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第21話 夢と希望


 王都エクロンから伸びる街道を1人テクテクと歩くベルの姿があった。王都を出発してから、1時間あまりだろうか、右手前方に森が見えてくる。



「おぉー ここが、シレイラの森ですか!」


「おや? 何か見えますね…」




 シレイラの森。王都から近く様々な薬草の群生地として重宝されている森である。だが、魔物が出ることもあり、薬草採取などの仕事は冒険者に回される事が多いのだ。


 ベルの前方50メートル程先にいる、姿形は人に近いのだが、緑色をした小柄で醜い魔物。




「あ、あれは… 定番のアレですよね!?」


「実際に目にすると、気持ち悪いですね… 一応確認しておきましょうか…」



『解析魔術・発動!』



:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:・:




名前    

No Name



年齢    

5歳



種族

ゴブリン



性別



状態

空腹



LV    

3



HP     

90/130



MP     

30/30



魔法属性   

土属性LV1



称号     

無し




:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:・:




 やはり、定番のアレ… ゴブリンであった。


 解析魔術の為、ゴブリンに熱視線を向けていたベルの存在に、それは気づいた。状態は空腹。近くには、自分と同じくらいの背をした、弱そうな人間の子供。


 食べろ、食べろ、食べろ、食べろ


 脳内に響く声に従い、何とも聞き取れない唸り声を上げ、涎をまき散らしながらベルに迫る。



 次の瞬間、街道には乾いた破裂音が響き渡り、眉間に風穴を開けたゴブリンが横たわっていた。





「うーん…」


「初めて生き物を殺してしまいましたけど… 何の感慨もありませんね」


「日本に居た頃では考えられません…」


「転生したからでしょうか… それとも、僕が壊れているだけなのでしょうか…」





 深く考えないようにしようと、足早にシレイラの森に入り込んで行くのであった…

 











『搬入・ホーンボア』



 森に入ってから、既に3度この魔物に襲われているベルである。搬入とは、物質を素材として工房魔法内に取り込む機能なのだ。

 これが、中々の優れもので、取り込む物の量や大きさの制限は無い。その物の時間経過も好きにできる。


 例えば、醗酵させたい物があるとする。その時間を早めてやれば数秒後には醗酵食品が出来上がるのだ。魔力量がかなり消費されるのが難点だが、ベルはこの5年間でこの機能を使い色々な食品を作っていたりもする。元日本人としては、いくつか欲しくなる調味料など思いつくであろう。


 そして、この機能の一番重要な事がある。なんと、生き物を取り込めるのだ!今はまだ、人や魔物サイズの生き物だと無属性の生物しか取り込めないのだが…


 工房魔法LV8でアシエラの病を治せると解析魔術で出ていた事を考えると、LV8まで上げれば他の属性の生物も取り込める様になるのではいかと、ベルは密かに推定していた。






「流石、異世界です! 角が生えている猪なんて地球にはいませんでしたからね!」


「この猪は美味しいんでしょうか? それにしても、お腹が減りました… 帰ったらサーヤに猪鍋でも作ってあげましょうかねー♪」




 独り言を言いながら森の中を進むベル。けして、闇雲に進んでいる訳ではない。先程から探知魔術を発動していてヒオウギ草の在りかを既に見つけ出していたのであった。












 工房魔法内で半透明の椅子に腰かけ、ぐったりとしている少年がいる。


 ヒオウギ草を見つけ出してから、おおよそ10時間、工房魔法内に引きこもりMPポーションの作成に励んでいたのだ。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・」






「よ、ようやく… で、できました…」





挿絵(By みてみん)






 この、MPポーションという物は非常にデリケートな薬品であったのだ。調合能力LV5を取得したベルには、調合自体さほど難しくはなかったのだが、それを入れる容器が問題だった。


 工房魔法内にあるモニター越しに製作する場合、機材などは必要にならない便利な使用になっている。今回もモニターを見ながら調合してMPポーションは出来上がったのだ。


 しかし、このMPポーション、普通のポーションで使われている陶器の器だと、工房魔法外に出すと直ぐに、酸化し魔力が拡散して効力が無くなってしまったである。

 こんな物は工房魔法内でしか使い物にならない…


 そこで、ベルはMPポーション専用の容器を作成する事にした。金属とガラスと魔力を組み合わせ作り上げたそれは、容器単体で10等級。そこにポーションを入れた完成品は、なんとアーティファクト級になってしまったのだ。




 このフェニキアという世界では、製品全て等級で価値を測れる。人類が作れる物は、1~10等級までの筈だった。

 パテカトル・ナボポラッサル王宮筆頭薬師が作れる最高のポーションが5等級。

 10等級の上にあるアーティファクト級… この凄さがお分かり頂けるだろうか?

 






「やってしまいました… アーティファクト級ですか…」


「こんな物、爺に見せたらまた拝まれてしまいますね…」


「今日は、もう疲れました! 早く帰って寝ましょう! いや、その前にサーヤと甘々タイムを…」






 おバカな事を考えながら、夢と希望を抱きながらベルは帰路に就くのであった…













 次の朝、目を覚ましたベルの前には地獄絵図が広がっていた!?


 それは転生してから毎日、サーヤに起こされ感じてきたふんわり柔らかな幸せを感じる寝起きではなく…

 解析魔術を使わなくても解る者。


 そして、その性別はこちらも解析魔術を使わなくても解ってしまう。


 なにせ、生い茂る胸毛を持つ、おじさんだったのだから…





 ベルの夢と希望が胃から逆流し、吐き出される。


 キラキラと輝きながら… 

 




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