第4話 復讐代行
(いったい何が起こるんだろう?)
指定された夜も遅い時間に怪しげなネオンの光る建物のインターホンを押す。
しばらく待つと、
「やあやあいらっしゃい、準備は出来ているよ。」
中から出迎えて来たのは昨日出会った
白衣の少女、Xだった。
「ささ、おいでおいで」
昨日と同じ部屋に導かれる
相変わらず質素な部屋だが昨日と違うのは
人がいる。
そこにいたのは、
怜のいじめの元凶となった男だった。
その本人は目隠しをされ、手と足を縄で椅子に括り付けられている
「おい、どこだここは!?」
不良は大声で喚く
「なっ…」
「誰かも言ってないのに分かったんですか…?」
ひそひそと男に聞こえないようにXに尋ねる
「勿論!混沌街には色々な情報が売られているからな!」
こんな状況でも誇らしげだ。
「にしても昨日からいったいどうしたんですかそのテンション…?」
恐る恐る聞くが、
「そんな事は良いのだよ!」
Xはゴム手袋を嵌め、
男に向き直り、
「ではでは早速始めようではないか、」
「復讐代行を」
とXは何やら道具箱の様な物を取り出す
その間にも
「おい、こんなことしてどうなるか分かってんだろうな!?」
と男は叫ぶ
Xは道具箱から細い棒を取り出し、
「ここに『治癒』の能力が秘められた御香がある。」
と御香に火を付け男の右手の拘束を解く
「さて、これをどう使うでしょうか?」
「はぁ?」
男に考えさせる間もなく
「正解は………」
とXは男の手を優しく取り
いつの間にか握っていたサバイバルナイフを男の手の甲に突き刺す
包丁が不良の手を貫通し、刃先から血が流れる
「がああああ!」
不良の体がびくんと跳ね、悲鳴をあげる
「があっ!ぐぅっ…!!」
次の瞬間には泣き出し、暴れ始める
だが椅子は地面に固定されているようだ、椅子はびくともしない
Xはナイフはそのままに、男の耳元で人差し指を立てながら、
「しーっ…」
しばらくすると、
驚くことに傷から流れる血の量は徐々に少なくなり、やがて血が完全に止まる
「よいしょっと」
無情にもXはそのナイフを捻る
「くっ……ぐあぁ!」
血がボトボトと垂れるが、傷口はすぐに元通り。
すると男が何かに気付いたように
「分かった、怜だな?怜なんだな!?絶対に殺してやるからな!!」
と暴れながら叫ぶ
がXはそれに構わず
「怜君。」
「君はこいつにどんな痛みを、与えたい?」
Xはこちらを向き、言う
しばらく黙っていると
「何もしないのなら私が勝手にやってしまうぞ?」
Xは邪悪な笑みを浮かべ、道具箱からガスバーナーを取り出す
Xはそのガスバーナーを耳の穴に差し込むと、
「なんなんだよ…ひいぃ、嫌だ嫌だ嫌だ……」
男は嫌な予感がしたのか再び泣き出す
「大丈夫…痛いのは今だけだ……」
と笑みを浮かべながらガスバーナーのトリガーに指をかける
「や…やめて下さい!」
気付いた時にはXの腕を掴んでいた
「それはなぜだね?」
Xは不思議そうにこちらを見つめる
「僕がされてきた事はこれより酷い事だと思いますけど、良くない…と、思い…ます…」
根拠のない理論に語尾が小さくなっていく。
「うーん…」
Xは考えるようなフリをした後、
「依頼主がそう言うなら仕方がない。」
なんだか残念そうにしている
だが続けて、
「君は優しいんだな。」
と怜の頭を優しく撫でる
撫でられたのは昨日ぶりだがそれに比べてすごく温かく感じる
そしてXは懐からスマホを取り出し、
「メイ、人間を1人あそこまで送ってくれないか。」
と電話の向こうの人へ話しかける
しばらくしてXが電話を終えると、
「お、おい…帰れるんだろうな!?」
不良が尋ねる
それに対しXは面倒くさそうに
「ああ、何か変な事を起こさなければね。」
と言う
不良は息を呑み、沈黙する
しばらく経つと部屋の扉が叩かれ
「オ迎エニ参リマシタ。」
と扉の向こうから女性の声が聞こえる
やけに言葉が片言だ、外国人の人だろうか
Xが扉を開けると、
端正な顔立ちのメイドの格好をした黒髪の女性がいた。
その美しさに思わず見惚れる。
さっき電話で話していたメイさんと言うだろうか
「ありがとうメイ、それじゃ頼むよ」
とXは縛られたままの男を指差す
するとメイさんは、男を椅子ごと持ち上げ
建物の外へ運ぶ
物凄い力だ。
そのまま男を軽トラの後部へ放り投げ、
あっと言う間に去っていく。
男は叫んでいるが、通り道にいる人々は気にする素振りすら見せない
メイさんを見送ったあと再び建物の中に入り
Xはオシャレな部屋でソファに腰掛ける
怜もその向かい側へ腰掛ける
Xが切り出す
「これで終わりだ。だが……」
「このまま日常に戻ってもいじめは更に大変な事になるだろう」
Xは怜を指差す
「そこでだ!」
と腕をひろげ、
「君が良ければここで働かないか?怜君。」
Xがこちらをゴーグル越しに見つめる、
どうやらおふざけではなく本気らしい。
「あ、え…えっとその…」
(どうしよう…なんて断れば…)
と返答に困っていると、
「なになに…?伊石怜、16歳 能力無し 一人暮らしで身の周りに家族や友人、恋人はいない 趣味は読書、散歩 今日の夕食はレトルトカレー 今日の下着の色は黒色」
といつの間にか手に持っていた紙を読み上げる
「なっ!?」
自分のありとあらゆる事を言われ慌てる
(なんでここまで知っているんだ?)
「なんでここまで知っているんだ?とでも言いたそうな顔をしているね?」
図星を突かれ言葉に詰まる
「これが裏社会ってもんだよ。どうだい?入るつもりはないかい?」
半ば脅されるように聞かれる
(ここで断ったらどうなるかわからない…!)
怜は熟考し、暫しの沈黙の後に答える
「は、はい…分かりました……」
「よしよし、そうこなくちゃな!」
Xはこちらの手を握りブンブンと振る
(これ、もしかして選択を間違えたんじゃ……)
嫌な予感がして冷や汗が出てくる
裏社会と言っていた事を思い出し、顔が真っ青になる
そんな意図を汲んだかのようにXは
「大丈夫だ、悪いようにはしないよ!」
「君がここにいる限り我々が守るからな!」
と言う
「は、はぁ…」
不安は拭えない。
そして
「なにはともあれ、だ!」
Xは腕を広げる。
看板のネオンが眩しい。
そして満面の笑みで言う。
「【シークレットロマン】へようこそ!」
今日は2回行動します。