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第56話 王の覚悟


 城内は混沌とした様相を呈していた。壮麗なはずの中央広間も、今や土砂と煙が立ちこめ、そこに立つ化け物――かつて人間であったガラハドの姿は、見事にその荘厳さを覆していた。


 ガラハドは、何らかの暗い力に取り憑かれ、その身を化け物へと変えられてしまったのだ。その巨大で醜い姿は、既に人間とは思えないほど歪曲していた。


「吹き抜ける天駆ける風よ、我に天使の翼を与えたまえ・ウィング!!」


 空を飛びながら、イラーフ王は真剣な表情を崩さずにガラハドに向き合った。彼の眼下には、自らの愛娘であるアナが尋常ではない動きで、ガラハドの身体を巧みに削り続けている。娘の戦う姿には、父親である彼の目に一抹の誇りと焦りの混じる光が見えた。




 広間の一角では、宰相テルミニが残る戦士たちを集め、次なる戦いへの準備を急ぎ進めていた。城の守りを強化しつつ、イラーフの支持でアナを中心とした臨時部隊を編成することになった。


 アナの戦いは見事だった。彼女の纏う風の魔気は、その体を追い風のごとくして巨大化したガラハドの攻撃を回避し続けた。剣を振るうごとに放たれる風を纏う斬撃は、鋭い活力とともに、一撃でガラハドの巨大な脚を吹き飛ばした。


 元来、アナの操る風魔法は評価されていたが、無属性の強化魔法と組み合わせることで、その力は数段に引き上げられた。しかし、その力には些少な代償が伴っていた。彼女の魔力量は尽きかけていたのである。



 突然、空間を支配するような重圧が走った。アナは膝をつき、呼吸を整えようと努力しつつも、迫るガラハドの息吹に怯むことなく立ち上がろうとしていた。


「よくやったな! アナ、下がれ!」


 上空から父イラーフの声が轟き、決して危険を承知でいることを理解する愛娘に対する命令だった。イラーフは緻密に考え抜き、並列思考のスキルを四つ起動させ、同時に竜巻を四つ発動させる魔法を唱える。


「我が魂の風よ、天地を裂く刃となれ。四方を駆け巡り、目指すは破壊と再生の境地。嵐の意志を一つに統べ、我が手に奇跡をもたらせ。ヴォルティックス・ジャッジメント!」 


「我が魂の風よ、天地を裂く刃となれ。四方を駆け巡り、目指すは破壊と再生の境地。嵐の意志を一つに統べ、我が手に奇跡をもたらせ。ヴォルティックス・ジャッジメント!」


「我が魂の風よ、天地を裂く刃となれ。四方を駆け巡り、目指すは破壊と再生の境地。嵐の意志を一つに統べ、我が手に奇跡をもたらせ。ヴォルティックス・ジャッジメント!」


「我が魂の風よ、天地を裂く刃となれ。四方を駆け巡り、目指すは破壊と再生の境地。嵐の意志を一つに統べ、我が手に奇跡をもたらせ。ヴォルティックス・ジャッジメント!」



 彼の過去の栄光である対ドラゴン戦を思い出させるかのごとく、その四つの竜巻は激しく交錯し、ついには目標をピンポイントに捉えた。その中心点には、無謀にも立ち尽くすガラハドがいた。




 かつて世に災いをもたらしたドラゴンに匹敵するほどの威力を誇る、この最強の風魔法に、ガラハドは為す術もなく打たれた。外部からの黒い暗い者から膨大な力を与えられていた彼だが、それを上回るイラーフの決意の力と魔法の前には、遂にその巨大な身体が崩壊を始めた。


「イラーフ……すまねぇ……殺してくれ……」


 どこからか、切々たる声が響き渡った気がした。既に消えかけた意識の中で、ガラハドは一瞬、かつての自分を取り戻したのかもしれない。そしてその願いの根源に、戦士であることを忘れた人としての懺悔とも言える清々しさが垣間見えた。




 やがて、城内の暴風が収まり出し、静寂が訪れた。大地に倒れ伏すのは、やせ細ったミイラのようなガラハドの遺体であった。皮肉にも、この姿こそが、彼の激闘の果てに選び取った最後の安らぎだったのかもしれない。


 イラーフは、かつて親友であったガラハドの変わり果てた姿を前にしばらくの沈黙を保った。その沈黙には、無念と安堵、そして次なる試練への静かなる誓いがこめられていた。戦いの果てに残されたものをどう立て直すか——彼の頭の中には、次なる戦いへの覚悟が静かに燃え始めていた。



## 次回予告:「運命の再戦」

ベルは再び大きな試練に挑むことになる。次なる戦いへの準備を怠ることなく、運命を変えるための策を講じる彼の本来の姿がそこにある。その結末とは…?次回もどうぞお楽しみに。

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