第32話 サプライズ
国立エクロン魔法学院
そこは、王都エクロンの北門近くに営造された、国営の学院である。
フィリスティア王国が建国された時に、国内外の建築ギルドから10星の職人を招き、築かれたそれは、王宮に勝るとも劣らない営造物となっていた。
国立エクロン魔法学院は、7才から入学でき、20才で卒業となっている。地球の日本で言えば、 小学校から大学までエスカレーター式の学校と言った所か。
そして、貴族は言うまでもなく、試験に合格できれば平民であっても入学できるのであった。
その、学院の純白な廊下を、学び舎とは場違いな鎧を纏った男が、急ぎ足で、とある場所へと向かっている。
きらびやかな派手さというよりも、重厚な豪華さを誇る両開きの扉に、男は近づき深呼吸を1つして、丁寧に扉を2回ノックする。
「失礼致します」
と、一言発して部屋に入室していく。
扉の上部には、『生徒会室』と、書かれてあった…
「あら? エイジスじゃない? 今日は、こんな所までお迎えに来てくれたの?」
数人の生徒達が、忙しそうに書類に目を通している中、1人の少女が部屋に入って来た男に答えた。
部屋の中にいる生徒の中で、まだ1番幼く見えるが、上品な金髪と、誘い込まれる様な無邪気な笑顔。
内から滲み出る可憐さは、この生徒達の中で、1番貴い存在だと一目で察知できた。
「姫様… 生徒会のお仕事が、お忙しいところ恐縮ですが… 陛下からの下知がございまして…」
「何でも、姫様が設立なされた商会のお祝いに、賜われる物があるそうで… お連れしろとの事であります…」
畏まりながら、金髪の少女に、エイジスと呼ばれた男は、どこか落ち着かない様子で具申した。
このエイジスは、今から1年程前、近衛兵に入隊してきた。まだ、新人である彼だが、真面目に任務を着々とこなす態度から、上司からの覚えもめでたい。
近衛兵とは、王族達を警衛する、王直属の軍人達で、入隊するには家柄が良く、厳しい試験にも挑まなくてはならず、正に、エリートであった。
今日、その様なエリートである彼は、この1年の間、幾度となくこなしてきた、この国の第2王女の警護の日なのだ。
「まったく… お父様ったら… 商会の話しなんて、ま誰にも話していないのに、どこから聞きつけたのよ…」
フィリスティア王国、第2王女である、アナトリア・フィリスティアは、独り言ちりながら溜息をつく…
アナトリアは、王と同じ風属性で、また性格も兄妹達の中で1番、王に似ている事から、溺愛の限りを尽くされているとの噂は、国中に広まっている。
要するに、イラーフ王は、親バカであった…
それに、今日はアナトリアと同じく生徒会役員である兄が、祖父との将棋の日との事で、授業が終わるとすぐに祖父の下へ行ってしまい、やるべき仕事が溜まっているのだ…
その話を聞いていた、他の生徒達がざわめき立つ。
「素晴らしいですわ! その御歳で商会を設立なさるなんて! 流石、姫様ですわ!」
「ザーフェル殿下も、ご一緒になさるのですか? 俺達にも何かお手伝いできる事がございましたら、いつでも仰ってください!」
店舗は何処にあるのか… 商品はどの様な物があるのか… 商会名は何なのか…
生徒会の仲間達から、質問攻めに遭い狼狽してしまう、まだ10才の第2王女であった…
迎えの馬車の中で、先程の生徒会室でのやり取りを思い出し、1人上機嫌に頬を緩ませたアナがいる。
ベルに自分達が説得された様に、商会名の説明を、自分なりに噛み砕き説明、演説してみたのだ…
皆は、感嘆のあまり興奮し、泣き出す者までいた。
自分が会頭になったのだ。あれくらいは、これからもしていかなくてはと… ギュっと拳を握りしめ、心を新たにするのだった。
しかし、よくあの様な商会名を思いつく物だと、ベルの顔を思い浮かべ、今日は特別に頭でも撫でてやろうかと、また優しく頬を緩ませる…
ふと気づくと、いつの間にか馬車は、王都を離れているではないか!?
どうしたものかと、御者をしているエイジスに話しかけてみた。
「エイジス。 馬車が王都を出ちゃったけど… 何処へ向かっているの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「は、はい。 なにぶん陛下から、口止めされておりますので… 何かサプライズをご用意されているとか…」
サプライズなら、言ってはダメでしょうと、真面目なエイジスに苦笑いをし、自分が会頭になった事が知られたのなら、あの父の事だ… 城でも1つ用意しているのでは? と、溜息をつくのだった…
それから、数十分あまり走っただろうか…
シレイラの森に差し掛かった所で、馬車が停まる。だが、いつもの様に馬車の扉を開けられる気配がない…
業を煮やし、渋々自分で扉を開け放った!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
目の前には、数十人の男達と、その前には、外なのに衣類など一切身に着けておらず、まるでボロ雑巾の様に捨て置かれている女性がいた…
今日からまた投稿再開いたしますので、よろしくお願いします!