第23話「……本気でやるんだよね?」
投稿者の名前を見る……「夜行性のねむねむ」さんだ。俺は迷わずサムネイルをクリックした。
「朝でも昼でもすやすや! 夜行性のねむねむです!」
あっそういう挨拶なのか……と感心しながら動画を見ていく。
「本日ご紹介していくのはこちら! ビタミンCデイタイムセラムとレチノールナイトタイムセラム!」
茨咲さん……もといねむねむさんはおなじみのピントを合わせるポーズで美容液を見せる。
「朝のビタミンC、夜のレチノールっていうのはみんな知ってるかにゃ? この二つはそれぞれお肌にとってもいい効果がある……んだけど! 一緒に使うのはよくないって説もあるんですよね~。関係ないぞ派の説もあるんだけどね! でもやっぱり不安だから別々のタイミングがいいっていう人も多いことでしょう! そんなあなたにおすすめなのが朝と夜のスキンケアでそれぞれ使い分ける方法です!」
ビタミンCは水溶性でレチノールは油溶性なのでお互いの効果を打ち消し合うことはない……らしい。それも数ある諸説のうちのひとつだ。けれど、不安だったら一応タイミングを分けて使おうと提案するのは合理的かもしれない。
俺も知っているには知っているのだが、ピンキリと言えど美容液はなかなか値が張るので実際に試したことはない。
「そういえばコメントが来ていたのでついでに返しちゃおっかな! 『ビタミンCを摂取すると紫外線を吸収しやすくなるって聞いたけど本当ですか?』って質問ですね。答えはNOです! ビタミンCが豊富に含まれている食べ物としておなじみの柑橘系のフルーツに一緒に含まれている『ソラレン』っていう成分が紫外線を吸収しやすくするそうな! だからビタミンCの美容液は朝使っても大丈夫です! 気になる人はビタミンC美容液の成分表示にソラレンがないかチェックしてみてね!」
ねむねむさんのトークはすごくはきはきとしていて聞き取りやすいし、話も分かりやすい。普段眠たそうにしているのはこっちの活動にエネルギーを費やしているからなのか、と腑に落ちた。
自動再生にしていると次々にねむねむさんの動画が再生されてしまい、このままだと寝不足になってしまいそうだったのでキリのいいところで止めた。スキンケアも大事だが睡眠も大事だ。
登校したら茨咲さんとスキンケア談義でもしてみたいな……と思いながら、その日は眠りについた。
***
「本日はお集まりいただき誠にありがとうございます!」
朝の勉強会の特別教室にて、俺は宣言した。
「いつも集まってるけど……今日ははりきってるね、畔くん」
小桃ちゃんから至極まともなツッコミを受ける。
「今日は今後についての意気込みを話そうと思って!」
「どんな話?」
聖海ちゃんは多分議題を察しているだろうけれど、俺の話を促してくれた。
「それは……七月末に来たる期末テスト対策についての作戦会議がしたいってこと!」
中間テストは辛酸をなめる……とまではいかないものの、ふるわない結果に終わってしまった。なんだかんだで瑠璃羽ちゃんとの関係は修復できたが、肝心の学力を育てなくていいとはならない。俺自身の目標――ミスコン優勝のためには優秀な成績が必要不可欠だ。なにしろ一定の成績を下回る者には、ミスコンの参加権すら与えられないのだから。
「ミスコンの参加権ゲットのためには少なくとも学年での総合成績10位以内が必要……今の俺には難しいし、そんなにすぐに成績が向上したら苦労はねぇよな」
「現実的な考えだね。それで、何かプランはあるの?」
聖海ちゃんに問いかけられる。俺はその質問への答えを既に用意してあった。
「一歩ずつ努力して苦手な問題に立ち向かっていくしかない。けど、モチベーションを上げる工夫はした方が有利だと思う!」
「畔、もっと簡潔に」
閑に急かされたので俺は結論を言うことにした。
「得意な教科をまず伸ばして、自分はやればできるんだ! っていう達成感を手に入れるのが今回の目標!」
言いながら俺は前回の成績表を出した。
「こちらが前回の俺のテストの成績でございます、ご査収ください」
75位 鵠沼畔 総得点294 国語63 数学53 理科56 社会60 英語62
「可もなく不可もなく?」
「わ、私からしたら充分すごいと思うけどな……!」
「ミスコン目指してるなら力不足かもね」
三者三様のリアクションが返ってくる。
「うんまあ、自分の実力は分かってるつもり。それでこの結果を見る限り、俺って文系だと思うんだよな」
俺が自分でそう言うと、閑はうんうんと腕組みをして頷いている。
「文系理系……というカテゴライズは究極的には無意味、って見解もあるけど。受験では自分の適性を理解して活かすのが大事だと思う。その点では、自分の得意分野を見つけようとしている畔はえらいと思うな」
「聖海ちゃんにそう言ってもらえると自信つくよ」
「それで、具体的な数値目標は?」
「国語か英語で80点! ……難しいかな?」
自分でも少し高いハードルだと思っている。80点、という数字を提示されて、聖海ちゃんは少し黙って返事の内容を考えていた。
「……本気でやるんだよね?」
「うん」
「……分かった。じゃあどっちで80点とるか絞って」
「えっ!」
「『その気になれば80点とれる』なら、前回の中間テストでできてるはず。実際はそうはなってない。なら、満遍なくじゃなくてどの教科に注力するか狙いを定めないと」
聖海ちゃんの言っていることはちょっと手厳しいけれど正しい。
「……畔は、国語と英語だったらどっちの方が勉強してて楽しい?」
「どっちかっていうと……国語かな?」
「なら国語で決まりかな。楽しい方がやりやすいはず」
「分かった、今回はそうする」
自分の目標は決まった。あとはコツコツ頑張るだけだ。ということで、次に俺は小桃ちゃんに話を振った。
「小桃ちゃんはどうする? なにか目標決めとく?」
「え! あっ、えーとえーと……そっか、小桃もなにか決めないとだよね……ど、どうしよう……」
「目標達成できなくても罰ゲームがあるわけじゃないんだし、気楽に決めてもいいんじゃないかな?」
いきなり話を振られて困っている小桃ちゃんになるべく優しく伝えてみる。
「罰ゲーム、ないってことはないんでしょ?」
そう口を挟んできたのは聖海ちゃんだった。
「確か……補習があるんだっけ? 何点以下?」
そういえばそうだ。補習は勉強が苦手な人のためにあるとはいえ、受けなくて済むならそれに越したことはない。
「補習は30点以下だな」
「あっ、えっと……小桃も前回は補習受けたよ……国語の……。……全部の教科で30点以上をとる、って目標なら……できそう、かな?」
「いいと思う」
小桃ちゃんが自分で目標を決めた、その事実がなんだか嬉しかった。
「それなら僕が二人とも一緒に教えてあげる。……テスト範囲の要点まとめておくね」
「助かる! いつもありがと、聖海ちゃん」
「……このくらい……大したことないから」
聖海ちゃんはちょっと目を逸らしてそう答えた。




