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第5話 (非)日常の入口

目覚ましの音で目が覚める。


時刻は6時55分


(自分の家じゃない場所で目覚めるのなんて久しぶりだ)


起き上がり、部屋を出て階段を降りる


すると珈琲の匂いが漂ってくる


(いい匂い……)



「おはよう、昨日は良く眠れたかな?」

とカウンターチェアに腰掛け、何かを飲みながらブラウン管テレビのニュースを見るXの姿があった



「おはようございます……」

(なんでここで寝てたんだっけ…)

昨夜の事を思い出す




「不良に報復されては危険だ、だからこれからは住み込みで働いて貰うよ。」

突拍子もなくXは言う


「いや、でも荷物とか…着替えも無いですし…」

ここには手ぶらで来てしまっている


スマホと財布のみ。


「それならここにある」

Xは別の部屋から大きなキャリーケースを持ってきた


「これは…?」

開けると、中には僕の洋服や本が入っていた



なぜここに自分の物があるのだろう?


しばらく考えた後、

「まさか僕の部屋に勝手に入ったんですか…!?」

思わず大きな声が出る


「侵入なぞ我々には造作も無いことだ。」

Xはケタケタと笑いながら言う


「そうですか……」


この場所で働くからにはプライバシーは守られないのか

と思ったが拷問をしてしまう人だ、不法侵入なんか何とも思わないんだろう。


「夜も遅い、早めに寝なさい。明日からここを手伝って貰うよ。」

「君の部屋はこっちだ。」

と僕の手を握り、別の部屋へ続く階段へ誘導する


「分かりました。」

少し重いが、キャリーケースを持ち上げ二階へと上がる



自分の部屋、と言われた場所はあまりにも簡素な部屋だった


窓が1つあるベッドが置かれただけの部屋


「家具とかは欲しければ言ってくれたまえ」

「それじゃあおやすみ。」


Xは大きなあくびをしながら部屋の扉を閉める


部屋には僕とキャリーケースが取り残された。

「とりあえず今日はもう寝よう……」


そのまま寝支度を始め、床に就く。




(そうだ、僕ここで働く事になったんだ…)

と昨夜の事を思い出す


「今日の夜はパーティーをするから、その前にここの社長に挨拶しておこうか。」

Xはカウンターチェアから飛び降り、テレビの電源を消す


「そろそろ帰って来る頃合いだ。」

と不健康なほど青白い、細い腕に着けた腕時計を眺めながら言う


「3.2.1…」

すると、




ピンポーン。




事務所のインターホンが鳴る


「怜君、開けてくれ。」

Xは出入り口を指さし、言葉通りに解錠し扉を開ける



そこには…



うつぶせで倒れている人がいた。



「………!?」

突然の事で思考が止まる


「だ、だだ…大丈夫ですか…!?」

一瞬間を開け、倒れている人に駆け寄る


白い髪、白い肌、白いフチのメガネ、顔は中性的で、そんな白いイメージを持つ身体とは正反対に黒いスーツを纏っている。


「ぁ………ぁぁ……」

とこちらに手を伸ばしながら、コヒュー、コヒューと息が漏れ出ている


「ああ…どうしよう…」


慌てていると背後から、

「怜君、避けたまえよ〜」

そんな声が聞こえたのも束の間、


バシャーンと僕と倒れている人に水がかけられる


かけられたバケツ一杯の水が口の中に入る

(…!?)


「かっ…!なにこれ、しょっぱ…!?」

どうやらかけられたのは塩水のようだ


「なにするんですか!?」

怒り口調で水をかけた本人に問いかけるが


「避けなさいといったろう?」

悪びれもせずヘラヘラしている。


(なんなんだこの人は……)

呆れていると、


「いや〜助かった助かった!」

いつの間にか倒れていた人が僕の背後から肩を掴み

「君が怜君だね!」


声から男である事がようやく分かった。


「あ、ええと…」

返答に困っていると


「私はここの社長の『1(ワン)』だ!よろしく!」

と自己紹介と共に手を差し伸べられる


「1さんです…か伊石怜です、よろしくお願いします…」

自分も自己紹介と共にそれに応える


「んむ、んむ!良いね!!」

Xは腕組みをしてこちらの様子を眺めていた

そして

「夜にはパーティーがあるからな!では2人共、玄関の掃除は頼んだぞ!」

と物凄い速度で研究室へ帰って行く


水浸しの玄関に取り残された長身の男と自分

2人キョトンとした顔でしばらく立ち尽くす


「まぁ、いつものことか…私は雑巾を持ってくるよ」

1さんはキッチンの奥へと進んでゆく




(あの人、どこかで見たことある気が……)

冬の始まり、一つのささやかな疑問が浮かんでは曇天の空へ消えるのだった。


(さむっ……)

なぜかルビがふれないのでここに明記しておきます

『1』の読み方は『ワン』でよろしくお願い致します

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