第11話 約束
フィリスティア王国、王都エクロンの王宮に隣接する後宮内を、手を繋いで歩く2人の姿がある。1人は銀髪の可愛らしい顔をした美少年、べアル・ゼブル・フィリスティア。
もう1人は黒髪で本来なら美人であろう顔を、思い出し笑いなのかニタニタと、だらしなくさせている、サーヤ・ボールドウィン。
サーヤは、ベルの母親であるアシエラ王妃と姉妹の様に暮らした月日を想い出し破顔する。アシエラに出会ってからのサーヤの暮らしは、本当に楽しい事ばかりであった。しかし…
それまで、通り過ぎてきた部屋の扉とは違い、豪華な扉がある部屋の前で立ち止まる。そして、扉の向こう側の住人。今現在のアシエラの姿を思いだし、ふと、我に返る…
ベルにアシエラを会わせて本当に良いのだろうか… ベルはアシエラの事を怖がらないだろうか…
様々な想いが巻き起こるが、べアル・ゼブルに会いたい… 考えたくもないが、アシエラの最後の願いになるかもしれないのだ…
「着きましたよぉ~ここが母君であらせられるアシエラ王妃様のお部屋ですよぉ… ベルさまぁ… 1つだけお願いしたい事があるのですが… よろしいでしょうかぁ…?」
サーヤからのお願いは、いつもの事だと、ベルはしょうがないと少し苦笑いしながらサーヤの顔を伺うが、いつもの優しい顔つきではなく、どこか不安げな表情でベルを見ていた。
「どうしたのですか?サーヤ?僕で叶えられるお願いならいいんですけどね…」
「はぃ… 実は… アシエラ王妃様のご病状が思わしくないのですが… もし御気分を害されても、お部屋から逃げ出したりしないでいただきたいのですぅ~~」
「・・・・・・・・・・・・」
「母上はそんなにお悪いのですか…?お加減が快方に向かわれているから、お会いになられるのかと思っていましたが…」
この2年間、サーヤはベルとアシエラ2人の世話をしてきた。ベルの世話と言っても食事や本を持って行くくらいしかなくなっていたのだ。
勉学に関しては、教えるどころか、ベルに教わる事の方が多く、身の回りの世話に至っては、気がつくといつの間にか部屋の掃除や洗濯をしてしまっているのだ…
手が空いてしまったサーヤは、ベルの許しを得てアシエラの世話をする事を申し出たのである。
サーヤがアシエラの病状を答えられないままでいると、ベルはサーヤの手をギュっと握り直し答えた。
「大丈夫ですよ。サーヤが心配する事なんてありませんよ。この部屋を出て行く時は、またこうやって手を繋いで一緒に出て行く事を約束しますから」
そう言ってベルはサーヤに向かって、おいでおいでの仕草をする。サーヤは手を繋いだまま膝をつきベルの目線と同じ高さで見つめ合う…
それを合図に、ベルはサーヤの頭を空いている手で優しく撫でるのであった。
なでなでなで…
恍惚とした表情でベルを見つめるサーヤは知る由も無かった…
この約束が果たされる事がないことを…
「よし!サーヤ!顔を上げてください!さあ!行きましょう!」
2人は手を繋いだまま扉の向こう側へ歩き出したのであった…