第1話 遺跡調査
「……ここが依頼書に記されている場所か」
鬱蒼とした森の中にぽつんと佇む苔と蔦にまみれた巨大かつ堅牢な石造りの遺跡。そこへ、多少頑丈な旅人用の服にハードレザーアーマーを纏い、怪我防止の為に鋼製の膝当てと脛当てを革紐でブーツに括り付けた金髪碧眼の少女が、手元の依頼書を見ながら一言呟いた。
「防具良し、薬良し、武器も良し。魔物は……いないな」
遺跡に突入する前に自身の状態と周囲を確認した少女は、腰に提げた角灯に火を灯す。足元の雑草を右手のロングソードで打ち払いながら、堅く閉じた大扉に近付いて罠の確認をする。
罠の確認を終えた少女は、腰に着けた魔法の道具袋から取り出した一本の縄を、扉の取っ手に括り付けた。軋んだ音を立て、ゆっくりと開いた大扉の向こうから数十体の群れを成して襲って来たのは、燃え盛る火炎に不気味な顔を浮かべた炎の魔物。
「いきなりか!」
先頭にいた数体が突進してきたが少女はそれを危なげなく斬り捨て、包囲の為に散開していた数十体に向けて突撃しつつ、すれ違い様に斬り伏せる。瞬く間に総崩れとなった炎の魔物たちの残党が知恵を巡らせて後方から火を吹き付けてきたが、あっさりと盾で振り払われ斬り捨てられた。
「今回の探索は心臓に悪そうで……」
跡形もなく敵の消滅した戦場で、胸を押さえて息を吐きつつ、開かれた扉の向こうを険しい顔つきで見やる。長く伸びた石造りの通廊は、各所に設けられた燭台の炎で濃い陰影を抱き、むせ返るような瘴気が立ち込めていた。
「手強そうだな」
探索を始めて、すぐに自身の言葉が正しかったことを身をもって思い知らされた。遺跡内部は複雑な構造と、罠、そして次々と襲い来る無数の魔物によって、彼女の行く手を阻む。その頻度も、魔物の強大さも、これまで経験してきた物とは桁違いだった。
◇
直立する黒光りした肌の牛人が、巨大な斧を剛腕で振り回し、魔族の術師が邪悪な祈りを篭めた氷嵐の魔術で援護する。斧と魔術の連携に対抗する為に、薬を用いて槍を並べた落とし穴へと誘い込み、術師を蹴り落としてから前後不覚の牛人を背中の大剣で斬り伏せる。
鶏冠を持った巨大な走鳥が大群で迫った時は、頭の悪さを利用して火薬樽が大量に置かれている大部屋に誘導し、全滅させた。尚、群れに混ざっていた火炎を吐き出す巨大蝦蟇は、一目散に走り出した走鳥たちに轢き潰された。
雷を纏った紫肌の魔人は、幻惑の罠で混乱させて動きを封じた隙に、罠の範囲外から大火球で焼き尽くした。
邪悪な魔力で動く石柱は大剣で砕かれ、ねじれた角を持つ巨大な鳥は得意の突進を利用されて穴に落ち、鋼鉄製の鎧を着込んだ腐った肉体の騎士達は、まともに斬り合えば不利は否めない為、燃え盛る火炎を吹き出す罠に誘い込んで焼き尽くした。
そんな休む間もない激戦の連続は、何度も少女を窮地に追い込んだ。だが、強力な魔物達との戦いは彼女に経験を積ませ、探索を始めた当初より二回りほど強くなっていた。
そうして探索を続けた数時間、とうとう遺跡の最奥に辿り着いた少女は近くの小部屋に入ると、魔法の道具袋から魔物避けの香を取り出して扉の側に置く。邪魔な装備を外して汗と血が染み込んだ服と下着を脱ぎ、豊満で艶やかな肢体を露わにした彼女は道具袋から取り出した水筒で布を濡らして身体を拭き始めた。
そうして身体を拭き終わった少女は替えの下着と服に着替え、不味い干し肉を食べながら血で汚れた装備の手入れをし、道中で手に入れたアイテムや装備を整理して、寒さを防ぐ外套に身を包んで眠りに就くのであった。