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第28話「よいホリデーを!」

 朝の勉強会に足を運ぶと、聖海ちゃんが先に来ていた。


「おはよ聖海ちゃん。毎日暑いな」

「おはよう、畔。ちゃんと水分摂ってる?」

「もちろん! 計画的な暮らしには体調管理も必要不可欠だからな!」

「計画的な暮らしね」

「そう、勉強もバイトも楽しいことも欲張るには計画と体力が大事なので」

「その通りだね。畔の楽しみな時間って? ファッションが好きなのは知ってるけど」

「そうだな、ファッション誌を読んだり……スキンケアの動画見たり……美容に関する情報収集は好きだな。でも勉強とバイトこなしてしっかり睡眠時間を確保しようとすると、どうしても趣味の時間が少なくなっちゃうんだよなー。家事当番の日もあるからなおさら」

「家事もやってるんだ、えらいね」

「聖海ちゃんは一人暮らしだから毎日やってるんだろ? そっちの方がすごいよ」

「ふふ、ありがと」


 そのようなことを話していると、小桃ちゃんがやってきた。


「畔くん、聖海ちゃん、おはよっ! 閑ちゃんは?」

「おはよ小桃ちゃん。閑は今日は寝ぼすけデーだよ」

「不参加の気分ってことだね。ねねっ、畔くん。昨日のお出かけ楽しかったね!」

「うん、ほんとに。それ売店で買った日傘?」

「そうなの! もうすっごくお気に入りになっちゃった」

「後で開いてさしてるとこ見せてね」

「うん!」


 朝の時間が過ぎるのは早い。雑談もそこそこに、俺たちは勉強会を開始した。ここ数日の朝の勉強会のメニューは、期末テストで解けなかった問題を理解できるまで解き直していくといった内容だった。


「畔くん、国語の記述問題について教えてくれる? これなんだけど……」

「ああ、ここちょっと回答欄が狭かったよな。まずこの問いの主旨は……」


 問題文が指し示している箇所を読解問題の本文から指し示しつつ説明する。


「えっ、これそんなに長く書いていいの?」

「そう。俺は超ちっちゃい字で三行ぎっちり回答してマルもらったよ」

「そうなんだ……! てっきり回答欄のサイズに合わせた回答ができるものだと……」

「そうでもないときもあるね。あと小桃ちゃん、分からない問題空欄にしてるよな? 自信なくても一応埋めとくと部分点もらえることあるから、とりあえずなにか書いて埋めとくといいよ。回答欄がずれる事故の防止にもなるし」

「そ、その通りだね……! ありがと、やってみる!」


 俺と小桃ちゃんでやりとりしている間、ほぼ満点に近い聖海ちゃんは授業の予習をしながら待っていてくれる。


「聖海ちゃん、ここ教えてください!」

「どれ?」

「この数学の問題で……」


 先生役になったり、生徒になったりしながら問題を解いていく。テスト用紙がだんだん正解で埋まっていくのは楽しかった。


***


「えー、ということで夏休みですね。各教科から宿題が出ていると思うので、最終日に泣きながら解く羽目にならないように早めに終わらせておきましょう! 危ないところには行かないように! 以上、ホームルームを終わります、解散!」


 帰りのHRを済ませると、いよいよ夏休みの始まりだ。はしゃぎながら階段を駆け下りて先生に注意されているクラスメイトを眺めていると、瑠璃羽ちゃんから声をかけられた。


「畔さん、夏休み(サマーホリデー)ですわね。お友達と長く離れることになるのは少し淋しいですわ」

「瑠璃羽ちゃんは夏休みも忙しいの?」

「ええ、家族でイギリスの別荘に行ってきますの」

「わ、わぁ……スケールがすごいな……」


 別荘だけでもだいぶ浮世離れした話に聞こえるのに、イギリスにあるとなるとかなり現実味がなくぼんやりとした想像しかできない。


「お土産ご用意いたしますわよ。ご希望はありまして?」

「なんか日持ちしそうなお菓子とかだといいな。大したお返しはできないと思うけど」

「あら、律儀ですのね。富める者が人々に分け与えることは普通のことですのよ?」

「俺は富める者じゃないけど、一方的にもらうのは悪いよ。対等な友達だとは思ってるし」

「……ふふ! わたくし、畔さんのそういうところ好きですわ」


 瑠璃羽ちゃんはなんだか嬉しそうだった。


「八月末には帰ってきますから、そのあたりのご予定を開けておいていただけますかしら? 一日くらいお友達と遊びたいですわ」

「それならちょうど花火大会の頃だな。瑠璃羽ちゃんさえよければどう?」

「花火大会! 行ったことのないイベントですわ。ぜひ案内してくださいまし」


 スマホのスケジュールアプリを開いて花火大会の予定を入れる。


「楽しみですわね!」

「うん、俺も」

「それではごきげんよう、畔さん。よいホリデーを!」


 瑠璃羽ちゃんは上品にひらひらと手を振って一足先に去ってゆく。……夏休みが始まる!




 午前日課のみの学校を終えると、夕方から始まるバイトまではまだ時間がある。今日は学食も開放していない日なので、自然とどこかで買い食いする選択肢が浮かんできた。

 どこに行こうかと考えながら下駄箱までやってくると、偶然閑と雪姫ちゃんと鉢合わせした。


「畔さん! いよいよ夏休みですね」


 あれ? と思いつつ、俺はいつも通りの会話を始める。


「雪姫ちゃんの夏のご予定は?」

「数学の補習が……」

「あっ……そっか、頑張って……」

「うう、どうしても数学が苦手で。修行してきます……。ところで畔さん、この後暇だったりしますか? 閑さんとお昼ご飯を食べに行こうって話してたんですよ。畔さんもどうですか?」

「行く!」


 ちょうどいい提案が転がり込んできたので、ありがたく乗っからせていただくことにした。

 中庭を抜け、校門を出れば真っ青な夏の空が広がる。もくもくとやわらかそうな白い雲を見上げつつ、日焼け対策委員会の俺たち三人はすかさず日傘を広げた。


 手近なファミレスに入り、各々の好物を食べながら雑談を始める。雪姫ちゃんが注文したのはホワイトソースのドリアだった。


「美味しそうだね」

「はい、お気に入りなんです。真夏で外は暑いですけど、空調のきいた場所であつあつのドリアを食べるのって贅沢ですよね」

「その通り」


 雪姫ちゃんの横で閑もうんうんと頷いている。


「ところで二人とも、俺の知らないうちにずいぶん仲良しになったんだな」

「はい、閑さんにはとってもよくしていただいて」

「雪姫はなかなか見どころがある」


 この間まで「雪姫ちゃん」と呼んでいた気がするのだが、呼び捨てになっていた。閑は相当雪姫ちゃんのことがお気に入りらしい。


「閑のそれはどこ目線なんだ……。ごめん、うちの妹が失礼で」

「いいえ、全然。それだけ気を許してもらえているということですから」

「雪姫は数学の補習以外は夏休みなにするの?」

「半泣きになりながら宿題をやる予定です……。お勉強あんまり好きじゃなくて」


 雪姫ちゃんの中では既に半泣きになることが決定事項になっているのがなんともおいたわしい。


「ちなみに補習の日程ってどうなってるんだ?」

「八月の第一週の平日五日間です」

「せっかくの夏休みにわざわざ登校なんて不憫」

「こら閑」

「私だったら休みの日は家でゴロゴロしてたい」

「わたしもそうしたかったんですけどね……」


 勉強が好きじゃないという雪姫ちゃんは上を目指そうとしているわけではないようだ。しかし、赤点で補習になるのは避けられたら嬉しいんじゃないだろうか。そう思って俺はある提案をすることにした。


「よかったらその補習期間、一緒に夏休みの宿題をやっつけるウィークにしないか?」




挿絵(By みてみん)

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