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第44話 夢と希望と人生とpart 1


 ベルが編入学試験を受けたその夜、国立エクロン魔法学院の学院長であるピュロス・ゴロンドリナは、王宮の執務室を訪れていた…


 そこには、この執務室の主であるイラーフ・フィリスティアと宰相のテルミニ・イメレーゼ侯爵が、今日行われた試験の結果を受ける為、共に険しい顔で待機している。


 既に国立エクロン魔法学院の中演習場が消滅したとの報告が上がってきていた。


 王都近郊の中演習場での大爆発、あの異様なキノコ雲を2人も見たのだ… 険しい顔にもなるであろう…





「それから、被害の報告ですが… 北の街道を通っていたキャラバン隊の馬車が破壊され軽い怪我人が数人出たそうですよ」





「そうか… で、何故近くであの規模の爆発があるのに王都への被害がないんだ?」





「それが… 全く解らないんですよね… 爆発の影響は中演習場に限定されて、学院からこちら側の王都には一切の被害は出なかった… その様な魔法を行使したという事ですかね?」





 イラーフはテルミニの報告に違和感を感じながら、そのキノコ雲の下にいたピュロスから直に話を聴く。





「で、師匠… 何が起こった?」





 イラーフは師であるピュロスに今日のあらましを聴いていく。





「まず、あの坊主… ベルと言ったかわい… イラーフよ… 恐らくはおヌシよりも強いわい!」





「先生! それはいくら何でも、あの子供を評価し過ぎではないですか!?」





 ピュロスの言にテルミニが堪らず口を挟んでしまう…

 それをイラーフが制止しピュロスに先を促す。


 イラーフの幼馴染であったテルミニもまたピュロスに師事していた仲であった。





 ピュロスは今日行われた試験の様子を話していく。

 武術実技でベルが放った桁違いの技、そして魔法実技で行使された見た事もない魔法の威力。





「何やらあの坊主… 狙いを外したとか言っておったわい… あんな物が王都に向けられたり軍隊に向けられたら一溜りもないわい!」


「そういえば… あの坊主が皆に伏せろと言った後、何やら違う魔法を使っとったわい… 見えない何かが儂等を覆って爆発から守られてたわい! あの魔法が無ければ皆死んどったわい…」





「・・・・・・・・・・」





 中演習場での出来事を聞いて言葉を無くすイラーフとテルミニであった。

 あの規模の爆発を起こす魔法とそれを防ぐ魔法…

 それをあの年齢で扱う異様さを2人は恐ろしく感じていた。





「そうそう、イラーフよ… あの坊主、おぬしの記録338本を軽く抜きおったわい… 中演習場に石の杭など今は1本も無くなったわい!」


「それに、あの後行われた筆記試験だわい… 教師が動揺してしまっての… 入学試験の問題でなく、卒業試験の問題を出してしまったんだわい…」





「・・・・・・」





「それを難なく全問正解、満点だわい… あの歳で… 異様すぎるわい!」





 息を切らし、まくし立てて今日のあらましを話していくピュロスを落ち着かせる為に、テルミニは陶磁器でできた水差しに入っている水を、木製のコップに入れ渡す。


 それを一気に飲み干し、一息つくピュロスは思い出したことがあった。

 武術実技試験が終わった後に、ベルは王宮筆頭薬師パテカトルの事を爺と呼んでいたのだ。





「もしかしたらあの坊主… パテカトルの奴と縁のある者かもしれんわい… あのクソジジイの事を爺と呼んでおったわい」





 イラーフは首を傾げながら、この国の宰相である幼なじみに問いかける。

 宰相とは今で言うと総理大臣みたいな者なのだ。

 国の重要貴族達の事を把握していなければやっていけない職業…





「あのジジイに孫などいたか? テルミニ?」





「いや、確か… いなかったと思うぞ… もしや…隠し子!?」





 イラーフは頭を抱え、衛兵にパテカトル王宮筆頭薬師を呼びに行かせるのであった。











 それから数分後…


 執務室にやって来たパテカトルに、隠し子がいるのか聴くようにテルミニに急かすイラーフ。


 テルミニが何やら言いづらそうに口籠もっている間に、パテカトルの方から話しを切り出してきた。





「ほっほっほっ… それで… どの様なご用件ですかな? 陛下?」





 パテカトルはピュロスを睨みつけながら用向きを尋ねる。

 この2人、幼馴染な上に若かりし頃に、とある女性をめぐってライバル関係に陥ってしまった事で、今でも仲がよろしくないのであった…





「この薬バカのエロジジイが! 隠し子など作りおって、見損なったわい!」





「ほっほっほっ… 昔、あの方のスカートの中を覗いて嫌われた者にエロジジイなど言われたくないのじゃ! ん? 隠し子…? 何の事ですかな?」





 そこでようやくテルミニが今日起きた事を淡々と話し出すのだった。

 

 それを静かに聞いているパテカトルの全身が震え出す。





「な、なんと… その方は… 儂の事を爺と仰ったのですな? ほっほっほっ! そ、その方は今何処に居られるのか?」





 いきなり興奮し出すパテカトルに驚きを隠せない面々をよそに、何処かの宙を見ながら祈りを始めるパテカトルだった… 





「で、ジジイ… 隠し子はいるのか? いないのか?」





 イラーフは痺れを切らし、祈りを捧げているパテカトルに問いただす。

 祈りの姿勢を崩さず、顔だけはイラーフへ向け答えるパテカトル。





「ほっほっほっ、儂に隠し子などいるわけがないのじゃ… エル・バアルに誓って真実じゃ…」





「なら、あの子供はいったい誰だ!? オマエのその様子もベルの発言からも貴様等は知り合いなのであろう!」





 イラーフは興奮を隠さずパテカトルに詰め寄った。

 だがそんな事を意に介さず祈りを続けるパテカトルは小さく答える。





「陛下… まだ気付いておられんのか… 儂の想像が正しければ、あの様な事ができる方はお1人しかおられませんのじゃ」





「それは誰なんだ!?」





 イラーフはパテカトルの襟を掴み無理やり此方を向かせる。





「儂の真の主、エル・バアル… なのじゃ」





「・・・・・・・・・・」





「ジジイ… ついにボケたか…」





 執務室にいる者達3人から、可哀想な視線を送られるパテカトルは逆にイラーフの両肩をガッシリと掴み揺らしながら問いただす。





「それで、陛下! その方は今は何処におられるのじゃ!?」





 錯乱しているようにも見てとれるパテカトルの行動に、ピュロスとテルミニが2人がかりで、イラーフの元から引き剥がそうと試みる。





「あの方はどこなのじゃーー!」





 必死の表情でイラーフに抱きつき離さないパテカトルの腹にイラーフの拳がめり込む!





 ゲロ…ゲロ…ゲロ…





 パテカトルの夢と希望、いや、人生と言う名の液体が口から垂れ流されていく!

 




「うわぁ… やり過ぎですよ… イラーフ…」





「おヌシは老人を労る心根はないのかわい… 師として情けないわい…」





 幼馴染みと師匠から冷たい視線で見つめられる王様だった…

 その非難に耐えられず、イラーフは…





「なんか… すまん! ジジイ! つい、ウザくて手が出ちまった! 許せ!」


「そういえば… アシエラがベルの奴を飯に誘うと言っていたぞ! 今頃何処かで旨い物でも食わせてやってるんだろう!」





 それを聞いた途端にパテカトルは蘇る!





「ほっほっほっ! なんと、なんと、アシエラ様と… それでは、陛下! 儂は行かねばならぬのじゃ! 失礼致しますぞ!」





 気の置ける人間だからこそ許されるのか、王に対する態度ではなく、ただ本能の赴くままに執務室を飛び出して行くパテカトルであった。





「やれやれ、あのジジイは何をしに此処に来たのかわからんわい…」





「なんだろな… そろそろ王宮筆頭薬師の代え時かもな…」





「ですがイラーフ… ナボポラッサル卿より腕の立つ薬師となると… 直ぐには…」





 三者三様パテカトルが出て行った執務室の扉に向かって憐れみの視線を送るのだった…





「そういえば、あの子供… ベルと言いましたっけ? 領地貴族にするとか? あの歳で貴族にするだけでも敵をつくりますよ? その上、領地を与えるとなると…」





 テルミニが心配そうにイラーフに訊ねる。





「その件に関してはな… 俺に考えがある、任せろ!」





 自信満々で良い笑顔を見せる幼馴染みに不安しかないフィリスティア王国、宰相であった。







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