第1話 自称 謎の美少女博士(?)
ようやくだ…
ようやくこの苦しみから解放される
日の登る、涼しげな中
建造中のビルの屋上からこの広大な都市を見下ろす
苦しいのに吹く風が心地良い
「これで終われる…」
誰に言う訳でもなく1人呟く
僕は柵に手をかけ、乗り越える
ビルの縁に立ち尽くす
「さようなら、世界」
柵の向こうにある靴を整え、遺言の入った封筒を置く
心地の良かった風が心地悪い風に変わる
「最後まで、気分の悪いを思いするのか…」
自然と涙が流れ、体を脱力させる
その瞬間
「少年、ここで死ぬのか?」
少女の声が突如、背後から聞こえ
「!?」
即座に気を取り戻し、柵を掴む
「な、なんで…今、ここに人が…!?」
(見張りだけで中に作業中の人はいなかったはず!)
振り返るとそこには
黒スーツの上に白衣を羽織り、ゴーグルを着けた背丈の低い少女が居た。
白衣の少女は言う
「私が先に飛び降りようとしていたのだがな。」
不満そうな表情を少女は浮かべ、
「死ぬのならちょっと面を貸したまえ、少年。」
と、少年に手を差し伸べる
「な、なんですか、あなたは!」
焦りつつ問い、続ける
「止めないでください!!」
と大声で叫ぶ
「ふむ、ファーストコンタクトは失敗か。」
「やり直すか…?いや、いいか。」
こちらの大声なんかには気にもとめず、顎に手を添えぶつぶつと呟いている
白衣の少女はこちらに手を差し伸べ、言う
「まぁ待ちたまえ、君の自死を止めるつもりはない。」
「ただ先延ばしにしてくれと頼んでいるんだ。」
(先延ばし…?止めに来たんじゃないのか…?)
と疑問に思い、叫ぶように尋ねる
「あなたはいったい誰ですか!何が目的ですか!!」
「たしかに、自己紹介をしないと失礼だな」
白衣の少女は納得したように続ける
「私の名は……謎の美少女博士 X!!!」
と少女は腕でクロスを組んでヒーローのようなポーズを決め、
「どうせ死ぬなら最後は利用されて死なないか?」
とこちらに歩み寄ってくる
変な自己紹介には驚いたが
(利用…)
今、目の前にいる少女からは底しれない恐怖を感じる
(そんな人に利用されたら、どうなるのだろうか…)
と考えていると、それを察したかのように
「利用されてくれた暁には…なんと!眠るように死なせてあげよう!!」
と両手を上げて満面の笑みで言う
(眠るように…)
安楽死と言うやつだろうか?
それは本当だろうか…?
疑問に感じているとXはさらに、
「ちょいととある事務所で雑用をして貰うだけだ!」
「この契約書にサインして貰えば君の身の安全は保証する!」
「だからどうか…お願いだ…人を助ける気で…」
と畳み掛ける
(うぅ…そんなに言われても…)
「わ、わかり…ました…」
言ってしまった。
こう言うのに弱いんだ自分は。
けどもう言ってしまったからにはどうにでもなれ
Xは
「本当か…!」
とこちらにさらに歩み寄る
(はぁ…まあなるようになれか…)
柵を乗り越え、内側に戻る
靴を履こうとしゃがんだ時、
「よしよし、グッドボーイだ。」
とXに頭を撫でられる
「なっ!?」
突然の事に驚き、後ろの柵に頭を激しくぶつける
「いてて………」
頭を押さえていた所を、
「大丈夫か、少年?」
とさらに頭をさすられる
急いで少女と距離を離し、言う
「や、やめてください!!」
つい大声が出る
それに対しXは申し訳無さそうに
「お〜すまないね、そう言うお年頃か。」
「はぁ…」
(いったい何なんだこの人は…?)
一息つくと、
「そうだ、君の名を聞いてもいいかな?」
とXに問われる
「伊石、怜…です…」
まごうことなき自分の名を告げる
「怜君か、良い名だ。」
とXは頷き、
「では早速ウチに来てもらいたいが…」
Xはこちらに向き直り
「君は『能力者』かな?」
と問いかける
(うっ…)
『能力者』と言う言葉を聞いて胸が苦しくなる。
それもそのはず飛び降りをしようとした理由は
自分が才能のない『無能力者』だからだ。
「い、いえ……」
歯切れ悪く答える
「そうか、それなら良かった!!」
Xは怜の背中を叩き、
「まぁ、ついて来たまえ!悪い様にはしないよ!!」
と上がってきた階段を指差す
「は、はい……」
言われるがままにXについていく。
(流されるままで良いんだろうか。)
そんな事を考えたが、もうどうなってもいいと思い
屋上を後にする…
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