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第53話 魔人の生まれた日 Part4


イラーフの拳が、ベルの頬を叩いた。 その衝撃が脳内に伝わり、ベルの心をとらえていた恐怖と幻惑の暗黒を溶かし、意識を呼び覚ました。


「うわぁ!?」


ベルは我に返り、眼を見開く。目の前の現実が恐ろしく非現実的で理解に苦しんだ。


「え、えっ? 僕は…どうして?」


「幻覚魔法の一種だろう。俺もかろうじて正気を保っただけで危ういところだったぜ」


ようやく悪夢のような日本の幻覚から、戻ってきたベルの頭にイラーフの落ち着いた語り口が響き、ベルの混乱した心に静かな安心を与えた。


「何故、陛下は正気を保っていられたのですか?」


ベルは素直な疑問を口にした。イラーフはベルの問いかけに、ため息をついた。


「まぁ、経験値の差だな! 後は元々の実力の差と、カッコ良さと頭の良さ・・・・・」


実際のところは、自分が精神魔法に蝕まれていた可能性に気付き、若かりしき頃に聖九柱教の闇属性の使い手とやり合った経験の賜物であろう。


グダグダと語り出すイラーフダディに辟易とするベルであったが、むしろこの事態に、いかに対処するかを考えねばならない。


辺りを見渡せば、サーヤがビュレトの側におり、危険な雰囲気を放っていた。


「サーヤ!聞こえていますか!? そこにいては危険です!此方に戻ってきてください!」


ベルの声が届くはずもなく、サーヤはグッタリとした表情でビュレトの言葉に屈していた。


「今は何を言っても聞こえねーぞ。 幻覚魔法の破り方は、魔気を直接、脳みそに流し込むのが1番なんだが… 奴がそれをさせてくれるかどうか…」


イラーフの言葉に、ベルは懸命に考えた。サーヤを助けるにはどうすればよいか。


「貴方たちには、驚かされることばかりですね! 魔術を知る者に、幻覚を破る方法を知る者… 早めにご退場いただくのがよろしいでしょう」


ビュレトの言葉に臨戦態勢を取るベルとイラーフ。その時、地下から何か計りようのない気持ち悪さを纏った暗く黒い何者かが、這いずり出てきた。




「まだ… 殺すな…」




その一言で、場の空気が凍りついた。背筋が凍えるような気持ち悪さ。ビュレトすら、その存在の前に頭を垂れ、言葉に従う有様だった。


「仰せのままに…」


ビュレトの忠実に従う意志を確認すると、静かに、暗く黒い者が消えて行く。


一瞬ベルと黒い者の視線が交わる。


ゾクリとするどころではない、全身の毛が逆立つ様な気配。


ベルはその一瞬で解析魔術を使用したのだが、何も情報を見る事は叶わず、レベルが違い過ぎる所為か、解析魔術を防ぐ何かをしていたのか、ベルには分からなかった。


「ふう…アレは一体…」


イラーフも戦慄を隠せずにいた。しかし次の瞬間、ビュレトの視線が再びこちらに向けられた。


「あの方の事を貴方ごときが口にするなどおこがましい! コホン… さて、ここまでお待たせしましたが、本題に入りましょう」


ビュレトは腕を広げると、サーヤに向かって呼びかけた。


「メッサーヤ、我々魔人の一員となりなさい」


サーヤの、いや、メッサーヤの瞳からは虚ろな光が宿り、言われるがままビュレトに歩み寄った。


「サーヤ! しっかりしてください!!」


ベルの叫びは宙に散り、メッサーヤを呼び覚ますことはできなかった。


「では、行きますか」


ビュレトはベルに向かって、冷たく微笑む。一方的に魔族に加わることを強要されていく有様に、ベルは憤りを覚えた。けれどこの場を切り抜けるには、どうすればいいのだろうか。


ビュレトはベルに向かって軽く会釈し、メッサーヤを側に招き入れた。


「この魔人を無理に連れ去るつもりはございません。ただ、魔王様への帰依を求めているだけですから」


「魔王だと!?」


イラーフが眉をひそめる。


「おっと、私とした事が人間ごときに余計な事を言ってしまいましたね…」


「ちょっと待て… ついでにお前の名前... 聞き覚えがあるんだが?」


イラーフが目を見開いた。


「聖九柱教の一柱でビュレトとか言う名の神がいた気がするんだけどよ?」


"はて?"


ビュレトが手を叩く。


「お気づきのようですね。私こそが聖九柱教の闇神、ビュレトそのもの!」


「ふふふ、まさかあの聖九柱教すらも、魔王様に仕えていたとは思いもよらぬことでしょう」


ビュレトは冷笑した。


「しかしそれが真実なのですよ。我らは全て、魔王様に仕える魔人でしかありません!」


イラーフは眉間に手をあて考え込む。実は世界の8割の信仰数を誇り崇められてる神々が偽りの姿だったとは、これから聖九柱教との戦が控えている中、到底思いもよらぬ事態だった。


「嘘か本当かは分からねーが、お前らがこの国と俺の敵なのは分かったぜ…」


イラーフは決心をしたようにまた、頭を抱えるように剣を手にとった。


イラーフの剣がビュレトに向かう。


「そういえば、この国は聖九柱教と戦争をするとかしないとか言っていましたね。どうぞ、お好きなように人同士いくらでも殺しあってください!」


ビュレトはヒラヒラとイラーフの剣を躱しながら、無慈悲な笑みを浮かべた。


この事実を知っていたのは、聖九柱教の九教皇までなのか、それとも聖九剣や司教なども知らされているのか分からないが、ビュレトの話しが本当だとすれば、聖九柱教との戦をして利するのは魔族達だけになってしまうでないのか。


考えが纏まらないイラーフの剣筋は鈍っていくのであった。


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