第22話 億越え・・・
MPポーションを作り終えたベルは、王都北門まで戻って来ていた。そこには、出発する時に居た検問官がまだ仕事をしていた。
それもそうだろう、ベルは工房魔法内に10時間くらい居たとはいえ、外の世界は時が止まっているのだ… 実際に王都を出発してから掛かった時間は、正味4~5時間といった所であろう。
「検問官さんー お疲れさまです! 物納お願いできますか?」
「おう! 先程の子供か! どうだ? 薬草はちゃんと採れたのか?」
「はい! お陰様で無事に採取して戻ってこれました! この薬草で大丈夫ですか?」
入都税の物納を、ヒオウギ草で支払おうとした…
その時、ベルは近くで並んで待っている住民や、他の検問官から失笑を買ってしまったのだ。
何故なら、ヒオウギ草は、薬草と認識されておらず、ポーション類は作れないただの雑草扱いだった…
この世界の住人達には解析魔術など無く、鑑定魔法は有るのだが習得が難しく、属性によってはまったく覚えられない属性もあるのだ。
しかも、鑑定魔法で解る事は等級くらいであり、その物の真価が鑑定できる魔法など存在していないのであった。
「むぅー 仕方ありませんね… これなら税として大丈夫ですよね?」
そう言って、何処からともなく解体済みのホーンボアの毛皮と肉の塊を取り出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「こ、これは、ホーンボアだよな… 何処から出した…!?」
驚く検問官達を余所に、涼しい顔で門を潜って行くベルであった。やはり、この検問官は優しくホーンボアのもも肉一切れだけで入都税としてくれたのだった。
ベルは少々目立ち過ぎたのだ…
ここで思慮に欠ける行動をしなければ…
こっそりとベルの跡をつける女性に気づいていれば…
翌朝のベルの前に広がる地獄絵図は無かったのかもしれない…
優しい検問官のおじさんに、毛皮を高く買い取ってもらえるお店を教えてもらったベルは、後宮に帰る前にどうしても寄らなければならない場所があった。
それは、ウサギ魚屋…
あの投擲の仕返しを… いや、ウサギ魚をどうしても食してみたかったのだ!
なにせ、今日はまだ、何も食べていなかった。
母に会いに行き、父に殺されかけ、MPポーションを作成したのだ。 ハードワークすぎる1日だった…
何と言っても、今日はベルの誕生日。自分にご褒美をあげても良いではないか!
「ありがとうよ! ボウズ! また来ておくれ」
毛皮店を後にするベルの懐は暖かかった。工房魔法で解体したホーンボアの毛皮は質が良く、1枚5万エル、全部で6枚あったので30万エル、銀貨30枚にもなったのだ。
喜び勇んでウサギ魚屋へ、リベンジに向かおうとした時… ベルの身体に異変が起こる。
甘々欠乏症
この世界に産まれ落ち、毎日1人で引きこもっていたベルのただ1つの人との関わり、サーヤに甘やかされる時間を焦がれてしまう。
「はあ… サーヤにゆっくり猪鍋でも食べさせてもらいたいです…」
道端でつい、口に出してしまった… そこに通りかかった肌の露出の多い服を着ているお姉さんが話しかけてきたのである。
「あら? 坊や… 顔色が悪いわよ? 大丈夫?」
「ご心配をおかけして申し訳ありません… 僕なら大丈夫です… ただの甘々欠乏症… いえ、甘えん坊なだけですから…」
「まあ… 坊やったら… まだその歳で甘えん坊さんなの? 可愛いわねっ! もう、つん・つん・」
サーヤ以外の人間に、つん・つん・されても元気は出ませんよ?
あれ?
つん・つん・つん・つん
あれ?あれ?
なにかちょっと元気が出てきてしまいました?
「ねぇ… 坊や… お姉さん美味しいミルクを出してくれる、静かなお店知ってるんだけど… 一緒に行ってあげましょうか?」
「坊やさえよければ… 甘やかせてあげてもいいわよ?」
「ふっかーつ!!」
「素晴らしいです! 王都! 行きましょう! 今すぐ行きましょう!」
おバカがいた… よわい5才でこれだ。彼の将来が心配になるのであった…
閑散とした店内のカウンターには、1人の男性が暇そうに佇んでいた…
そこに、楽しそうに手を繋ぎながら入店してくる2人がいた。1人は20才くらいの派手目な女性で、もう1人はまだ子供だ。
親子であろうか? いや、子供が女性をお姉さんと呼んでいる。では、姉弟だろうか?
それも違ったのだ…
「あっ! ママー! 可愛いお客さんをお連れしたわよー」
なんとこの女性、カウンターにいる男性の事を、ママと呼んだのだ! だが、子供は女性の胸をチラチラと覗き込むのに必死であり、その矛盾に気づこうともしていなかった…
「ママ… ミルク1杯ちょうだい!」
ママと呼ばれる男性に、女性がウィンクしながら注文をした。
「さぁっ! 坊やもそんな所に突っ立ってないで、ここにお座りなさいよ」
女性はポンポンと自分の膝の上を軽く叩き、子供を誘う。
コク・コク!
子供は無言で、何度も首を縦に振り、女性の膝の上へ誘われて行った…
しばらくして、陶器でできたコップが出され、その中には、なみなみとミルクが注がれていた。アクセントだろうか?一粒のチェリーがコップの端に飾られるように置いてあった…
女性は、チェリーに付着したミルクだけを綺麗に舐めて、子供の口へと運ぶ…
コク・コク!
口の中に… いや、頭の中に甘い香りが広がって行くのだった。
女性は、一口だけミルクを口に含み、子供の顔の前でワザとゆっくりと飲み干して、子供の耳元で囁いたのだ。
「ねぇ… 坊や… このお店の2階に、2人だけでゆっくりと甘々できる部屋があるの…」
コク・コク!
「ベットの上でゆっくりミルク飲まされされてみたくない?」
女性は自分の胸のあたりを指さし、子供に尋ねる。
コク・コク!
「そう! でもね、お姉さんの体って銀で光り輝く硬貨が30枚ないと、ミルクが出てこない体なの…」
およよ…と泣き崩れる女性を見て、子供は… このお姉さんは何と悲しい体質を持って生まれてきたのかと、本気で涙した…
そして何処からともなく銀貨を30枚だした子供は、女性にそれを渡すのだった…
部屋の白壁が夕陽を照り返し、2人の姿を鮮明に映し出す。
女性は、子供の顔のまえで、服を胸元まで下し口を開く。
「坊や… お姉さん… 初めてだから恥ずかしいの…」
「お願い、これ付けてくれるかな?」
女性は子供にアイマスクらしき物を見せた。
コク・コク!
子供は、見た目は派手なのに、なんと純情な女性なのかと、男らしく頷き返した。
それに対し、女性は、相好を崩しながら、子供にアイマスクを付けていくのだった…
目隠し甘々プレイだなんて…
日頃の行いが良いんですね!僕は!
そんなおバカな事を考えている子供の耳元に、艶かしい声が聞こえてくる。
「お姉さん… 今から準備するから待っててね…」
コク・コク!!
この部屋の扉の前には、先程カウンターにいた、ママと呼ばれた男性が聞き耳を立てていた。女性は音を立てずに扉を開ける。
2人は視線を合わせ頷き、男性は、女性の手に銀貨を1枚握らせたのだった…
「ゴメンね… 坊や… 優しくしてもらってね…」
女性は、誰にも聞こえない程の小さな声で語りかけ、階下に降りて行った。
男性の名前はモーリス・スコテと言った。12年前に起こった、とある事故により男の象徴が潰れて無くなってしまったのだ。
体の欠損など再生できないとされているこの世界で、それは、悲惨な事故だった…
だが、彼の切り替えは素晴らしかった。いや、目覚めたというべきなのか…
入れる側から、入れられる側へとジョブチェンジしたのだ。
彼は、いや、彼女は服を脱いでいく…
服の擦れる音って良いですね!
あっ!なにか鼻先に当たります…
くすぐったいですね…
これですかね?
予想より小振りですけど…
小は大を兼ねますよ! 素晴らしいと思います!
この絵面はお見せできないが、断言しておこう!
これはただ5才児が甘やかされていだけである。
問題があるとすれば、おじさんが、5才児に抱きついているという事だけである…
この子供は、生まれた時からの記憶がある。そこから毎日5年間、甘々タイムを享受してきたのだ。
身体が勝手に馴染んでいく。
例え、相手が胸毛を生やしたおじさんだったとしても…
逆にモーリスは甘々タイムなど何時ぶりか…
身体が震えだし、獣の様な声が響き渡る。数瞬の後部屋は静寂に包まれた…
子供は疲れていた。本当に今日は色々あったのだ…
彼は甘々の満足感に包まれ眠りについていく…
翌朝、隣りに寝ていたおじさんこと、モーリスと共に、ベルの魔術によって、この飲み屋が王都から消滅した事は、住人達にすぐ忘れらていくのであった。
「いやー 酷い目に遭いました…」
目隠しプレイは、もう絶対にしないと誓いながら、王宮へと続く道を歩くベルがいた。
「思い掛けず、朝帰りになってしまいましたね… サーヤは怒っているでしょうか…」
大きな自省の念を胸に抱き、王宮門の前に辿り着いたベルは衛兵に話しかけようとしたその時…
「いたぞ! コイツだ!」
「生き死には構わん! 絶対に捕まえろ!」
「ぶへっ!?」
衛兵の持っている槍の柄で殴られているベルがいた…
「い、いきなり何をするのですか!?」
衛兵の1人がベルに1枚の羊皮紙を見せてきた…
「これは、お前だろ!?」
はい。僕は、億越えルーキーになっていました…