第25話 ダンジョン
王都エクロンの東門を抜けて程近い場所に『モート』『ヤム』『ナハル』と言う名の3つの難攻不落のダンジョンが点在している。
総じて3つ子の迷宮と呼ばれるこのダンジョンは、歴史上未だ攻略した者はいない。
特に、3つ子の迷宮の中央に位置する『ヤム』ダンジョンには、この国の建国王が挑み、80階層で断念し引き返してきたと建国記に記される程、難易度が高い事が知られている。
ダンジョンは鉱物資源や、魔物から取れる魔石や様々な部位の肉や素材など、この世界を動かす資源供給地でもあるのだ。
人々は冒険者ギルドから様々な資源を買い求める。冒険者ギルドは、冒険者を雇い様々な資源を集めさせる。冒険者は一攫千金を夢みて、資源を集める為にダンジョンに赴く。毎年大勢の人々が冒険者に憧れ冒険者ギルドの門を叩く。
そうしてダンジョンの近くには街や都市が作られて人が集まり国ができる。フィリスティア王国もそんな国の1つだった。
ここは、『ヤム』ダンジョン60階層ボス部屋。
ボス部屋とは10階層ごとにある、一際強い魔物がいて次の階層に繋がる部屋の事だ。
ボスからは貴重な素材が多数採取できる事から、冒険者から人気が高い。人気が高くとも討伐できるかは別物だ。
故に、冒険者達は、パーティーを組み、それでも敵わない敵には複数のパーティーで一緒に戦うレイドをする。
そうして、目的を同じくする者達がクランを作っていった。
だが、今『ヤム』ダンジョン60階層ボス部屋で戦っている者はソロだった。単独で倒せないから皆パーティーを組みレイドを行い、クランを作る筈なのだ…
この命知らずはいったい、何者なのか…
背は低く、どう見てもまだ子供で、黒髪、黒目、服装も黒で統一されていた。瞠目するのは、その振るっている剣だ。
反りがあり、刀身の片側に刃がある。まるで日本刀の様だが、それは漆黒の刀身で、鍔の面部分は普通の日本刀とは違い西洋剣に酷似しており魔力を放つ宝石、魔石が組み込まれているのだ。
ボスの魔物の周りには、メタルスパイダーと言われる、体長1メートル程の蜘蛛型の魔物が5~6匹ほど犇めいている。
ボスの合図でメタルスパイダー達は一斉に、黒髪の少年に向けて、尻にある出糸器官から糸を噴射させてきた。
このメタルスパイダーと言う魔物は、ダンジョン内にあるアダマンタイト鉱石を主食にしており、その影響で身体はアダマンタイトと化している。
また、腹の中でアダマンタイトを溶かし粘着物質と融合させて吐き出された糸は、まず、普通の刃物では切れない…
そんな物が数か所から一斉に黒髪の少年目掛けて迫ってくるのだ…
黒髪の少年は、観賞用の儀礼剣と見紛う美しい刀を一振り。それだけだった…
大量の蜘蛛の糸は音も無く掻き消える。
少年は肩に刀を担ぎ、メタルスパイダーに向けて広野を進むが如くゆっくり歩を進める。
痺れを切らした1匹が少年に向かって、口を開き突進してくるのを、左足を軸に半身を引き躱す。すれ違いざまに、肩に担いでいた刀が片手だけで振り下ろされた。
まるで、バターやプリンでも切ったかの様に、何の抵抗感も無くメタルスパイダーが両断された…
仲間を殺され怒ったのか、ボスは、気色の悪い甲高い奇声を上げ、他のメタルスパイダーをあおり立てる。
次々とメタルスパイダーが動き出した。
ダンジョンの天井付近に糸を吸着させてぶら下がり空中から迫りくる者、少年の背後に回り込み狙う者、壁を伝い側面から糸を噴射してくる者、正面から馬鹿正直に突進してくる者…
この波状攻撃には流石に躱しきれまいとボスはほくそ笑む…
その時!
黒髪の少年の身体の周りに邪悪に輝く魔法陣が同時に5つ浮かび上がった!
『闇魔術Ver.黒点・発動』『闇魔術Ver.黒点・発動』『闇魔術Ver.黒点・発動』『闇魔術Ver.黒点・発動』『闇魔術Ver.黒点・発動』
それぞれの魔法陣から、拳大の黒い炎が同時に射出される!
それは太陽にある黒点と同程度の約4500度もの温度を放ち、糸もメタルスパイダーも一瞬で融解してしまう。
我を失った様に怒り狂うボスを見つめる少年…
『解析魔術・発動』
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名前
メッサリナ
年齢
623歳
種族
クィーンメタルスパイダー
性別
女
カップ数
判別不能
状態
憤怒
LV
60
HP
150000/150000
MP
40000/40000
魔法属性
無属性LV6
称号
雄喰らい
蜘蛛の女王
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「珍しいですね… ネームドモンスターですか… 言葉は解りますか?」
「が、が、が、が… 人間こ、ろ、す… た、べ、る… が、が、が、が…」
「名前はあっても、知能は低いのですね」
「あなたは、絶対に僕を殺せないし、まして食べる事なんて出来ないのですよ…」
「あなた無属性ですからね…」
笑われた、バカにされた、子供達を殺された。少しでも知能がある故に、怒りが込み上げてくるメッサリナ。
彼女の体長は20メートル程あるのだ。自分がこんな小さな人間に負ける訳がない。そう妄信して少年に向かい地響きを立てて突進してきた。
彼女は気付かなかった、いつの間にか少年が背に乗っている事を…
『搬入・メッサリナ』
クイーンメタルスパイダー メッサリナの身体が無色の粒子に変わって消えて行った…
「やはり、無属性が相手だと楽ですねー」
「今日は、61階層を見て帰るとしましょうか…」
次の階層に続く扉を開け、階段を降る黒髪の少年であった…