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転生したら無能王子だったから引きこもってみた  作者: 覚賀鳥
新しい仲間達(ジパング)
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第62話 従魔と結界

 放課後の鐘が校庭に三度、柔らかく反響して消えるころ、ベルたち五人は人の気配のない教室に集まっていた。窓から差し込む橙の光が長机の影をのばし、黒板には昼間の「位相ずれ補正」のチョーク跡がうっすらと残っている。誰もいない校舎の静けさは、妙に胸の鼓動を大きく感じさせた。


「じゃあ——シレイラ村に行こうか」


 ベルの言葉にアナは腕を組んだまま前のめりに注意深く見つめてくる。


「ここは学院の中。教室内よね? どういう事よ? バカなの? あっ、バカだったわね…」


「まあまあ、アナ、ベルの言葉を聞いてみようじゃないか」


「ふう… ありがとうございます。フェル。それでは、ここからシレイラ村に飛びますよ」


「転移魔術・発動」


挿絵(By みてみん)


 青紫に光る魔法陣が浮かび上がり、教室を照らし、アナの眉がわずかに上がる。


「な、な、何よこれ――!?」


「これは… もしかしたらこの陣を潜ればシレイラ村にいけるのかい…?」


 フェルがゆっくりベルに聞く。


「そうですね。マーキングさえできればどこへでも一瞬で行けますよ」


「「「「す、すごい(ニャ)!!」」」」


 ベルはアナに手を差し出した。


「じゃあ、手を」


 アナは一拍置いてから人差し指だけを絡め、軽く掌を重ねる。


「行くよ。——シレイラ」


 空気だけが音もなく滑った。教室の匂いが剥がれ、紙とインクの味が薄れ、代わりに温かい小麦の香りと、湿った土の匂いが肺を満たす。


 目を開けると、そこはもう学院の教室ではなかった。 村の中央にどっしりと構える、石で組まれた共同窯が白い息を吐き、井戸の滑車が「きい」とどこか懐かしい音を立てている。遠くからは、子どもたちの元気な声が聞こえてきた。


「あ! 領主さまだー!」


「おかえりなさーい!」


 その声は、夕暮れ間近の放課後の空へと、元気いっぱいに跳ねていった。


「ようこそ、僕の村、シレイラへ。……そして、ただいま」


 ベルがはにかみながら笑った、その時だ。共同窯の陰から、見慣れた二つの影が現れた。どちらも、フィンやテトと同じ、銀色の髪と銀色の瞳を持っている。


「ベル。連絡よりずいぶん早いじゃないか。お前らの歓迎用のパン、まだ焼き上がってないぞ」


 ウールが仏頂面で言うが、それをヘレンが補う。


「ふふ、ベル様にいただいた新しいイースト菌とショートニング、それにバターをたっぷり使った特製のパンは、村でも大好評で、焼き上がったそばからすぐになくなってしまうんです……」


「へぇ! 美味しい物が作れるようになるのは、良いことですね! 食べることは、生きることの基本ですから!」


 ベルが頷くと、口をあんぐりと開けて周囲の景色と突然現れた二人に驚きを隠せない学院組の中で、ヘレンがアナの姿を見つけ、完璧なカーテシーを行った。


「アナトリア王女殿下。またこうしてお目にかかれて、光栄に存じます」


「あなた… たしかベルの脚を頭の上に置いてた、大人の女…… なんでここにいるのよ!?」


アナが最大級の警戒心と共に、戦闘態勢に入る。そんなアナに対し、ヘレンは少しも動じず、妖艶な笑みを浮かべた。


「それは… 大人の事情でございますよ、姫様」


 からかうようにヘレンが挨拶をしているとウールが声をかける。


「ん? そっちのチビ二人も、銀髪に銀眼か……。お前らも、もしかして元日本人か?」


 その言葉にテトはぴん、と耳を立てる。


「ニャッ!? あなたもそうなのニャ!? あたしは、元日本人ニャ! アニメと猫とカレーパンを愛していたニャ!」


「ぼ、ぼくも……詳しいことは分からないけど、身元は、たぶんそうです。覚えているのは、断片的な記憶だけで……白い天井とか、機械の音とか……」


 ウールの瞳に、ふっと懐かしさの影が浮かぶ。


「そうか。……ようこそ。銀の目の仲間たち。ここは、俺たちみたいな『迷子』が、いつでも帰ってきてもいい場所だよ」


 そのぶっきらぼうだが温かい言葉に、フィンとテトの緊張が少しほぐれたのが分かった。 パンッ!とヘレンが手を叩き、明るい声で場の空気を変える。


「さあさあ、そんな話は後でゆっくり! ちょうど歓迎のパンが焼き上がりましたよー! 一枚目は、耳までサクサクの焼きたてでどうぞ!」


 その言葉を聞いた瞬間、テトの尻尾が、まるで巨大な風車のように猛烈な勢いで回転を始めた。フィンはその隣で嬉しそうに苦笑している。

 アナは「べ、別にパンなんかに興味ないんだから」と表情を崩さないが、鼻先がくんくんと香りを深く吸い込んでいるのをベルは見逃さなかった。

 フェルに至っては、もはや王族の威厳も忘れて「城に戻る前に、ぜひ一口いただきたいな」と素直に呟いていた。


 焼きたてのパンで腹を満たし、少し打ち解けた雰囲気になったところで、ベルは本題に入る。ウールが地面にあぐらをかいて座り込み、ヘレンは板書係のようにメモを構える。


「――じゃあ、解析を始める前に、まず大事なことを一つ。テト、フィン。二人の『無属性』っていうのは、『何も無い』って意味じゃない。むしろ逆で、『無限の可能性がある』ってことなんですよ」


 ベルはそう前置きすると、無属性の魔法が、普通の魔法とは違って発動に一工夫が必要な理由を、分かりやすく説明していく。そして、いよいよ二人の能力を解析するために、瞳に意識を集中させた。


「解析魔術・発動」


 ベルの瞳に紫色の魔法陣が浮かび上がる。複雑な幾何学模様が瞳の奥で回転し、テトとフィンを見つめた。二人の体から立ち上る魔力の流れが、まるで色彩豊かなオーロラのようにベルの視界に映る。


「テト、君の魔法は……うん。これは『従魔魔法』だ。魔物や動物と心を通わせて契約し、そのステータスの一部を自分のものとして使えるようになる。レベル1だと契約できるのは1匹、レベル2だと2匹……レベルが上がるごとに、契約できる従魔の数が増えていくんだ」


 それを聞いたヘレンが、ぱっと目を輝かせた。


「それって、ポケ……連想するアレですね! つまり、あの世界的に有名な、モンスターを集めて戦わせるゲームみたいな……! 連想するアレですね!」


 ウールが横目で牽制する。


「固有名詞は伏せろ、ヘレン、誰かに怒られるからな」


 ベルは咳払いを一つして、説明を続ける。


「従魔の能力を完全に取り込むわけじゃない。イメージとしては『重ねる』感じかな。例えば、森に住む猫の『敏捷性』、沼にいる亀の『耐久力』みたいに、状況に応じて必要なステータスを自分に重ね合わせることができるんだ」


 テトは目をまん丸にして、自分の胸にそっと手を当てた。


「あたしにも、従魔が呼べるのニャ?」


「今すぐは無理だけど、やり方さえ覚えればすぐにできるよ。契約には、まず相手を見つけないといけないからね。この村の外れの森に、君と相性が良さそうな、小さくて可愛い魔物たちがいるんだ。詳しい説明はあとで。――じゃあ次、フィン」


 ベルは視線をフィンに向けた。解析魔術の魔法陣がより複雑に回転する。


「冷たい。透明。でも確固たる意志を感じる……結界だ」


 フィンの喉が鳴る。


「け、結界……魔法、ですか?」


「そう。無属性型の結界魔法だ。色がない、つまり属性がないからこそ、どんな属性の攻撃に対しても高い防御力を発揮できる。レベルに応じて結界の強度と複雑さが上がって、レベル1なら基本的な防御結界だけど、レベルが上がれば複数の結界を同時に展開したり、特殊な形状の結界を作ったりすることも可能になる」


 アナが興味深そうに一歩近づく。


「防御に特化した魔法……攻撃魔法の使い手に比べて、習得者が極端に少ない貴重なタイプね。素晴らしいじゃない」


 しかしその言葉に、フィンは顔をぱっと明るくさせるどころか、逆に俯いて顔を曇らせてしまった。唇をきゅっと噛みしめ、ローブの袖を握る手に力が入る。


「……ぼくは、ゲティングス辺境伯家の三男です。フィリスティア王国の西を守る家で、隣国と常に国境を接していて……家の教えは『攻撃こそ防御』。父も兄たちも、矛を振りかざし、火の魔法で敵を焼き払う戦い方こそが正義だと信じています」


 言葉はそこで一度、途切れた。彼の胸の奥に積もった劣等感が、少しずつ形を変える。


「父の異名は『烈火の矛』、長兄は『紅蓮突き』の使い手、次兄は『爆炎槍』を得意としています……みんな、強力な火の魔法と、家に伝わる矛術を組み合わせた、攻撃力に特化した戦闘スタイルです。敵を圧倒的な力でねじ伏せること。それが、ゲティングス家の誇りなんです」


 フィンの声が、悔しそうに震える。


「でも、ぼくは……無属性で、魔法が使えなくて……家では『役立たず』って陰で言われて……」


 その痛々しい告白に、場の空気が少し重くなった。その時、ベルが静かに手を上げた。


「フィン。『攻撃こそ防御』は、確かに間違いじゃない。でもね、その逆もまた、真理なんだよ」


「え?」


「『防御こそ攻撃』だよ」


 ベルは地面に落ちていた小さな石ころを拾うと、木の枝で砂の上に簡単な図を描き始めた。


「例えば、君がいつも使っている矛の先端にだけ、君の結界を極小サイズで展開する。紙よりも薄く、でもダイヤモンドより硬く、そして世界で一番鋭利にね。そうすれば、たとえ矛の刃が鈍っていても、その先端は、どんな鎧でも貫く世界で一番硬い『点』になる。貫通力は、君のお兄さんたちの魔法槍を遥かに凌駕するはずだ」


 それを聞いたウールが、ポンと指を鳴らした。


「なるほど、結界の局所展開か。魔力消費も最小限に抑えられるし、理に適ってる。面白いな」


 ヘレンが板書に「最強の矛(先端特化型)」と大書きして、フィンの顔を覗き込む。


「ほら、最強って書いてますよ」


「それだけじゃない」


 ベルはにっこり笑って、説明を続ける。


「結界で矛の刃全体をコーティングすれば、戦闘中の刃こぼれや摩耗を完全に防げる。つまり、切れ味は絶対に落ちないし、攻撃回数も増やせる。結果的に、一撃の威力も上がる。君の家の教えである『攻撃こそ防御』という理念を、君の結界魔法は、誰よりも高いレベルで実現できるんだよ」


 フィンの目に、小さな光が灯った。


「……やってみたい。ぼくの結界で、矛を強くする」


「その意気だ。まずは結界の局所展開と、形状をコントロールする練習から始めよう。微妙な角度調整を覚えれば、敵を貫いた後も刃を守る『鞘』のような役割も果たせるようになる。断言するよ。君の家の矛術を、世界で一番活かせるのは、他の誰でもない、君自身だ」


 その力強い言葉に、フィンはこくりと頷いた。 すると、今まで黙って話を聞いていたテトが、元気よく両手を上げた。


「あたしも! あたしも、従魔の練習がしたいニャ!」


「ああ、もちろんですよ。二人とも、今日からみっちり基礎から始めましょう!」


 ベルは立ち上がると、夕日で赤く染まり始めた村の外れを指差した。


「よし、決まりですね! テトは僕と一緒に森で従魔契約の練習! フィンはウールとアナに見てもらいながら、ここで結界の基礎制御! 夕飯まで、地獄の(でも楽しい)特訓開始です!」


 森の縁は、夕暮れの光が木々の間から差し込み、地面を金色に染めていた。秋の虫の声がさざめき、葉を渡る風が汗ばんだ肌に心地よい。ベルは先頭を歩きながら、周囲の魔力の流れを慎重に探っていた。


「……いた。あそこだ。――魔物のマオリス」


 ベルが指差した先の木の葉の陰から、小さな光の粒が、ふわりと浮かび上がった。手のひらに乗るくらいのサイズの小さな魔物で、丸い耳と綿毛のような尻尾を持っている。どこからか、焼きたての木の実のような甘い香りがした。


テトはそれを見た瞬間、目をキラキラに輝かせた。


「かわいいニャ……!」


 彼女は思わず駆け寄りそうになるが、ベルがそっと手で制する。


「テト、待って。従魔契約は、力で支配する魔法じゃない。お互いの同意に基づく『パートナーシップ』なんだ。だから、基本は『お願い』と『約束』だよ」


 ベルは懐から、森で拾った小さな木の実を二つ取り出した。


「一つはテトの分。もう一つはマオリスの分だ。お互いに自分の実を相手に渡して交換して、同時に食べる。その時、しっかり相手の目を見て、呼吸を合わせて。力じゃない、心で繋がるんだ」


 テトは真剣な表情になり、木の実をそっと手に取る。マオリスもふわりと近づき、小さな手で木の実を持ち上げる。二人……いや、一人と一体が、お互いの瞳を見つめ合って、同時に一口ずつ齧った。


 次の瞬間、テトの背中に温かな風が通り抜ける。尻尾の根元がほんのり暖かく、耳の裏がわずかに痺れる。足元の重力が、少しだけ軽くなったような感覚。


「繋がった。テト、動いてみて」


 テトは軽く跳んだ。いつもより滞空時間が長く、着地も軽やか。膝への負担が明らかに軽減されている。


「軽いニャ! 体が羽みたいニャ!」


「マオリスは、敏捷性と空間認識能力に優れた魔物です。その能力が、テトの野生の直感と組み合わさることで、動きの精度と軽やかさが格段に上がる。これが従魔魔法の基本。こうやって一体ずつ、信頼関係を深めていくことが大事なんですよ」


 テトは嬉しそうに、マオリスの小さな頭を、そっと指先で撫でた。


「ありがとうニャ、マオリス。これからよろしくニャ!」


 マオリスもそれに応えるように、嬉しそうに光を一層強く点滅させた。




 一方その頃、フィンは小さな原っぱでアナとウールに見守られながら、木の棒を握っていた。棒の先端を、ベルが白い粉で印をつけている。


「いいか、フィン。結界の極小展開だ。まずは、厚さは紙一枚から始める。その棒の先に、『透明なラップ』をぴっちり貼るようなイメージでやってみろ」


 ウールが補足説明をする。


「結界ってのは、物質でもあり、魔力でもある。面白いことにな、密度を変えることで『固体』『液体』『気体』みたいな特性を持たせられるんだ。だから最初は、硬すぎず、柔らかすぎない『ゼリー』をイメージしろ。柔軟性と保持力のバランスが取れてるから、コントロールしやすいはずだ」


 フィンはこくりと頷き、ゆっくりと呼吸を整える。四つ数えて息を吸い、四つ数えて息を止め、四つ数えてゆっくりと吐く。意識を、目の前の棒の先端、白い丸だけに集中させ、そこに透明の膜をそっと置くイメージを描いた。


 空気が、ほんのわずかに重くなったような気がした。ウールが近くの木の葉を一枚ちぎり、それを棒の先にそっと近づける。すると、葉はなんの抵抗もなく、音もなくスッと二つに切れた。


「えっ……今、切れた?」


 アナが驚きの声を上げる。フィン自身も信じられないといった様子で、自分の手の中の棒と、地面に落ちた葉を見比べた。


「……ぼくの、結界で?」


「ああ。普通の刃物と違って、『面』で切ったからな。結界は『面』そのものだ。だから、こんなに繊細な切断ができる。厚さと角度を自在に調整できるようになれば、切れ味は思いのままにコントロールできるぞ」


 フィンの胸が熱くなる。守るだけじゃない。攻撃にもなる。彼の家の「攻撃こそ防御」という教えが、もう一つの意味を持って迫ってくる。


「よし、次は硬度を上げる練習だ。いいか、結界の強度は『決意』の強さ、持続力は『集中』の深さ、そして形状は『イメージ』の明確さで決まる。心の中に、お前が絶対に守りたいものを思い浮かべてみろ」


 守りたいもの——浮かんだのは、今ここにいる皆の笑顔だった。ベルの優しい微笑み、アナの厳しさの裏にある温かさ、テトの無邪気な笑い声、フェルの穏やかな眼差し、ウールとヘレンの飄々とした親しみやすさ。胸がぎゅっと締まる。その想いが、結界の面に溶け込んでいく。


 棒の先が、先ほどとは比べ物にならない密度の、透明な何かに包まれた。ウールが近くに転がっていた小石を拾い上げ、それを結界に軽く押し付ける。すると、石の表面が、まるで豆腐のように音もなくスッと削れた。


 アナが思わず眉をひそめる。


「これは……使い方を間違えれば、非常に危険な力にもなり得るわね」


 ちょうど森から戻ってきたベルが、その言葉に頷いた。


「だからこそ、フィンには約束してもらう必要があります。フィン。君の結界は、人を傷つけることもできる、強力な力。でも、その力で誰を守り、何を断つかを選ぶのは、他の誰でもない、君自身ですよ」


 フィンは迷うことなく頷いた。


「約束します。ぼくの結界は、大切な人を守るためだけに使います」


 その誓いは、誰に強制されたものでもない、彼自身の心からの言葉だった。


 練習は、空が完全に闇に染まるまで続いた。テトはマオリスとの連携を深め、その敏捷性を自分の動きに取り込むコツを掴み始めた。フィンは結界の膜をさらに薄く、そして硬くし、形を自在に変える訓練を重ねた。棒の先端だけでなく、自分の手のひらに極薄の防御結界を展開し、飛んできた小石を弾き返すことさえできるようになった。


 夜。村の広場の焚き火の周りで、皆が輪になって座る。ヘレンが作ってくれた温かいスープと、焼きたてのパン、そして少しのチーズが、疲れた体に染み渡った。 テトは早々に満腹になり、マオリスをお腹の上に乗せて幸せそうに寝息を立てている。フィンは、そんな皆の姿を黙って見つめた後、ぽつりと空に呟いた。


「ぼく、家に帰ったら……父上や兄上たちに、なんて言われるかな……」


 その不安がこもった言葉が、湯気のように夜空に溶けていく。ベルは黙って焚き火の薪をくべ、空に舞い上がる火の粉を見送った。


「家に帰ったら、まずは『ただいま』って言ってみなよ。返事がどんなものでも、それが今の君の『家』の最初の反応だ。そしたら君は、君自身の言葉で応えればいい。君の結界は君だけのものなんだから、君の道だって、君だけのものなんだ」


 アナが静かに付け加える。


「それに、もしそれでも困ったときは、私や兄様を頼りなさい。王家の名において、あなたの力になるわ」


 そして、寝ていたはずのテトが、むくりと起き上がって両手を大きく伸ばした。


「そして、あたしたちはいつでもフィンの友達ニャ! 一人で悩むのは禁止ニャ!」


 その言葉に、フィンは俯いていた顔を上げ、ゆっくりと仲間たちの顔を見回した。 焚き火の暖かい光が、皆の笑顔を優しく照らしている。 フィンは、小さく、しかしはっきりと頷いた。もう、一人じゃない。そう思うだけで、胸の奥から不思議な勇気が湧いてくるのだった。


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