Part.1.6 日常の始まり
翌朝は自分で起きることができた。寝室は2階だったので、1階で朝食の用意をしているキャロルと目が合い、キャロルはびっくりした様子だった。
「2日目から早起きできるなんてお利口さんね。顔を洗っていらっしゃい」やることをきちんとやれば優しく接してくれる人のようだ。
シスターが「今日から初めての日常だから、がんばりましょうね」と言う。オレは「肉体労働ですね。任せてください。」「そうです。教会は村の方々からの施しで生活しています。男手が少ない今、野良仕事の手伝いをしてください。魔法の勉強は夕食の前にキャロルの手が空いている時間に行ってください」とシスターが答える。
異世界転移したこの体はいわゆるマッチョで肉体労働に抵抗が無い。寧ろ役に立てる分、誇らしい気持ちになれる。一方、魔法の勉強は興味はあるものの、人の役に立てないので、少し後ろ向きになっている。
この日も農作業をこなし、教会に戻ると、キャロルが「練習してるの?」と聞かれ、「ちょっと疲れてて、集中できる気がしないんだ」というと、「そう」と悲しそうな答えが返ってきた。
「なぁ、キャロルはどのくらい魔法の練習をしたんだ?」と聞くと、「たくさんだわ、もう”たくさん”と言うくらいたくさんしたわ。それでも苗に水をあげたり、かまどに火をともしたりくらいしかできない。だから努力すれば伸びるかも知れないのに、おざなりにしているのが少し残念なの」と言う。
”ドキッ”とした。現世の仕事柄ある程度やっていれば良いという線引きをしていた。今もそうだった。キャロルはそれを見透かしているのに、叱ることはせず、自分の才能の無さを吐露することで、オレのやる気を鼓舞させようとしているのだ。
「(やっぱりこの人は26歳だ・・・)ごめんなさい。魔法の練習してきます!」
それから、オレの日常は朝早く起きて、野良仕事をして、疲れた体を絞って魔法の練習を行った。