第52話 魔人の生まれた日 Part3
「解析魔術ですか!?」
ベルはビュレトと名乗って現れた、人物に向かって尋ねる。
「ほう、まだそのお歳で博識なのは褒めて差し上げましょう! しかし… 魔術に関しての書物は全て600年前に焚書したはずなのですがね?」
ビュレトはそう言うと、ベルに向かって手を広げる。
「世の中、そうそう全てを無かった事にするなんて出来ないものですよ!」
『障壁魔術!』
ベルが答え、ビュレトもそれに応えるように魔術を編む。
『振動幻覚魔術・ヘッドトリップイリュージョン!』
どこからともなくラッパの音が響き渡ってきて、その場にいる者達の脳を揺らすのだ。
「くっ、サーヤ大丈夫ですか?」
ベルの障壁魔術をも振動させ、その音楽はベルとサーヤまで届いてしまう。
「サーヤ?」
サーヤは、フラフラとベルから離れて、ビュレトに近づく。
「ベルさま〜 今サーヤが参りますよ〜」
「サーヤそっちに行ってはダメ…」
サーヤを止めようとしたベルの視界が突然、とても懐かしい風景に変わる。
それは日本という国の風景だった。
「ねぇ、〇〇君! 聞いてるの? 突然ボケってなってどうしたの? あっ、ボケてるのはいつもの事よね(笑)」
「〇〇ちゃん… アレ? 僕はたしか… 魔術で…」
「まーた、魔法とか魔術とか、小説の読み過ぎ〜(笑)」
ケラケラと花のように笑う彼女は、幼なじみの〇〇ちゃん… 名前が… 思い出せない…
そしてまたベルの視界が移り変わっていく。
ここは学校という場所だと思う。
思うと思ったのは、校舎が半壊しているからだろう。
「〇〇ちゃん! 〇〇ちゃん! どこにいるの!!」
昔、日本人の男の子だったベルが必死になって、瓦礫と化した学校内を、大声で幼なじみの女の子を探していた。
泣きたいのか、怒りたいのか、訳の分からない気持ちが溢れ出す。
「うわぁぁぁーー!?」
ベルの頭が狂いそうになる直前、ベルの頬に魔気が纏われた鉄拳が飛んでくる。
「しっかりしろ! この無能王子が!!」
それはイラーフの春の風のように温かな拳であった。