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転生したら無能王子だったから引きこもってみた  作者: 覚賀鳥
新しい仲間達(ジパング)
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第69話 黄金郷シレイラ・ドリームランド

 

 パーティー『ジパング』が結成され、オリハルコンの精製にも成功した数日後。

 シレイラ村のベルの屋敷に、王都から一通の書状が届けられた。それは、フィリスティア王国国王イラーフ直々の勅命であった。


『聖九剣ガラハド討伐における多大なる功績を鑑み、準男爵ベル・シレイラを男爵へと昇爵させる。叙爵式は一ヶ月後、ベル・シレイラが治めるシレイラ村にて執り行うものとする』


「……なんですって!?」


 書状を読み上げたアナの甲高い声が、のどかな村に響き渡った。


「叙爵式を、こんな寒村で執り行うですって!? 普通、王城の謁見の間でやるものでしょう! お父様は、一体何を考えているの!?」


「まあまあ、アナ。きっと、僕がこの村をどれだけ発展させたか、陛下が直々に見に来たいってことですよ。光栄なことじゃないですか!」


 ベルはどこまでもポジティブだった。

 しかし、アナの懸念はもっともだった。アナは、この不可解な決定の裏に、忌々しい政敵の顔がちらついているのを即座に見抜いていた。


「光栄なわけないでしょう! これは嫌がらせよ! 第一王子派の長、あのデップリ肥満公爵……クル・クレイマーの差し金に決まってるわ! 王都の貴族たちに『辺境領主など、この程度よ』と貧相な村を見せつけて、あなたの功績を貶めようっていう魂胆よ!」


「アナにゃんの言う通りニャ! こんなボロい村じゃ、王様もがっかりニャ!」


 テトまでが追い打ちをかけるように失礼なことを言う。

 だが、ベルは自信満々に胸を叩いた。


「大丈夫! 心配ご無用! あのタヌキ公爵の思惑通りになんてさせませんよ。この僕に任せておけば、一ヶ月後には、王都のどんな宮殿よりも素晴らしい、世界一の式典会場にしてみせますから!」


 その根拠のない自信に、アナは盛大なため息をつくしかなかった。

 そして、運命の一ヶ月後――。




 叙爵式当日。

 ゼブル商会の巨大な紋章を掲げた、ひときわ豪華な馬車がシレイラの森を抜けた。

 中に座るのは、ゼブル商会を一代でフィリスティア王国屈指の大商会へと押し上げた若き会頭、ザーフェル・フィリスティア。フィリスティア王国の第四王子にして、ベルの親友である。


(やれやれ、ベルの叙爵式をこんな辺境でやるとはな。クレイマー公爵も、相変わらず陰湿なことを……)


 ザーフェルはため息をつきながら、窓の外に目をやった。彼が知るシレイラ村は、小さな民家が数軒あるだけの、寂れた場所だったはずだ。

 だが、森を抜けた先で目に飛び込んできた光景に、冷静沈着な彼も、さすがに言葉を失った。


「……御者、道を間違えたか? それとも、私は異世界にでも転移したのか?」


 無理もない。

 彼の目に映っているのは、もはや『村』と呼べる代物ではなかった。

 かつて小さな集落があった場所は、天を衝く巨大な城壁に囲まれ、その門をくぐった先には、この世の全ての黄金を集めて塗りたくったかのような、悪趣味一歩手前の、絢爛豪華な街が広がっていたのだ。


 領主の屋敷、民家、商店、果ては道端のベンチやゴミ箱に至るまで、全てが金ピカ。太陽の光を反射して、街全体が後光を放っているようにすら見える。


 そして、その黄金都市の中央には、天を衝くほど巨大な『観覧車』がゆっくりと回り、猛スピードで駆け抜ける『ジェットコースター』からは人々の楽しそうな絶叫が響き、優雅な音楽に合わせて木馬が上下する『メリーゴーランド』がキラキラと輝いている。


 そう、そこはもはや村ではなく、巨大な『黄金の遊園地』へと変貌を遂げていたのである。


「ベ、ベルーーーーーっ!!」


 フェルは馬車から転げ落ちるように飛び出すと、黄金の城(ベルの屋敷)の前で出迎えたベルに駆け寄った。


「これは一体、どういうことだ!? 私が一ヶ月、王都で準備に奔走している間に、この村に何が起こった!?」


「やあ、フェル! よく来てくれました! どうです? すごいでしょう! 『黄金郷シレイラ・ドリームランド』へようこそ!」


 悪びれる様子もなく、テーマパークの支配人のように胸を張るベル。

 そこに、同じくあまりの光景に頭痛をこらえていたアナが、わなわなと震えながら詰め寄った。


「すごいでしょう、じゃないわよこのバカベル! あなた、正気!? 村を丸ごと金ピカにするなんて、どんな成金趣味よ! センスが絶望的に終わってるわ!」


「えー、そうですか? 僕は結構イケてると思うんですけど。僕たちのパーティー名も『ジパング』ですし、黄金の国って感じで統一感があって良くないです?」


「良くないわよ! 目が! 目がチカチカするのよ!」


 アナがベルの胸ぐらを掴んでガクガク揺さぶっていると、ベルは思いを馳せていた。


 この村がこうなったのには、ちゃんと理由がある。ベルの【工房魔法】がLV4へと進化した時に覚えた【データベース】という機能。


 ベルが指を鳴らすと、彼の目の前に半透明のウィンドウが現れた。そこには、彼がこれまで工房魔法で製作したありとあらゆるアイテム――ポーションからインゴット、果てはオリハルコンまで――がリスト化されていた。


 この【データベース】は、一度でもベルが製作した物なら、なんと、素材もいらず、消費MPも10分の1で、一瞬で複製できるのだ!


 それはつまり……


 彼は今、MPが続く限り、無限に『金』を生み出すことができるということ。

 素材不要、コストはMPのみ。まさに、歩く造幣局。国家錬金術師も真っ青の、神の領域のチート能力だった。


 フィリスティアの国家予算を、いや、大陸中の富をかき集めても、ベル一人には敵わないという事……


 ベルが思いを馳せている頃、もう一台の、これ見よがしに豪華な装飾が施された馬車が、シレイラ村の門をくぐっていた。

 乗っているのは、今回の叙爵式の仕掛け人、クル・クレイマー公爵その人であった。デップリと肥え太った体は、馬車の座席を一人で占領している。


「フンッ、着いたか。あの小僧が治める『捨てられの村シレイラ』に。さあ、どれほどみすぼらしいか、この目でとくと拝んでやろう。そして、王侯貴族たちの前で、奴に赤っ恥をかかせてくれるわ! ぶひっ、ぶひひひひ!」


 下卑た笑い声を上げながら、クレイマー公爵が馬車の窓から顔を出す。

 そして、目の前に広がる黄金郷を見て――固まった。


「……な……なな……」


 彼の小さな豚のような目が、限界まで見開かれる。


「なーーーーーーーーーーーーーーーーーーにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいッ!?」


 公爵の絶叫が、シレイラ村に響き渡った。

 彼はあまりの衝撃に、泡を吹いて白目を剥くと、そのまま後ろにひっくり返り、馬車の中で気絶した。哀れな家臣たちが、必死に公爵の巨体を揺さぶる羽目になったのは言うまでもない。




 アナは、ふと疑問に思った。


「でも、こんなに派手なものを作って、一体誰が運営しているの? そもそも、この村の領民は、以前は数えるほどしかいなかったはずじゃ……」


 その問いに、フェルが少しだけ真面目な顔になって答えた。


「それこそが、ベルがこの『遊園地』を作った、一番大事な理由なんだ。―――アナ、知っているかい?このシレイラ村が、かつてどのような場所だったのかを」


 フェルが語り始めたのは、この村の悲しい真実だった。


 王都エクロンは、華やかな表の顔とは裏腹に、厳しい現実があった。病や怪我で働けなくなった者、親を失い行く宛てのない子供たち、家族に養ってもらえなくなった老人……。


 そういった、社会のセーフティネットからこぼれ落ちた人々が、最終的に『廃棄』される場所。それが、このシレイラ村だったのだ。


 ベルは、彼らに住む家を与え、飢えを満たす食事を与えた。そして、何よりも、彼の持つ治癒再生魔術で、彼らが抱える病や怪我を、一人残らず癒していったのだ。


「体が元気になっても、彼らには働く場所がなかった。だから、ベルは考えたんだ。彼らが、誇りを持って、笑顔で働ける場所を作ろう、と」


 それが、この『黄金郷シレイラ・ドリームランド』だった。


 アナが遊園地を見渡すと、そこには信じられない光景が広がっていた。


 ジェットコースターの乗り場で、安全確認をしていたのは、かつて王都で足を引きずっていたはずの元兵士。

 ポップコーンを売る売店の店員は、子供たちに優しい笑顔を向ける、かつては孤独に震えていた老婆。

 メリーゴーランドの操作をしていたのは、シレイラ村で生きるために盗みを働いていた孤児たちだった。

 誰もが、生き生きとした表情で、自分の仕事に誇りを持ち、訪れる客たちに心からの笑顔を向けている。


「遊園地の経営は、我がゼブル商会が一手に引き受けている。つまり、この村の領民は、ほぼ全員がゼブル商会の正社員だ。安定した給料と福利厚生が保証されている」


 ベルの理想を、フェルが完璧なビジネスモデルとして現実の形にしたのだ。

 そして、仕上げに打った手が、エクロンタイムズへの大々的な広告だった。


『東方に、黄金の楽園現る! 夢と魔法の王国、シレイラ・ドリームランド、堂々開園!』


 そのセンセーショナルな広告は大当たりし、人々は噂の黄金郷を一目見ようと、シレイラ村に殺到した。

 かつて『捨てられの村』と呼ばれた場所は、今や王国で最も活気のある観光都市へと生まれ変わっていた。


「……あなたって、本当に……」


 アナは、言葉を失っていた。

 最初は悪趣味な成金趣味だと罵ったこの黄金の村が、実は、誰よりも優しい、壮大な救済計画の結晶だったのだ。

 領民たちの幸せそうな顔を見て、ベルのやり方を認めないわけにはいかなかった。


「……まあ、結果的にみんなが幸せなら、金ピカでも悪くないのかもしれないわね。……ちょっとだけ、見直してあげてもいいわ」


 ぷいっとそっぽを向きながら言うアナの耳が、ほんのり赤く染まっていたのを、ベルは見逃さなかった。




 やがて、陽が落ち、遊園地に魔法の灯りが灯り始める。

 黄金の建物やアトラクションがライトアップされ、昼間とはまた違う、幻想的でロマンチックな光景が広がっていた。


 叙爵式の会場は、黄金の城のバルコニー。


 イラーフ王と、その幼馴染であり王国の宰相を務めるテルミニ・イメレーゼ侯爵を乗せた王家の馬車が到着した。


「……テルミニよ。俺は、夢でも見ているのか?」


「陛下、残念ながら現実でございます。あれが、シレイラ卿の治める村の、現在の姿にございます。クレイマー公爵の小さな嫌がらせなど、赤子の手をひねるより容易く、それ以上の成果に変えてしまう……。まったく、末恐ろしい若者ですな」


 イラーフとテルミニは、呆れを通り越して、もはや楽しそうに笑っていた。


 一方、家臣に叩き起こされたクレイマー公爵は、現実を受け入れられず、バルコニーの隅で


「ありえん……こんなことはありえんのじゃ……我がクレイマー家の財産を全て注ぎ込んでも、こんなものは作れん……」


 とブツブツ呟き、ぐぬぬと歯ぎしりをしていた。


 やがて、ファンファーレが鳴り響き、叙爵式が始まった。

 バルコニーに現れたベルは、仲間たち――アナ、フェル、ウール、ヘレン、フィン、テトに見守られながら、イラーフ王の前に進み出て、恭しく膝をついた。


「面を上げよ、ベル・シレイラ」


 イラーフ王の荘厳な声が響く。


「そなたの功績は、王国の歴史に燦然と輝くもの。よって、本日この時をもって、そなたを準男爵より男爵へと昇爵させることを、フィリスティア王国国王イラーフの名において、ここに宣言する!」


 王が掲げた剣が、ベルの肩にそっと触れられる。

 その瞬間、遊園地の夜空に、色とりどりの魔法の花火が打ち上げられた。

 集まった観光客や領民たちから、割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こる。


「ベル様、おめでとうございます!」


「男爵様、万歳!」


 領民たちの心からの祝福の声に、ベルは立ち上がり、バルコニーの縁に立った。

 眼下には、自分が作り上げた、光り輝く楽園が広がっている。

 そして、その楽園で笑う、かつては希望を失っていた人々の顔、顔、顔。

 隣には、どんな無茶な夢物語も、笑わずに信じてくれる、最高の仲間たちがいる。


(これが、僕の理想の国の、最初の形)


 ベルは胸の中で呟いた。


(誰もが見捨てられず、誰もが笑って暮らせる場所。黄金の村シレイラ。僕のパーティー『ジパング』の、誇るべき最初の拠点だ)


 新たな爵位を得て、ベル・シレイラ男爵の物語は、また新たなステージへと進む。

 黄金の国の名を冠したパーティー『ジパング』の伝説は、この輝かしくも騒がしい、奇跡の村から始まろうとしていた。


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