



ちなみに胡桃は自然界で育ったワルイドエッチギャルに対して、楓は公太が育てた清楚オブザ清楚美女な見た目をしています。共にインフルエンサーですが、格は胡桃の方が遥かに上。でも恋人としては楓の方が遥かに格が上。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
>だけどそもそも体を使って有名になるというのはあまり外聞がよくないのは確かだ。あいつらはそれを肴に酒を飲みながら文句を言っている。そんなことして楽しいのかなとは思うが。 同意 主人公大人よ 同時にそう…
昔ですがテレビでAV女優がでてましたね~~。 何考えてるんだかと思いました。
色んな意見の人が居ますが、個人的にはエピローグと言いますか。会長っ! やっぱ男の中の男の中の漢の中の漢です!(?) 生徒会長……凄まじい精神力です。
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