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夜空に輝く星々  作者: XFA-27
第一章 始まり
2/2

第2話 悪魔との戦い

 数時間ほどの睡眠から目覚めた少女は、手入れを終えた装備を身に着け、自身の周囲を綺麗さっぱり片付けた後、遺跡の最奥にある巨大な階段へと向かった。

 降りるべきその先には密度の濃い瘴気が渦巻き、悍ましい呪詛と邪気が海鳴りのように響く。見下ろした先に(わだかま)る深淵は、階段に踏み出そうとする足を強張らせ、原初の恐怖を想起させた。


「……」


 頬を伝った冷や汗を拭いつつ、少し青褪めた顔で身体能力を引き上げる薬を飲み、意を決してゆっくりと階段を降り始める。

 闇と見紛うほど濃い瘴気を潜り抜けた先には、途方もない暗黒が広がっていた。

 小さな城なら全て収まってしまいそうな巨大な広間の中央には、複雑な紋様を描いた円形の術式とそれを囲むように配された太く長い石柱、最奥には座る者が誰もいない玉座。大剣を握る手に力を込めながら、少女は無言のまま歩を進める。これだけ濃い瘴気を発しながら、それを撒き散らす主がいない事に不気味な何かを感じつつ、広間の探索を始めようとした瞬間、巨大な塊が降ってきた。


 それは悪魔であり、人ならざる……そもそもが生命ですらなく、ただひたすらに破壊と暴力を撒き散らす者。ぼこぼこと肉塊を寄り集めたような醜悪な胴体に、角が乱雑に生えた歪んだ頭蓋をした頭部を備えさせ、長く細い腕と短い足を生やせばこんな存在になるのであろうか。


「あれが……悪魔」


 膝を突き、蒼白な顔で少女が灰色の塊を見た。ここまで数十歩も離れているというのに、圧倒的な存在感が足を持ち上げる気力さえ奪おうとする。桁違いの瘴気と邪気の中では、真っ当に動くことすら出来なかった。

 それでも少女は剣を握る手に力を込め、立ち上がり、悪魔を睨み、震える足を無理矢理動かして、走る。生きたいという意思に押され、がむしゃらに走った。


「はあああああっ!」


 絶叫し、大剣を振りかざして少女は突撃する。

 悪魔が、頭部に三つの炎を宿した。その不気味な炎が炯々(けいけい)たる眼光だと気付いた時には、四方八方から飛来した無数の刃が少女を切り裂く。だが真空の刃を浴びながらも、少女の繰り出した剣は止まらなかった。

 真っ向から叩き付けた剣が、悪魔の肉体を深々と切り裂く。だが、相手の巨体からすればさしたる痛手でもないようで、事実なんら痛痒を感じた様子もなく、悪魔は錫杖を振り抜いた。


「ぐっ……!」


 咄嗟に受け止めた盾ごと、少女の体が吹き飛ばされる。その直後、悪魔が天に差し上げた両手の間に青白い炎が浮かんだ。

 大気と混ざって紅蓮に染まった大火球と、続け様に放たれた真空の刃が立ち上がりかけていた少女を撃つ。

 火傷と裂傷で瞬く間にボロボロになりながらも、少女は雄叫びをあげて突撃する。すかさず悪魔は息を吸い込み、炎を吹き付けた。激しく燃え盛る炎に全身を炙られてもなお突撃を敢行する彼女に戦慄した悪魔は、相手を近付けまいと火球を乱射する。が、その悉くを剣で切り払い、苦し紛れに振り下ろされた錫杖をギリギリで掻い潜って腕に取り付いた。そして腕を駆け登ったかと思うと、自身の身体より大きな顔面に、渾身の一撃を叩き込んだ。

 突き刺した大剣を引き抜き、迸るどす黒い血と体液を要領よく避けつつ、頭部の角のうちで最も太く長い物に手をかけて跳躍し、空中に身を躍らせながら追撃で炎を槍状に固めた魔術を大量に叩き込む。


「はぁ……はぁ……はぁ……う」


 深刻な痛手と疲労を魔術で回復しつつ、少女は悪魔を見やる。左目が潰れ、大量の爆炎で深手を負った化物は床に突き刺した錫杖へ寄り掛かり、血走った目でこちらを見ていた。相対した時に感じた膝を突くほどの恐怖は鳴りを潜め、絶えず放射され広間に充ち満ちていた邪気が、大きく嵩を減じていた。

 傷と疲労を癒やした少女は、焼け焦げてボロボロになった盾を捨て、大剣を水平に構えると裂帛の気合いをもって突進した。一直線に相手を目指すその進路に悪魔が燃え盛る炎を吐き出すが、激戦で隆起した岩を踏み台にして回避されてしまう。跳躍した先に唸りを上げて突き込まれた悪魔の腕に、少女は剣を叩きつける。剣を支点にして腕に着地した少女は、最後の跳躍をした。

 無防備に晒された胴体に向けて垂直に振り下ろされた大剣は、易々と悪魔の肉を切り裂き断ち割っていく。

 どす黒い血と体液を滝のように撒き散らしながらニ、三歩後退し尻餅をつく。声もなく見上げる少女の視線の先で、悪魔が歪んでいく。足が崩れ、腕が落ち、邪気を寄り集めた肉体が、崩れ落ちていく。

 広間に、断末魔の咆哮が響き渡る。それは禍々しく、恐ろしく、そして悍ましい絶叫。

 悪魔は跡形もなく、闇へと溶けていった。

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