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第40話 希望の時・絶望の時

第4章あらすじ

ベルはアナを救出した褒美に貴族になり学園に通う事になった。

編入試験が終わり、叙爵式典の夜会の裏でおぞましい事件が起こってしまう。

第4章は話を先に進ませ、事件が起きた時間軸から始まり、何故そんな事が起こったのか時間を遡り編入試験へと続いていきます。


 フィリスティア王国、王都エクロンにある王宮に隣接する後宮内の端に、誰にも使われていない部屋がある。

 住むものがいない部屋のはずなのだが、綺麗に手入れが行き届いており、まるで誰かの帰りを、誰かが待ちわびているかのようだ…


 そこに、1人のメイド服を着た黒髪の女性が後宮の廊下を颯爽と歩いてくる。何か良い事があったのだろうか、嬉しそうに顔をほころばせ鼻歌まで聞こえてくる。





「フン♪フン♪フン♪ ベルさまが帰ってくるのですぅ~♪♪♪」


「あんな事や♪ こんな事♪ いろいろしてあげますからねぇ~♪♪♪」





 この女性、喋らなければ誰もが振り返る程の美人なのだが、性格が… 性癖が… 少々残念なのだった。


 何故、ここまでテンションが高くなっているのか…


 それは昨日、仕えるべき主人であり、義理の姉でもある第5王妃から、今話題の第2王女を救った小さき英雄の話しを聞いたからなのだ。

 礼儀正しく理知的な少年。なにより、数十人の賊共を1人で倒してしまったと言うではないか。しかもその賊共は、ただの賊ではなかったのである…



 聖九柱教が誇る聖九剣と呼ばれる男達。



 彼らの強さは吟遊詩人が奏でる歌や、家に出入りする商人達の噂話をよく聞いていた。

 なんでも、世界の人口の3分の2を占める聖九柱教徒の中で9人しかなる事を許されない、属性魔法を極めた者達らしい…

 誰かが殺されれば、それは聖九剣の仕業だと毎回噂が立つ程だ。



 その聖九剣が2人も捉えられ、部下だった者や聖九剣の1人であるトリスタン・アシェル本人から自白を得られた。

 自白を得る過程で拷問が行われる事はほとんど無かったと言う…

 捉えられた者達全て、既に心が折られており拷問を行うまでもなかったのだ…

 王が1番の警戒を抱いているもう1人の聖九剣、ガラハド・イッサカルに至ってはまともに言葉が話せない程になっていた…


 

 そんな者達から出た自白の内容とは、なんと、イラーフ王を暗殺しようとしていた事、その過程で第2王女を誘拐しイラーフ王への弱みとして使われる計画だったのだ。

 今まで何度も聖九柱教の暗い噂は絶えなかったが、証拠が何一つ出なかったのだ。


 これまでどれだけの国が王侯貴族が被害にあってきたのか…


 イラーフ王暗殺の事前の阻止と第2王女を無傷で助け出しただけではなく、聖九柱教の闇を白日の下に晒し出す事ができた功績を王から高く評価され、小さき英雄が叙爵される事になり、今日の夕刻に式典が行われると大々的に発表されたのであった。


 その知らせを受け王都エクロンの住民達は沸いた。

 平民出身のまだ少年が王女を助けて叙爵される!

 そんな御伽噺の様な事が実際に起こったのだ。

 だが、盛り上がる裏で聖九柱教との決裂が決定的になりこれから先に何が起こるのか…


 この国はどうなってしまうのか…


 不安を押し隠す様に住民達は、新たに現れた小さき英雄をもてはやす…




 この小さき英雄の名も、ベルと言うらしい。女性が乳母として5年間世話をしてきた男の子の愛称と同じくする名に、彼女は浮足立ってしまっているのだ。

 彼女の知っている少年ならばできるはず、いや、あの少年以外にできる人間がいるだろうか?

 そして、彼の少年が城の式典に出るのであれば、必ず自分に会いに来てくれると盲目に信じ込んでいるのだ。







 小さき英雄が叙爵される式典には、後宮の一侍女にすぎない彼女は出席など許されていない。


 だから、ただ、待っていればいいのだ…


 少年が自分に会いに戻ってきてくれるのを…








 

 夜の帳が下り、今頃は式典も終わり夜会も中盤に差し掛かっている頃だろうか…

 メイド服を着た女性は、後宮の端にある部屋の中で1人そわそわと待っている。


 掃除をしてみたり、少年が5年間寝起きしてきたベッドに寝転がり、もう少年の匂いなど無くなっている枕の匂いを嗅いでみたり、枕を少年に見立てて甘々タイムの真似事をしてみたり…


 その時、誰も来るはずのないこの部屋の扉が3回ノックされた。


 鍵のかかっていない扉が少しづつ開いていく。





「ふぎゃ!?」


「こ、これは違うのですぅ~」





 女性はベッドから飛び起き、身なりを素早く整え顔を赤くし、うつむきながら精一杯の愛情を込めて答える。






「え、えっと… おかえりなさいませぇ~ ベ・・・・・ル・・・・・」






 女性は最愛の人の名前を最後まで言う事を許されなかった。

 



 何故?




 それは…




 首と胴が離れているのだから…






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