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第15話 聖九柱教×イラーフ王

 アシエラの部屋に侵入者が入ってくる、少し前の話しである。









 ここはフィリスティア王国にある、王宮内、謁見の間。玉座に座るのを許されているのはイラーフ・フィリスティアただ1人。


 謁見の相手は、ガストン司教。この大陸随一の信徒数をほこり、様々な国に影響力を持つ、聖九柱教の司教である。

 彼はイラーフ王に、聖九柱教に帰依するよう迫っていた。一国の王が、特定の宗教に帰依するという事は、その国の国教がそれになると同義なのだ。




 聖九柱教は財と力と信仰のおかげで、有能な魔法士を多数抱えており、国教とした国には、教会が立ち、貧しい者達への施しや、教育、傷病人などの治療に至るまでやってくれた。

 

 それに、一番の特徴は、王権神授を附与できる唯一の組織なのだ。王の権利は、九柱の神から授かった物で、国王のなすことに対しては、国民はなんら反抗してはならないのである。

 ただし王は、神=教会には逆らえなくなるのだが…


 例えば、教会に浄財する金額は、税収の8割と言われれば従わなくてはならないのだ。実際に、それでいくつもの国が亡んだ。

さらに、言う事を聞かない王には、見せしめとして王族を暗殺したり、拉致したりと、もっと黒い噂もあったりする…





 イラーフ王は、ガストン司教の言う、お為ごかしにうんざりしていた。

 いや、それ以前にイラーフ自身が聖九柱教と因縁があるのだが…





 ガストン司教が、謁見に来るのはこれが初めてではないのだ。ここ数年、毎月の様に足しげく王宮に通いイラーフに説教をして帰って行く。




 1度、アシエラの病を治せたら帰依してやると言ってみたのだが… もちろん、治せず。挙句には、イラーフの信心が足りないから治らないだとか、アシエラには悪魔が付いているだの吐かすのだ。

 流石に一瞬のうちに首を刈り取ろうかとも思ったのだが… そうもいかない事情もあるのだ…







 現在、フィリスティア王国が属するカナン地方では、ウガリット王国、プランシー王国、サリデ王国が聖九柱教を国教としており、フィリスティア王国に様々な圧力をかけてきているのだ。


 12年前に起こった、大魔森林のスタンビートと連合軍との戦は、聖九柱教が裏で糸を引いていた… そんな噂が絶えない。


 2国の連合軍でさえ、あれだけの被害が出たのだ。3か国の連合を組まれた日には、フィリスティア王国としては、たまったものではない。







「あーあ、つまらねぇ。このクソ司教、今すぐ死んでくれねえかなー」






 この、口が悪いが、金髪で精悍な顔つきの偉丈夫が、イラーフ・フィリスティア。この国の国王でベルの父親であった。





「陛下、心の声が口に出ていますよ… 流石に今すぐは、言い過ぎです。せめて、国外に出てから死んでもらわねば外交問題になります」





 何気にイラーフより、辛辣な事を言うこの男はテルミニ・イメレーゼ侯爵。フィリスティア王国の宰相であり、イラーフの幼馴染でもあったりする。

 顔立ちは良く、少し贅肉が付いてきてるが背が高いので気にはならない。髪色?言ってくれるな…

 30を少し超えた歳なのだが… 髪の毛が少々少なくなってきている… いや、大分少なくなってきているのだ。


 暴風王の友をし、共に政務をこなすには、多大なストレスがあるのだろう…






 

 2人が話し始め、説教を中断させられたガストン司教は、頬をひくつかせながら答える。





「よ、よいのですかな?陛下? その様なお心構えでは、アシエラ第5王妃様の病。治る物も治りませぬぞ?」





 一瞬の殺気が溢れる。



 謁見の間全体を、暴風が吹き荒れたような殺気が、刹那の間にイラーフから放たれた!




 これは、魔気と言われる技、能力で、魔力に気迫を込める事によって、相手を威圧し怯ませたり、熟練者になれば、それを身体に纏い鋼の様な硬さにする事も可能なのだ。


 冒険者ランク10星のイラーフにかかれば、一瞬でガストン程度ならば気絶させられる。






「%’&$%#&$#)’&()(’&%&$!?」





 ガストンは泡を吹いて倒れこんだ。






「司教はお疲れのようだな。お帰りになってゆるりと休まれるがよい!」


「浄財はいつもの倍くれてやれい!」






 そう言ってイラーフは、玉座にくたびれた様に座り込む。


 今は、アシエラの事には、触れてほしくは無かった…  


 昨日、パテカトル・ナボポラッサル王宮筆頭薬師から聞かされたアシエラの病状は凄惨な物だった…


 人生で2度も、この病魔で身近な者を亡くさねばならないのか…







 イラーフが10才の頃だった…




 最愛の母が自分の目の前で、崩れていったのは…





 生まれてから1度も母に会う事がなかったイラーフは、ある日、母の部屋へと呼ばれた。それまで、手紙は交わした事はあったが、母の声を、顔を、手を、初めて会ったら何と挨拶をしようか…


 前日は期待に胸をふくらませ、寝付けなかったのを今でも覚えている…


 それが、あんな最期を迎えるなんて思ってもいなかった。


 母の手を握った… ただ、母と手を繋いでみたかっただけなのだ…


 その瞬間、握った手の平から肘までが無くなった。


 呆然とし、母の顔を覗き込む。それは、もはや人では無かった…




 部屋を飛び出し逃げ出した。人生において、後にも先にも逃げ出したのは、それ1度きりだ。





 アシエラの病は母より進行が早いようで、発症してからまだ5年しか経っていない。凛として銀髪が美しい チャーミングな女だった… そして、誰よりも優しく強い妻なのだ。

 あの様な最後を迎えさせて良い訳がない。だが、自分ができる事は壊すだけ。妻なのに触れもしないのだ…

 できる事は、最後まで逃げずに見ててやる事。

 

 今度だけは、けして逃げ出しはしない!





「ふぅぅぅー」



 自分に気合を入れる為に頬を2回ほど叩き、玉座から立ち上がった。







「陛下… いや、イラーフ… 行くのか?」




 幼少の頃から、気心知れた者同士。テルミニ・イメレーゼとイラーフは、2人きりの場所では、呼び捨て合う。

 そして、全てを言わなくても解り合う。




「ああ。最期くらいは一緒にいてやらないとな… あのバカ司教のせいで遅くなった。俺はいつもアイツを待たせてばかりだ…」







「そうか… 執務は何も気にするな。私がやっておく。ゆっくりとしてこい」





「恩に着る…」





「アシエラ様に、エル・バアルの御加護があらんことを…」






 テルミニは、いつもの凛々しい姿とは違い、背中が少し小さく見える、友の後ろ姿を見守るのだった…



















 足早にアシエラの元へ向かう為、後宮の廊下を歩くイラーフは、いつもとは違う事に気づく。


 風属性魔法の特徴の1つとして、感知力が長けているのだ。アシエラの部屋がある辺りから、膨大な魔力の奔流を感知した。


 今までに感じた事のない魔力の質と量だった。


 後宮は王族以外の男子禁制である。例外は薬師など王である自分の許可を取った信頼のおける者だけだ。


 それにしても、この魔力量はおかしい、桁違いに多いのだ。12年前に戦ったドラゴンに匹敵するかもしれない。




 先ほどまで謁見していた、ガストン司教の顔がちらつく…

 聖九柱教の奴らは、自分の意に従わない者は、例え王族だろうと、拉致や暗殺をしてくると、噂の絶えない宗教組織だ…




「チッ!」




 もしやアシエラを狙って!?


 最期の時を迎えようとしているアシエラだけは、冒涜させはしない!





 イラーフは全力で廊下を走る。そして止まる事なく詠唱を始めた。





「風を食らう大気よ、振るえて音となせ・ソニック・ブレス」








 !!!!!振動!!!!!!




 その衝撃で爆音と共に扉が砕け散る!!




 腰にさしてある、国宝アパラージタ。総ミスリル製の大昔にエル・バアルが作ったとされる両手剣を抜き、肩に担ぎ部屋の様子を伺うのであった。






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