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第12話 アシエラ第5王妃part3

 扉を抜けるとそこは、日中だというのに、窓が閉められ薄暗かった。このティルス大陸では、まだガラス製品が発達しておらず、窓を閉め切ると夜の様に暗くなってしまうのだ。

 その代わり優しい光を放つ魔道ランプが照らされていた。その先には、白地に金の装飾が施された、ベルの部屋の3倍はあろうかと思われる広さの、豪華だが嫌みのない部屋が見えた。 

 

 窓際にある天蓋の付いているベッドに向けて、サーヤはベルを促す。




「お初にお目にかかります。母上」


「お呼びに預かり、べアル・ゼブル・フィリスティア、ただいま見参致しました」





 病人独特の饐えた匂いと、何種類もの薬草の匂いが混ざる薄暗い部屋の中央で、ベルは片膝を床に着き、屈膝の礼をとりながら答える。

 だが、ベッドに横たわっていると思われる母からの返事は返ってはこなかった…


 その代わりに、ベッドの隣の椅子に腰かけている、白い髭をたくわえた純朴そうな好好爺が答えた。



 

「ほう… 礼儀正しいお子じゃのお… サーヤ殿は立派に務めを果たされている様ですぞ… アシエラ様」


「申し遅れましたな… 儂は、パテカトル・ナボポラッサルと言う者じゃ。陛下からは伯爵位を賜り、王宮筆頭薬師を拝命されておりますのじゃ」






「これは、これは、筆頭薬師殿でしたか。ご丁寧に痛み入ります。それに… ナボポラッサル卿が、ずっと母上の治療をなさってくださているのですよね?感謝申し上げます」






 ベルは得に自分が王子だという自覚はない。サーヤから初めて聞いた時には驚きもしたが、周りから疎まれている事も理解もしていき、普通の王子の様に偉そうには出来そうもないので、なるべく自分らしく生きて行こうと考えていた。

 ベルにとっての、自分らしさとは、日本で培ってきた物なのだろう。やはり、年上の人に会えば敬語が自然と出てきてしまうのだ。





「ほっほっほっ… それでべアル・ゼブル殿下は、母君の病状の事をどこまで、聞き及んでおりますかな?」





 正直、ベルは母の病気の事など、昨日サーヤに母の事を言われるまで忘れていたのだ… 冷たいと思われるかもしれないが、会った事もない人達の事を本気で気にかけて生活などできる訳がないのだ…

 そう思っていた…


 ベルは、おそらく重篤な病にかかっているのであろう、という推測をしている事だけを伝え、サーヤの方に視線を送る。だが、サーヤはベルと視線を合わせようとはせず、うつむいたままであった。





「ほっほっほっ… まあ、サーヤ殿にこの病の説明を殿下にさせるのは酷な事じゃな…」




 

 パテカトルは、淡々とベルに説明を始めた。



 病名は『ネクロゾーマ』と呼ばれている不治の病… 出産後の女性しか発症しない病で、徐々に身体が動かなくなり、最終的には身体が崩壊していくのだそうだ。しかも、意識だけは最後まで残っているらしく、人類が侵される病の中で最も残酷な病と言われている。

 

 この『ネクロゾーマ』に侵された女性の産んだ子供は強い魔力を持つそうで、イラーフ王の母、ベルの祖母もまた同じ病で亡くなっていた。






 この世界では、生まれついた魔力の量は、生涯ほとんど変わらないと思われている。それもそうだろう、ステータスを見れる人間が存在しないのだから…

 訓練を積めば、魔力を感じられるようにはなるのだが、細かく数ポイントの差などわからないのだ。普通の人間であれば、魔力が枯渇したり、レベルが上がったりすれば、1ポイントずつ上がるのである。

 

 魔力が枯渇すると、気絶するほどの頭痛や虚脱感に襲われる為、戦闘中にこれに陥ると死に直結する。よって魔力枯渇を起こす者は、魔力操作の初心者とみなされ、忌むべき事とされていた。




 ベルは『ネクロゾーマ』に侵された女性の産んだ子供は強い魔力を持つと言う話が、気になった…


 何故なのか?


 自分が生まれた時の、魔力量など微々たる物だったのだ。だが、ベルは1つの可能性を思いつく…


 残酷な可能性を…





「ナボポラッサル卿… 母上のお姿を一目だけでも、お見せいただく事は可能ですか?」







 パテカトルは目を閉じ少しの間、思案に暮れる。アシエラにベルとの接近を禁じたのは自分だった… 幼い赤子は免疫力が弱く、『ネクロゾーマ』が感染する恐れがあると書物に書いてあったのだ。これを確認する術はなく、アシエラは、泣く泣くベルに会うのを諦めた…


 そして、アシエラの最後の時が迫っている事は、長年、薬師として様々な患者と向き合ってきた経験上、解っている。良くて後、数日持てばよいだろう…

 この少年は、この母の姿を見て耐えられるのだろうか…トラウマだけを残してしまわないだろうか…

 様々な感情が交錯する中、1人の声が聞こえた。






「ベルさまは… 誰よりも強いお心をお持ちですぅ! 大丈夫ですよぉ パテカトル様…」





「そうじゃな… サーヤ殿がそこまで言うのであれば… 少しだけですぞ?殿下…」





 ベルはうなずき、ベッドの脇に移動する… そして、そっと天蓋をめくっていった…









「つっ!!!!!!!!!!!!」








 そこには、およそ人であっただろう物があった…

 

 大方の髪の毛は抜け落ち、頭皮がめくれあがり頭蓋が見え隠れして…

 

 鼻であっただろう場所には、穴が空いているだけで…


 右目は飛び出し腐っている… 左目に至ってはどこにあったのかもわからず…


 頬は溶け数本しか残っていない歯が見える…


 




 パテカトルも、サーヤも包帯を巻いてあげたかったのだが、巻いたそばから崩れが激しくなるのだ…

 

 この痛み、この恐怖どれほどのものなのか想像もできない…







「クッ…!!!」




『解析魔術発動!』










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