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第26話 出会い


 王都エクロンにある平民街の、誰も見向きもしない路地裏にそれはあった。


 こんな物がいったい何時からあったのか… 誰も知らない… 誰も見ていない…







挿絵(By みてみん)








 直径2メートル程の怪しげに輝く図形と文字が、路地裏の空中に浮かび上がっており、その図形の中央は空間が歪んだ様にグニャグニャと揺れ動いていた…



 突如、歪んだ空間から人間の子供の手と思しき物が顕れる。そして、徐々に足や身体が出てきた…

 それは、黒い髪をした少年であった。

 

 少年は、黒いマントについているフードを深く被り直し、路地裏を歩き出す。怪しげに輝いていた図形と文字が無色になり、いつの間にか見えなくなっていた…










「ゲッ!? またベルが来たよ… 兄さま…」





「アナ… そんな言い方は良くないよ… よく来たねベル!」

 

「頼んでいた物は持って来てくれたかい?」 





 露店市場の一角に1組の兄妹が小さな店を構えている。

 

 兄の名前はフェル、13才。妹の名前はアナ、10才。2人はフィリスティア王国でも1、2を争う大店に雇われている番頭の孫らしい…


 兄のフェルは、将来、一角の商人になる為、祖父に言われた通りに、小さな露店で今の内から修業をしているのだ。


 妹のアナはと言うと… 商人なんぞ興味はなく、ペンより剣のタイプだった。だが、その剣は中々の腕前で、露店の前で剣舞を始めれば人の目を引き、客寄せに貢献していた。


 2人共、国立エクロン魔法学院の生徒で、授業が終わってからの数時間だけ店を開くのだ。営業時間が数時間しかない割に、店の売り上げは上々だった。

 その理由の1つは、商品の品質が他の店より頭一つ抜きん出ている事であろう。



 この兄妹と、アナにベルと呼ばれた黒髪の少年との出会いは、今から1年程前になる…













 初めて人に殺意を抱いた… 

 

 手配書に書かれた自分。これで、もう後宮に帰る事はできないだろう。

 

 退屈であったが、サーヤと過ごした日々は暖かかった。



 あれからもう2年程経ったが、未だに心が疼く…



 王都を離れ、違う街にでも行こうかと考えたが、母の病気の事を思うとそれだけはできなかった。ヒュドラーがいるとされている、『ヤム』ダンジョンは王都が一番近いのだ。


 冒険者に登録できるのは7才から。子供1人でダンジョンに行くには目立ち過ぎる…

 だから、ベルは入口に誰もいない時間を見計らい、こっそりと忍び込む。低階層の内は1人でも何とかやっていけた… 

 だが、中階層になってくると魔物の強さと出現頻度が跳ね上がる。工房魔法内で食事を取り、眠り、起きては攻略の日々が1年続いたのだ…


 殺して、食べて、寝る、殺して、食べて、寝る、殺して、食べて、寝る、殺して…


 段々と心が荒んでいく。


 人に会いたい!話したい…


 


 1年ぶりにダンジョンを出た。




 手配書に描かれた自分の姿を思い出し、工房魔法の力を使い髪の色と目の色を組み換えた…

 大量の魔力が必要だったが、とある方法で魔力貯蓄を増やせる事を発見したので痛くはない。

 ダンジョンから出て王都にもどってきたのは今から1年前になるだろうか。



 






 露店市場… それは、自分の店を持てない商人ギルドのランクの低い者達に、国が場所を安く貸し出している市場なのだ。

 粗悪品も多いが安く、縁日の屋台の規模を大きくした感じだろうか。その喧騒は、ダンジョンに引きこもっていたベルには新鮮だった。


 その一角で一際騒がしい怒号が飛び交っている。


 何事かと思い、ベルは野次馬に混ざり込んだ。そこには、金髪の少年と少女が冒険者風の男達に囲まれていたのだった… 

 子供と屈強な大人の争いなのだ… ベルは理由は解らないが助けるべきか悩んでいると、なんと、一番小さな少女の方から動き出した。

 

 早い!


 レイピアを抜き風を纏ったその姿を、正確に目で追える者が、この野次馬の中にどれだけいるだろうか。

 相手の冒険者風の男達もこれには驚き剣を抜き放つ。だが、少女には掠りもしない。まるで、舞を舞う様に回転しながら男達の剣を持つ手をレイピアで刺して行く!


 少女の舞が終わった後には、剣を落として片膝を着いた男達が、血まみれの腕を抑えて少女を睨んでいた…

 勝ち誇った顔の少女が不用意に1人の男に近づき、何かを言おうとした瞬間、男が少女の腕を掴んだ。そして、腰に差してあったナイフを少女に向ける。


 どんなに早く動けたとしても、大の大人の男には力で敵うはずもなく、少女は逃げられない…

 少女と一緒にいた金髪の少年が助けに入ろうと走り出すが、男がナイフを振り被る方が早い!

 ここまでかと思い、目を瞑る少女…



 刃物が肉を裂く嫌な音が響き、野次馬は静まり返った…





「・・・・・・・・・・・・・・・・・」





 恐る恐る目を開けていく少女が見た物は、黒髪の少年が自分の変わりにナイフに刺されている姿だった…




 野次馬達から悲鳴が上がる…




 崩れ落ちる少年の腹にはナイフが刺さっており、おびただしい血が流れ出ていた。




 男達は焦り、一目散に逃げ出して行ってしまった…







「いやー、こんな古典的な芸に引っかかる人なんてまだいたんですねー」

 





 男達が逃げ出した方角を見ながら、黒髪の少年がいたずらっ子のような表情で笑っていた。





「「えぇぇーー!?」」





「なんで、あんた平気そうにしてるのよ!? バカなの? 死ぬの?」



 物凄い剣幕でベルに詰め寄ってくる少女。






「あっ! これ… 剣先がひっこむマジックナイフです♪」


「そしてトマトケチャップ♪」


「みんなが大好き宴会芸ですね♪」





「・・・・・・・・・・・・・・・・・」





「「なんだそれーーー!?(なによそれーーー!?)」」




 この世界にはまだ早すぎた様だった…





 その場が段々と落ち着きを取り戻してきた頃、金髪の少年がベルに話しかけてきた。




「さっきは妹を助けてくれてありがとう! お礼を言わせてよ!」




「兄さま! こんな奴に助けてもらってないし! コイツが勝手にふざけただけでしょ!?」







「まあまあ… お2人共、兄妹喧嘩はお止めください」


「お礼をと言われるのでしたら遠慮なく頂戴しますよ?」


「そうですね… 例えば妹さんが僕を甘々に甘やかしてくれるというのは、いかがでしょうか」?」




 真面目に答えるベルがいた…





「・・・・・・・・・・・・・・・・・」





「死ね…」




「ぐちゃ!」


「ばき!」


「ぐきょ!」






 少女が黒髪の少年に馬乗りになり、殴り続ける凄惨な現場がそこにあった…







 この様な楽し気な出会いを果たした3人は、いつの頃からか、ベルが物を作り、フェルがその物を売り、アナが客寄せとベルを殴るという構図が出来上がっていったのだった…














いつもいいね、ブックマークありがとうございます!

素直に嬉しいです!

ありがとうございます〜〜

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