第29話 動き出す者達
ベルの家で、兄妹達との会合が行われた数日後の話しである。
ここは、王都エクロンの貴族街。
夜が更ける頃に、とある邸宅の地下にある祭壇場に、黒尽くめの衣服を身に纏った人間達が、続々と集まって来ていた。
地下にあるそこは、薄暗く魔道ランプの明かりで照らされてはいるものの、ここに集った者達の顔はよく見えてはいなかった…
この集会の主催者であろう人物が、祭壇の前に立ち、何かに祈りを捧げていた。その手には、とある貴重なポーションが握られていた…
「おぉぉー!! こ、これが例のアーティファクト…」
「なんて美しい輝きなのかしら…」
「この様な、素晴らしい物は見た事がありませぬ…」
主催者らしき者の、両の手に握られている宝石の如き美しいいポーションを見て、地下室に集まった者達は感嘆の余り異様に興奮し、皆泣きながら何者かに祈りを捧げるのであった…
「もうすぐじゃ… もうすぐの筈なのじゃ… あの方がお戻りになられるのは…」
主催者らしき人物の儚げな声は、ここに集まった者達の祈りの涙声で掻き消されていった…
時を同じくして、王都エクロンの南門近くにある遊郭街で、屈強な男と華奢な男が2人、卑俗な着り物を羽織った数人の女達と戯れ合っていた。
「あぁー! 止めだ!止め! お前らみたいな、年増女なんぞ抱いてもクソ面白くもねぇ!」
突然、屈強な男がそう言って、女の羽織物を破り捨て、女性の顔面を足蹴にし、そのままベッドから蹴落とす。
女は、甲高い悲鳴を上げ蹲り、助けを乞う視線を部屋にいる者達へ向けた…
他の女達は、自分に被害が及ばぬ様、彼女と視線を合わせず、もう1人の男への愛撫を激しくする…
彼女は、渋々、女達に奉仕されている華奢な男に視線を送った… その男と目が合った瞬間!
彼女は燃えた…
「おい! コラ! トリスタン! てめぇー、危ねーじゃねーか! 俺まで燃えたらどうしてくれるんだよ?」
トリスタンと呼ばれた華奢な男は、一仕事終えた顔つきで答えた。
「ふぅぅ。 やっぱり、人の燃える匂いはいいね!」
「私が、目標以外、燃やさないのは、君がよく知っているじゃないか…」
「それに、ガラハド… その、人だった物は、年増じゃなかたと思うけど? 17~18歳くらいじゃなかったかな? もう確認はできないけど…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ふざけんな! 17、18歳って言えば、十分ババアじゃねーか!」
「おい! この中で、処女じゃねぇヤツがいたら、今すぐ部屋から出ていけ!使い古した女はいらねぇんだよ!!」
ガラハドと呼ばれた屈強な男は、女達を怒鳴りちらしながら命じた。ぞろぞろと女達は部屋を後にし、残ったのは、トリスタンとガラハド、華奢な男と屈強な男2人だけとなっていた…
しばしの時が経ち、1人の男が部屋に入室してきた…
「まったく、お2人共、仕事の度にいったい、いくらお使いになられるのですか? ここの主人に金貨30枚も取られましぞ!」
「ガラハド殿もトリスタン殿も、もう少し聖九柱教徒としての、自負心を持って頂きたいものですな…」
「あなた方は、聖九柱教徒内で9人しかなる事の許されない聖九剣なのですから…」
女達が部屋から出て行ってしまい、酒を飲みトリスタンに管を巻くしかする事がなくなってしまったガラハドは、不機嫌そうに部屋に入ってきた男を見遣った。
「うるせーぞ! ガストン! 司教の分際で俺様達に指図する気か!? 殺すぞ?」
「それより、女だ! まだ男を知らねー若いヤツを用意しろ!」
「クッ!!」
ガラハドから放たれた魔気に当てられ、よろめきながら、ガストン司教はやっとの事で口を開けた。
「はぁ…はぁ…はぁ… 申し訳ございませぬ… 流石は聖九剣…」
「今回の仕事の… 第1目標が、お望みの女だと言ったらどういたしますか…?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おもしれー 詳しく聞かせろや…」
そう言いながら、ガラハドは卑猥な笑みを漏らすのだった…