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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

地球寒冷化?!雪に包まれた世界とイエティ

作者: 鷹鴉

「さて、全員集まったな。これより、異常評議会定例会議を始める」

「……」

「崩壊か終末かただの会話か…………今回はどれになるのでしょうかね?」

「…………ん……」

「今回の議題は――――」



―――旧東京某所―――



「センパイ」

「なんだ?後輩君」

「こんな山奥に生活拠点があるって本当ですか?」


「信用できる情報屋から聞いた話だから、多分本当だ。嘘だったら鉛をブチ込んでやる」


「過激だなぁ…………日本ってこの先どうなるんでしょうか……?」

「私に聞かれてもなんて応えればいい?この先地球は暖かくなり『イエティ』は全て全滅するだろう。とかか?そうなれば良いが、私は預言者では無いぞ」


「別の何かではありますけど」

「ほう?鉛が欲しいか?」

「いいえとんでもございません」


一歩間違えば遭難するような山奥で、分厚い防寒服に身を包んだ2人の男女が、足元の雪を踏み締め歩いていた。2人の周囲には雪、雪、雪、そして森。


正確な目的地も分からないまま、道無き道を進み続けていた。


「8月なのにこんなに寒いって。最近の地球寒冷化は本当に酷いなぁ…………5年前は最高気温が10度くらいあったのに」


後輩と呼ばれた男がそんな言葉をこぼした。


それから2人の間に静寂が流れていると、遠くからバキバキという音が鳴り響き、2人に向かって何かが近付いて来た。


「こんな山奥でこの音…………あれか、面倒だな……」

「私が引き付けるから、いつも通り後は頼む」

「了解」


了解と言った男が先輩と呼ばれた女から少し離れる。

先輩の目線の先からは、雪を舞い上がらせる何かが見えた。


「やっぱりイノシシの『イエティ』か。殺りやすいのが来てくれて助かる」

「一番は何も起きず目的地に到着することですが」

「うるさい」


イノシシと呼ばれたそれは凄まじい速度で2人に近づき、数秒と経たずその姿を見せた。

その姿は不気味で、異質な雰囲気を漂わせる、真っ白で歪な毛玉の塊だった。


「どうして『イエティ』化するとこんな姿になるんですかね?」

「そんなこと知らないし無駄口叩かず!…………来る!」


イノシシが先輩に向かって突進していると、先輩が闘牛士の如くさらりとかわし、目の前の人間を見失ったイノシシは止まること無く、先輩の背後にあった大きく立派な木を軽々と豪快にへし折った。


イノシシはそこから数m進むと一度止まり、方向転換する為に後ろを向いた。

それと同時に後輩が現れ、イノシシが反応するよりも先に金属の筒を向けた。


金属の筒は後輩の背中にある、大きなリュックに繋がっていた。


後輩が手に持っていた金属の筒のスイッチをカチリと押すと、その筒から火が噴射された。後輩が持っていたのは火炎放射器だった。


イノシシが噴射された火を浴びると、瞬く間に体が気化し始め、数秒経たずにその場から消滅した。


「せめて肉くらい残って欲しいのに………………」

「『イエティ』化したら熱に対して極度に弱くなるのを知っているだろう?淡い希望を抱かない。私の腹を空かせる気か?」

「希望くらい抱かせて下さいよ」

後輩が不満げに零した。






「あ!ありましたよセンパイ!多分あの建物ですよね!」


小型の双眼鏡を覗いていた後輩が声を張り上げた。2人がいるのは山の山頂付近。


イノシシを消滅させた後、2人は夕暮れが近いことに気づき、できうる限り安全な場所に移動し、テントを張って一晩を過ごし夜を明かした。


その後、周囲をある程度見渡せる山頂付近に移動し、小型の双眼鏡で目的地である生活拠点を探し今に至る。


隣にいた先輩が後輩から渡された双眼鏡を覗き、地図を取り出し場所を照らし合わせる。


「場所。高度。そしてあの建物。でかしたぞ後輩君。あそこだ、あそこで間違い無い」


「高い場所に登って正解でしたね」

「そうだな」


2人は山の急斜面を滑りつつ、見つけた建物に向かった。


「センパイ。今向かっている生活拠点についての情報ってあります?」

「ああ、あるぞ。というか、それ知らなかったらこんな場所に来ていない」

「さいですか」


「たしか……元々温泉旅館だったが、5年前の『イエティ』発生を受け、周囲の市町村から、行く宛の無い人々が集まってできた生活拠点らしい。温泉旅館からは源泉が湧き出ていると聞いているから、万が一『イエティ』があそこを襲っても、『イエティ』に熱い源泉をかければいい。私達のように、いちいち火炎放射器で炙らなくてもすぐに撃退できる」


「もうそこに定住してみては?」

「それも良いかもな」


「………………センパイの目的って……」

「温泉。それ以外の目的は無い」

「さいですか」






「距離的に…………そろそろですね」

「待て」

先輩が右腕を横に広げ、後輩を静止させた。


「何かありました?」

「あれを見ろ」


2人の目の前には、温泉旅館を取り囲む頑丈そうな木の壁があった。


しかし、2人から少し離れた所の壁に、豪快に破壊された穴ができていた。


「オープンな入り口…………って訳でもなさそうですね。あの壊れ方だと、『イエティ』に破壊されたと見て間違いは無いかと」


「後輩君。最悪の可能性を考慮して、慎重に確認しよう」

「了解」


2人は木や雪に隠れ、ゆっくりと進み壁の穴がある程度見える地点に到達した。

穴を覗くと、その穴からは温泉旅館の側面が見え、さらに内側の雪は地面のコンクリートが見えるほど薄く積もっていた。


先輩が温泉旅館側の雪と外側の雪を見比べた。内側の雪よりも外側の雪の方が高く積もっており、約20cmほどの段差ができていた。


「雪の薄さ的に、定期的に除雪はしているみたいだな。しかし、この穴を放置か…………」

「どうします?」

「後輩君。火炎放射器の用意を」

「もう出来てます」

「臨戦体勢で行くぞ」


そう言うと、先輩が先を進み後輩がその後を追いかける。音を立てないように、慎重に2人は木の壁に到着し、壁の側面から改めて穴を覗いた。


近くに来たことで分かった、人間に似つかわしく無い大きな足跡。それが木の壁から内側に続いていた。


「『イエティ』の足跡だな」

「どうします?流石に、温泉は辞めて拠点に帰った方が良さそうじゃ無いですか?」

「駄目だ。絶っっっ対に温泉に入る。進むぞ」

「はいはい」


2人は壁の穴を通り内側に入った。警戒しつつ進んでいると、2人の背後から軽く地面を揺らすような足音が聞こえた。その音が聞こえ、とっさに2人が振り返った。


「4m?いや、5mはあるな。流石『イエティ』…………」

「そんな分析しなくていいですから?!早く逃げますよ!」


それは歪で体のあちらこちらが抉れ、真っ白な体毛を生やし、立ち上がったその姿は畏怖するほどの巨大を持った、熊の『イエティ』に退路を塞がれた。


毛玉と化した白い頭が目の前の人間を見つめると、突如として真っ白な腹がぱっくりと割れ、大きな口が現れ――――


「後輩君!耳を……!」

「グルァァァアァアアア…………!!!!」

口から爆音の咆哮が放たれた。


その咆哮は周囲の雪を吹き飛ばし、近くの木の壁にひびを入れた。熊の前にいた2人はそれに耐え切れず、雪と共に吹き飛ばされた。


2人は少し離れた場所に飛ばされたが、咆哮は先輩と後輩の間を通過し、ぎりぎりで耳を塞ぎ守ったことで、何とか鼓膜が破れることは無かった。


熊の『イエティ』は、衝撃で立てずにいる先輩に近づき、右手を振り上げた。


何をしようとしているのか察した先輩は全力で体全身を動かし、熊の『イエティ』は上に上げた手を振り下ろした。


その下にいる先輩は、ぎりぎりで振り下ろされる手の軌道から何とか外れ、振り下ろしたその手は地面を揺らし、その下のコンクリートを粉々に粉砕した。


先輩は何とか、すんでのところでその手を回避したが、振り下ろした時の風圧で、さらにまた吹き飛ばされた。


「後輩君!今だ!」

先輩に熊の『イエティ』の注意が逸れた瞬間、今までの時間で、何とか立ち上がれた後輩は火炎放射器を片手に地面を蹴り、熊の『イエティ』の側にまで近づいた。


その怪獣は反応が少しだけ遅れた。


後輩に攻撃する前に、後輩が火炎放射器のスイッチを入れ、その火炎はその熱で立ち上がった熊の『イエティ』の下半身を横に切断し、下半身は地面に倒れ、上半身は地面に落下した。


しかし、下半身と上半身はそれぞれ独立し動き始め、先輩と後輩それぞれを襲った。


だが、上半身は火炎放射器でバラバラに分解され、完全に身動きができない状態になった所で1つ1つ丁寧に火炎の熱で炙られ、バラバラにされた全ての上半身が消滅した。


下半身はというと、上半身を失ったことでバランスが崩れ、その下半身は起き上がることができず、足をバタバタさせながら倒れ残念なことになっていた。


「足先から少しずつ炙れ。胴体から先にやると足が独立して私達を襲うぞ」

「分かって、いますよ。というか、先輩の方は大丈夫ですか?」


「今のでついた外傷は…………今さっき吹き飛ばされた時についた打撲だけだな。多少耳がキーンっとするが、立てないほどでも無い」

「それならよかったです。はぁ、侵入早々『イエティ』に見つかるとは…………センパイ。もう帰り――――」


「ここまで来たんだ。絶対に温泉に入る!」

「…………さいですか」

先輩のその熱意に押され、渋々了承した。






「人が10……20…………家畜か野生動物が大体40くらい…………恐らく元はこの温泉旅館を生活拠点にしていた人達。完全に終わってますよ、あれ」


温泉旅館の前方にある、コンクリートの地面を持った広い広場。元は駐車場であったであろう場所を、先輩と後輩が物陰から覗いていた。


「帰りません?」

「帰らない」

「全滅させます?」

「全滅させないと安心して温泉に浸かれないだろう」

先輩はさも当然という顔で返答した。


「……分かりました。ですがそこまで言うなら、センパイが飽きるくらいに僕も全力で堪能してやりますよ」


「そうかそうか、よく言った!持つべきは都合の良い後輩君だな!」

「ちょっ……センパイ。そんな大声言った…………ら……」


広場にいたほぼ全ての『イエティ』が、物陰に隠れる2人の方向を向いた。


「やっぱり気付かれたじゃ無いですか!」

今の後輩の声で確信を持たれたのか、何体かの『イエティ』が2人に近づいた。


1番先頭を先導していた一体の『イエティ』が物陰に辿り着くと、そこから火炎放射器を持った後輩が飛び出す。


それから吹き出た火炎ですぐ側の『イエティ』を消滅させ、次に近い『イエティ』を火炎放射器を使い的確に炙り、完全に消滅させた。


それから何体もの『イエティ』を先輩が誘導、後輩が火炎放射器で着実にその数を減らしていく。






順調に『イエティ』を殲滅していると、火炎放射器を持つ後輩の手が止まった。


「あ、燃料切れた…………」

「燃料切れた……?!切れないように潤沢に持ったはずだぞ!」


「あ!燃料タンクに傷が!まだまだあったはずの燃料が雪に…………!」

火炎放射器の燃料タンクには、よく見ないと分からないくらい小さな小さな傷ができていた。


その小さな燃料タンクの傷から燃料が全て漏れ、漏れた燃料は地面の雪に吸収され回収不可能になっていた。


「きっとあの熊のせいですよ!あの咆哮の衝撃で傷ができたんですよ!」

「いいから逃げるぞ!」


2人が一目散に温泉旅館から逃げようとすると、空から飛来した何かに阻まれた。


「あーもう!人類が何年経っても『イエティ』を根絶できない原因が来てしまいましたよ!どうしますかセンパイ?!」

「鳥の『イエティ』…………空を飛び、世界全土に拡散することで、『イエティ』の根絶を不可能にした元凶……」


「いやいやそんなこと言っている場合ですか!?」

大きく歪に肥大化した鳥の『イエティ』に、2人の退路が塞がれた。


「形状からして、猛禽類の『イエティ』…………」

後輩の顔から冷や汗が垂れる。


2人の頑張りで元々広場にいた『イエティ』は10体ほどまでに減らしたが、それでも、対抗手段を持たない2人はジリジリと追い詰められる。


「どうすれば…………そうだ!後輩君、建築破壊用のダイナマイトがあったはずだ!」

「あ、ありますけど。この距離にまで『イエティ』が近付いていると巻き込まれますよ!」

「威力の高いのを持って来たのが裏目に出たか…………」


現状を打破できる案は浮かばず。2人は温泉旅館を背に、『イエティ』に完全に包囲された。


しかし、突然鳥の『イエティ』が包囲している『イエティ』を押しのけ、その鉤爪立て、2人に向かって突撃をした。2人は何とか寸でのところでかわしたが、突撃する鳥の『イエティ』に押し潰され、鉤爪は温泉旅館の壁を破壊し、そのまま2人は温泉旅館の内部に吹っ飛ばされた。


「げふ、げふげふ。はぁはぁ。ガッチガチなモフモフは苦しいな…………」

「せ、センパイ!まずは逃げましょう!あの『イエティ』が来る前にここから逃げますよ!」


後輩は今できた穴よりもさらに先にある、鳥の『イエティ』がもう数枚の壁をぶち抜いた穴を指差し、先輩に絶好の逃げるチャンスを知らせる。


「そうするしかなさそうだな」

差し伸べた後輩の手を取り、先輩が立ち上がる。外の駐車場に続く穴からは、2人を追いかけて『イエティ』が温泉旅館の内部に入り込んでいた。


「……間取りから見て、こっちか…………後輩君。走るぞ」

「え、ちょっと待って下さい!どういうことですか?!」


「走りながらでいい、聞いてくれ」

「はい、で、何ですか?」

背後から迫る『イエティ』達から逃げながら、先輩と後輩が言葉を交わす。


「私は情報屋から温泉旅館があるという情報と温泉旅館周囲の地図の他に、この温泉旅館の間取りを買ったんだ。今回は必要ないと思い置いて来てしまったが」

「何やっているんですか」


「一応現地に到着したらその生活拠点の者達に尋ねようと思ってたんだ。まさか『イエティ』にやられているとは思ってなくて。あ、ここの曲がり角を右」

「ちょっと、いきなり言わないでくださいよ!」


「下手に壊れていなければこの先は源泉が湧き出る大浴場。そこで『イエティ』を迎え撃つ」


「そうか、火で炙らなくとも温度の高い源泉なら『イエティ』は耐え切れない」

「その通り。さて、ここだ。この先が大浴場だが……男湯と女湯。どちらに進もうか」


「男湯でいいのでは?早くしないと『イエティ』が追いつきますよ」

「後輩君の意見に従おう。よし、男湯に行くぞ!」

「それはいいから、何度も言いますが『イエティ』がそろそろ来ますよ」


男湯の暖簾を抜け、誰もいないボロボロの脱衣所を通り、遂に2人は温泉に到着した。しかし――――

「…………下手に壊れていましたね」


2人の目の前にはタイルの床と並べられた体を洗うためのシャワーに広い大浴場。そして外の様子が丸々と見えるほどに破壊された男湯と複数体の人間の『イエティ』。


男湯は外と繋がった影響で涼しく、軽く雪が積もっていた。しかも男湯女湯の壁が破壊され、2つの浴場が繋がっていた。

こんな状況でも、男湯の大浴場の温泉は張られていた。


「前方には『イエティ』。後方にも『イエティ』。そしてセンパイに残念なお知らせです。『イエティ』の1体があの温泉に浸かっています。『イエティ』は熱に弱い上、その体は超低音です。つまりあの大浴場は冷水です。氷点下です…………センパイ?」


「……なんか、独特の匂いがしないか?」

「言われてみれば……うわっっ!と」


2人が匂いに意識を持ってかれている間に、『イエティ』が近づき拳を後輩に向けて振りかぶった。後輩はギリギリで回避したが、今の状況に冷や汗が滴った。


そのまま『イエティ』は連続で拳を振るい、他の『イエティ』も我先と2人に攻撃を仕掛け始めた。


「せ、センパイ!あそこに逃げましょう!あそこだけ妙に綺麗ですよ!」

後輩が差し迫った状況の中、破壊跡の無い整備されたサウナ室を指差した。


『イエティ』から全力で逃げながら、2人はサウナ室に辿り着き、サウナに通じる扉を開けすぐさま閉めた。


「あっつ……」

「暑いな」

サウナ室に逃げ入った2人の第一声は、その部屋の温度を表していた。


灯の無い薄暗いサウナ室で、その暑さに2人は今まで着ていた分厚い防寒着を脱ぎ捨てる。


「『イエティ』は来ませんね」

後輩がサウナ室の扉に付けられた小さい窓から浴場を覗く。


「この暑さだ。『イエティ』がまともに喰らえば消滅するだろうからな。察しているのだろう。しかし、こんな状況でもサウナは稼働しているのか」

「センパイ、これ自動化されてますよ」


後輩がサウナ室の壁を触り、サウナ室を制御するパネルを見つけた。


「暑いし切りますか?」

「いや、切らなくていい。少しでも冷えたら『イエティ』が壁を破壊してくるからな。このサウナは私達の生命維持装置だ。絶対に切るなよ」

「了解です。それじゃ、このサウナに何かあるか探しますね」


後輩がサウナの探索を始めると、何かに躓き転びかけた。


「おっとっと!?これは、ん?木の枝?」

「……!後輩君はその場から動くな…………後輩君の足元にあるのは木の枝じゃ無い。人間の腕だ」


「ひ、人が居たんですか?!」

「静かに。落ち着いてよく見ろ。死体だ死体。しかも『イエティ』化していない死体だ。結構レアだぞ?」

狼狽する後輩を尻目に、先輩がその死体を調べる。


「年齢7〜9歳。死因はサウナの熱による脱水死……状況からしてこの生活拠点の元生き残り……」


「この子はサウナに逃げたことで『イエティ』の手から逃れられた。けれど……」

「サウナの暑さによる脱水症状の末、死亡…………か。外の様子からして、出られなかったのだろうな」


2人は一度気を取り直し、先輩はその子供の死体をもう少し調べ、後輩はサウナの内部を調べる。


少し時間が経つと、後輩が大きめの声で先輩を呼んだ。

「センパイ、センパイ。ここに血文字がありますよ」


子供の死体のから見て死角になる場所に、後輩が血文字を見つけた。


「何だと?…………何々?だいよくじょうをもえるみずでいっぱいにした。あとひつようなのは――――ここで途切れているが…………」


サウナに蒸される中、先輩がその場で座り考える。


「子供の手は傷だらけだった。ならこの子が書いたとして間違いは無い。そして大浴場から香る独特な匂い。燃える水。あと必要…………ん?まて、大浴場には『イエティ』が浸かっていた。確か『イエティ』の体温は約-30度……なら何故凍らなかった?燃えて独特の匂いを持ち凝固点が低い液体。そうか……」


「何か分かりました?」


「大浴場には燃える水で一杯にした。あと必要なのは……火」

先輩はそれから長く深く息を吐いた。


「この文字とあの匂いから推測して、大浴場に満たされているのはガソリンだ。どうやってガソリンで満たしたのか?という疑問は兎も角。ここの奴らは最後に危険な置き土産を残してくれたみたいだぞ」

「センパイ。どうします?」

「有効活用する他ないだろう。後輩君。確かマッチがあったはずだ」


「ありました」

「よし貸してくれ」

後輩が差し出したマッチ箱を受け取り、扉の窓から外の様子を確認した。


「全部で10……11……12……13……さっきの10体と浴場の数体。私が確認しているのは全部いるな」

「温泉旅館に突撃した挙句どこかに消えた猛禽類の『イエティ』が居ますが」


「そいつは後。あの鉤爪と巨体でサウナを破壊されたらそれこそ終わりだ。火炎放射器が使えない以上、数を減らしこの場から離脱するぞ」

「了解です」


「一番威力の低いダイナマイトを渡してくれ」

「一種類しかありませんけど」

そう言いつつも後輩は先輩にダイナマイトを渡した。


先輩はもう一度扉から外の様子を確認すると、扉を開け『イエティ』が跋扈する浴場に飛び出した。

「センパイ!」


後輩の声を無視し、湿気に包まれたサウナ室では無い寒く乾いた浴場で、マッチ箱からマッチを一本取り出し火を付けた。そうしている間にも、『イエティ』は迫る。


サウナ室で火照った故か、かじかむ事無く順調に進み、ダイナマイトの導火線に火が付けられた。間髪入れず先輩がダイナマイトをガソリンで満たされた大浴場に投げ入れる。


先輩がダイナマイトを投げた瞬間、鳥の『イエティ』が天井を破壊しその場に乱入した。

「良く来てくれた!これでまとめて消し飛ばせる!」

「センパイ!早く!」

サウナ室から後輩が手を伸ばし、先輩がその手を受け取る。そのまま先輩はサウナ室に消え扉が閉められた。


その時、ダイナマイトは高く優雅に弧を描き、誰もそれを止めぬまま、大浴場に満たされたガソリンに触れた。





後輩が見たのは、全壊した温泉旅館と燃える木々。そして今、目の前で火葬している子供の体。

「あの広さの温泉旅館が完全に倒壊して全壊するなんてな……せめてあの場に居た『イエティ』を倒せればそれで良かったが、どうやってあの量のガソリンを入手したんだろうか…………いや、今とにかく、住民達の置き土産で助かったな。後輩君は大丈夫か?」

「何とかっていう感じですかね。流石にあの大爆発には肝が冷えました」


大浴場に満たされたガソリンの大爆発であの場に居た『イエティ』や別の部屋に居た『イエティ』も全てが消滅し、サウナ室にいたお陰で大爆発の直撃を免れた2人は、倒壊した温泉旅館から子供の死体と一緒に這い上がり、子供の死体が『イエティ』と成ることを防ぐために、乾いた木を集めその子供の火葬をしていた。


「温泉も温泉旅館も木っ端微塵か……」

何処か思うところがあるのか、先輩は残骸の山と化した旅館をただ静かに見つめた。


「仕方ない。温泉は諦めて帰るぞ」

「え?!……いつも頑固で諦めが悪いのに……!こ……こんな諦めがいいセンパイなんて初めてだ……」

「鉛が欲しいか?」

「いいえ何でもございません」

「冗談はさておき。使えそうな物は全て回収するぞ。このまま帰ったら大損だ」

「了解です」





子供の火葬を見届け、残った骨を土に埋めた後、先輩と後輩は残骸の山を漁り、利用価値のある物を荷物入れに押し込んだ。

「それじゃあ爆速で帰るぞ。帰ったらまず燃料タンクの修理だ。あと情報屋にここが滅びたという情報を売れば、高く買い取ってくれるだろう」

「センパイ。今、誰か見られてた気が……」

「……『イエティ』は居ないな……気のせいじゃないか?」

「そう……ですかね」

先輩が残骸と化した温泉旅館を後にして、道なき森を歩き始めた。


「……………………」



―――?????―――



「――――――という具合だが、皆の意見を求めたい。我々が介入するか否か」


「このまま放置でも良さそうですね。私としては……もう少し阿鼻叫喚の爆弾を投下したい所ですが…………」


「馬鹿を言え。貴様、この組織の理念を忘れたのか。はぁ……これだから鬼畜商人と呼ばれ――――いや、もういい。この状態が続けば滅びるのは確実。介入して異常を取り除く他無いだろう」


「ふむ。それでは私は商会長として介入しましょうか。良き商売になりそうですので」

「何故そうなる…………」


「あーーーーーー――――――」

「おっと、誰か頭蓋を破壊してやれ。また自己宇宙に行ったきり戻って来ない」


「またか。そういえば、前回の会議でも自己宇宙に行っていたな」


「それならば、我が商会の商品を――――」

「貴様いい加減商売から離れろ!会議が進まんだろうが!」

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