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第19話 無能王子

 

 アシエラの部屋の外には、人だかりができ、遠巻きに部屋の様子を眺めていた。これだけ激しく戦っていたのだ。皆何事かとやってきたのだが、イラーフ王が戦っている時は、巻き込まれない様に離れるのが、フィリスティア王国の常識だった。


 その王が、吹き飛ばされ血まみれになりながら、部屋に戻って行った…

 フィリスティア王国最強、いや、ティルス大陸最強の一角として挙げられる暴風王なのだ。その王がここまで満身創痍になる姿など、想像した事がない。

 衛兵達は焦る… 王の身に何かある前に盾にならねばと…




「陛下ー! 加勢いたします! 賊はいずこに?」



 衛兵達がアシエラの部屋に雪崩れ込んできた。部屋の様子を確認した衛兵達は固唾を呑む。


 部屋は荒れ果て、壁には穴が空いており、彼らの王は泣き崩れていたのであった…






「陛下… もう心配めされるな… ご覧の通りアシエラ様は治られましたぞ…」





 パテカトル爺は、幼子をあやす様にイラーフの背中を優しくさすっていた…


 彼は、イラーフの母を治療して救えなかった記憶を蘇らせる。苦しかったであろう。悔しかったであろう。様々な感情が渦巻き… 一筋の涙をこぼした…





「あの… すみませんが… 身体が動かないので、どなたか治療していただけると助かるのですが…」





 1人取り残され、空気の読めない主人公がいた…







「・・・・・・・・・・・・・・・・・」







「そう言えば… お前誰だ…?」








 この人、誰かも知らず殺しにかかったんですか…


 僕の父親怖いです…


 異世界恐ろしい所です…





 ベルも、一筋の涙を流したのであった…







「ほっほっほー 陛下、このお方がアシエラ様を治してくれたのじゃ! なんと… 陛下のご子息であらせられる、エル・バアル様なのですぞ!」





「・・・・・・・・・・・・・・・・・」





「「はあー!?」」









 親子は2人揃ってパテカトル爺を見る。


 パテカトルは、もはや確信していた。いや、妄信に近いのかもしれない。無理もない、目の前で未知の魔法を使われ、治る事のない病を治したのだ。伝説と同じ様に…

 しかも、まだ5才という幼さで、この国最強の王と互角以上の戦いを繰り広げられる。そんな5才児がエル・バアルでなくて何なのだ?


 床に横たわるベルに向かって、跪いて祈るパテカトル。そして彼はベルの足に口づけをするのであった…

 

 神や王の前にひれ伏し、足に口づけをする行為は、最高の敬意を表わす礼とされる。それは、忠誠を誓う意味でもあるのだ。




 えっ!? なんですか? この絵面は…?


 もしや、こ、これは… 伝説の… BLと言うやつなのですか…?


 しかし、爺と子供の需要なんてどこにあるのでしょう…


 異世界こっわいよぉーーーー





 王も衛兵達も意味が解らず、ドン引きしている中、ベルは何とかパテカトル爺を立たせ、ポーションを処方してもらう事に成功した…


 


 「ふぅー」

 

 「これで、なんとか動けますね」


 「魔力も回復してきましたし、爺… 陛下の治療をお手伝いしましょうか?」




 ポーションを処方してもらう代わりに、パテカトルの事を爺と呼ぶように交換条件を出されたベルであった…

 ベルの能力の1つに魔力回復能力LV4があり、単純に普通の人間より、4倍の速さで魔力が回復するのだ。




「おぉー 良かったですな、陛下! エル・バアルに治療していただけるなど誉れですぞ!」




「いや、ですから… 僕の名前はべアル・ゼブルですって…」





 もうこのジジイは何を言ってもしょうがないと思い、ベルはイラーフに向かって右手を向けた。





『治癒再生魔術・発動』




 先程まで、殺し合いをしていた相手に右手を向けられたのだ… イラーフは一瞬身体を強張らせたが、温かな光が身体中に浸透して行き、瞬く間にグチャグチャに潰れた右腕が元に戻り、全身の傷も癒された。


 驚きを隠せないイラーフ。それもそうだろう、実践経験豊富な彼は今まで様々な傷を負ってきたのだ。この右腕は治っても、今まで通りには動かす事は無理であろうと思っていた…

 それが、一瞬で完治した。違和感も全くない。



 衛兵達がざわめく…



 パテカトルは自慢げにベルを見遣り、またひれ伏すのであった…





「お前は、本当にベアル・ゼブルなのか…?」



 イラーフは訝しんで問い掛ける。



「あー、そう言えば… お初にお目にかかります。国王陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう存じます。僕がべアル・ゼブル・フィリスティアでございます。以後、お見知りおきを」





 5才の息子に父とは呼ばれず、国王陛下と呼ばれる事に少々胸が痛むが、この5年間放置したままだったのだ。それも仕方の無い事である。しかも、知らなかったとはいえ、つい今しがた迄、殺し合いをしていたのだ…


 イラーフはベルに掛けてやる言葉が見つからないのだった…


 だが、ある事に気づく。この子供は異常なのだ。それは、ギリギリの戦いを繰り広げたイラーフには良く分かった。


 エル・バアル。


 聖九柱教では大悪魔。討つべき敵なのだ… それが、この国の第5王子だとの噂が広まればどうなるのだろうか…

 パテカトル爺の様に、ベルに心酔する者がこれからも現れる事は想像に難くない。今、聖九柱教と事を構えるのは、上手くないのだ…










 ベルは、パテカトルに対して今のアシエラの症状を詳しく説明していた。


 まだ、完全には治ってはいない事、病気の進行を遅らせるにはMPポーションが必要な事、完全に治すにはベル自身の魔法をもっと上達させるか、アンチネクロゾーマポーションを造らなければならない事…


 パテカトルは、MPポーションなんて物は聞いた事が無かった… 魔力を回復させるポーション。そんな物が作れれば世紀の大発明なのだ。


 アンチネクロゾーマポーションに至っては、ヒュドラーの血液が必要ときた…


 ヒュドラーとは、9つの首を持つ不死身の大蛇の魔物であり、その危険度は首は9つでもLV10…

 この国の建国王が挑んで攻略出来なかったダンジョンの80階層に存在していて、討伐するには、一国の軍隊が集まって、できるかどうかの強さなのであると、建国記には記されてあった。





 横で静かにそれを聞いているイラーフにベルは嘆願した。





 「陛下、お願いがございます! 僕をこの城から出して、アンチネクロゾーマポーション作成の為の素材集めをする許可をいただけないでしょうか?」






 イラーフは、目を瞑り考える… 

 ベルをこのまま城に置いておけば、その内にベルの事をエル・バアルと呼び出すバカが出てくるだろう事、それにダンジョンの攻略など、何年も何十年もかかるのだ。いや、それでも未だ攻略された事のないダンジョンなど腐るほどある。


 ベルを表舞台に出す時間稼ぎになる… そう思った…





「わかった… 許可しよう…」


「その代わりに、アンチネクロゾーマポーションを… いや、アシエラを完治させる事ができるまで、フィリスティアの姓を名乗る事を禁ずる!」






 頭を抱えるパテカトルに対して、喜び勇んでいるベルはまだ気づいていなかった… 姓を名乗る事を禁じられた意味を…





「よし! それでは、早速行ってきますね! いやー楽しみですねー 念願の冒険です!」


「それでは、陛下、爺、後の事はお願いしますね」





 そう言い残し、ベルの姿が無色の粒子に変わっていった…







「・・・・・・・・・・・・・・・・・」








「えっ!? 何アイツ?バカなの? 普通いきなり行くか? やはり… 所詮無能か…」



 今度は、許可を出した身のイラーフ自身が頭を抱える… 




「ほっほっほー これから無能と言う言葉の意味は、能力が無しではなく、無限の能力と言う意味で使われるかもしれませぬな…」



 そう言って、ベルの消えた場所に向かい跪き祈りを捧げる、パテカトルであった…








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