パパがんばっちゃうよぉ~お仕事編~
パパは、出ていったママ、反抗期の娘に振り向いてもらうために、自分の仕事を省みることに。
はたしてどうなるのでしょうか。
俺は異世界の魔王、デモノ・レーゴ・マルサノ・ディオ・マルフェリコ。長いし、本名を呼ぶような不届きものは殺すから、基本的に、俺のことは皆、「魔王」と呼ぶ。
うちの愛する家族をのぞいて。
しかし、妻のママは一昨日実家に帰ってしまい、一人娘のフィリーノの反抗期も重なった。
「城の中のパパの肖像とか銅像とか全部なくしてくんない?」
「パパがナルシストって普通に終わってるから」
「パパ本当に強いの?」
「勇者様たちマジイケメン。早くパパを倒しに来てほしいわぁ」
……全部俺のせいだ。だからこそ、パパの格好良いところを見せてやるぞフィリ。
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我が魔王軍の組織図を教えよう。
俺が頂点に君臨することは当たり前として、俺の補佐をする№2は、執権のミリト・ストラテーゴ。
ミリトは俺の最も信頼する親友であり、幼馴染である。
そして魔王軍の№3は、最高指揮官たる、魔王軍総帥のモルト。我が弟だ。
政務は執権のミリト、軍務は総帥のモルト、魔王軍内のトラブルは、№4の法務局長官ジューゴが司る。
ジューゴは俺の従弟であり、一貫して冷徹な、私情を挟まぬ鉄仮面の魔人だ。
内政に関しても執権ミリトを中心とした評定衆13人に任せている。
各セクションのトップについては問題ない。どいつもこいつも信用の置ける奴等たちだ。
だが。
うちのフィリちゃんが勇者びいきになった原因は、魔王軍の弱体化に他ならない。
(いったんパパの威厳のなさは棚に置いておく)
――魔王軍を俺が直々に視察し、魔王軍を立て直し、勇者どもを片っ端から殺戮してやるぞ☆☆☆
というわけで、俺は魔王軍総本部の訓練場に顔を出した。午前中から、サイクロプスやオーク、ゴブリンたちが武器の稽古に励んでいる。
「お久しぶりでござる魔王様」
そう俺に声をかけてきたのは、魔王軍四天王の一人、西方軍団長のオクシデント・キュクロペ。魔王軍一の怪力を持つサイクロプスだ。
「おうオクシデント。今日はお前の当番か」
「左様で。魔王様がいらっしゃると知っていれば、もっと盛大な訓練をお見せしたのですが」
「構わん。それよりオクシデントよ、オリエント、サド、アンスタを呼んでくれ」
「ははあ!」
オクシデントがすぐに銅鑼を鳴らすと、魔王軍屈指の実力者たちが三分も経たずに揃った。
「お変わりなく、なによりです陛下」
竜人のオリエント・ドラコが首を垂れる。このオリエント、魔王軍最強と謳われる、魔王軍四天王の筆頭であり、東方軍団長である。
「いや、なんや、顔色おかしいですやん、魔王様なんかあったんやないですか?薬持ってこさせましょか?」
そう言って俺を気遣うのは、サド・ヴォルフガング。魔王軍随一の剣士である人狼で、魔王軍四天王の一人、南方軍団長だ。
「気遣い感謝するぞサド」
「なんのなんの、魔王様あってのワシらですから」
「へっ、サド様は、魔王様に媚びるのがうめえなあ、へへへ」
侮蔑気味に笑うのはアンスタ・タウント。豚亜人であり、魔王軍北方軍団長、うちのママの代わりに17年前に就任した豚野郎だ。
「アンスタ、おどれ、ワシが魔王様に媚びてる言うんか?」
「言ったぞ?言ったらなんだ?」
「殺したろか?」
「できねえのにいうなよ、口だけ野郎がよぉ」
口だけなのはこのアンスタだ。俺の前では血の気が多く好戦的である素振りをしてみせるが、北方軍をこいつに任せて以来、北方の侵略は、他の三方と比べ、遅れをとっている。
「静まれ」
「「はっ!」」
二人の軍団長を落ち着かせてから、俺は、訓練する2万の魔王軍総本部の精鋭たちを並ばせた。
「者ども。今日、俺がここに来たのは他でもない。この俺が直々に指揮する、魔王軍遊撃部隊、『鏖隊』を設立する!!!!!」
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!
兵士たちが大いに盛り上がる。
「選出されたものの上位10名には、城一つ買える大金と食用人間一年分、好待遇の生活と名誉を与える」
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!
野心の強い兵士たちが発狂している。
――そう。魔王軍改革の第一が、新たな人材の選出と褒賞だ。
そういったことを総帥のモルトたちが怠っていたわけではない。俺が圧をかけ、人件費などを諸々きりつめさせていたのだ。金という金は家族のために使いたかったのだ。てへぺろ。
我こそはというものが名乗りをあげ、ざっと3000人。俺は更に指示を与え、その中でバトルロイヤル、半数の1500人になるまで殺し合いをさせた。
中々の粒ぞろいだ。高度な魔法を使うやつもいる。こんな逸材がいたとはな。
「では、この中から、俺が鏖隊の主力、『鏖十将』を指名する!名を呼ばれたものは前に出ろ!」
オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!
『ドーン・ド・リーフ!』
雷獣の魔物が咆哮した。
『クラーカン・オクトーバー!』
八つ手の亜人が拳をあげる。
『シロガラス!』
白銀のガーゴイルがけたたましく鳴く。
『トンテキ・オーカス!』
黒豚のオークが嗤う。
『シュテン・オーガ!』
赤髪の鬼が唸る。
『ガミジン・グンジョー!』
青い炎のアンデッドが宙を舞う。
『アモン・ヴォルフガング!』
若き人狼が狡猾に微笑む。
『シトリー・レオパーダ!』
女豹の獣人がウインクする。
『ダンタリオン!』
謎めいた黒騎士が剣を掲げる。
『ベリアル・オールキリング!』
執事風の悪魔が一礼した。
――この10人は、明らかに別格。俺の手足となって動かすことが出来れば、魔王軍の威信は一層高まるだろう。そして。
『ザガン・タウラス!』
左目に眼帯をする隻眼のミノタウロスを指名する。こいつは一人で500人の魔物を怪力で屠った逸材。
「貴様は、これより北方軍団長の座をかけて、アンスタと殺し合ってもらう」
「「えええ!?」」
アンスタの顔が露骨に歪んだ。
「弱者には死を。強者には栄光を。それが、俺の、魔王軍だ」
社長の思いつきに部下は振り回されるのはどの世界も一緒ですね(苦笑)
ただ、社長も今回は家族のため、全力中の全力です。さてさて次回はどうなるのやら!