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第9話 アシエラ第5王妃part1


挿絵(By みてみん)





 フィリスティア王国の王都エクロンは、港湾都市として発達した、商業・貿易都市である。また、城下の家々の外壁は、風雨に弱い土壁に防水性を与えることができ、不燃素材でもある漆喰が、古くから塗られており、まるで、日本の土蔵を思い起こさせた。それは、地球の地中海にある都市に勝るとも劣らない景観をしていた。


 その王都エクロンの中央には、一際目立つ真っ白い王宮が聳え立っている。王宮に隣接している後宮の一番端にある部屋の住人、べアル・ゼブル・フィリスティア。この国の第5王子である。





 彼は今、その後宮の廊下を、黒髪で美人なメイド服の女性と、恋人のように指を絡ませ手を繋いで歩いていた。

それはけして恋人同士だからではなく、廊下ですれ違う侍女達から軽く軽笑されるベルを慮り、守る為に繋いでいるのだ!




 何度も曲がり角を曲がり、来た道が分からなくなるくらいの長い廊下は、迷路の様だった。それは、賊が王族の住む場所への侵入者防止の為でもあるのだが、いささか疲れる…





 ベルと手を繋ぎ歩いているサーヤは、自分がベルと同じ歳の頃を思い出していた…



「さあ!行きましょう!サーヤ!顔をお上げなさい」



 そう言って優しく手を繋いでくれた、アシエラの事を…



 サーヤ6才、アシエラ13才の頃の出来事だった…









 北の大魔森林から魔物が溢れ出す、スタンビート。アシエラが生まれ育った、ムネヴィス辺境伯領は大魔森林から来る魔物を国に侵入させない為の要の場所にあり、建国以来、その責務を全うしてきた、代々のムネヴィス辺境伯は護国卿と呼ばれ、国中の者から尊敬を集めていた。


 数年~数十年の頻度で繰り返されるスタンビートに、領内の民達の結束は固く、国を守っているという誇りを持っているのである。

 12年前に起きたスタンビートでも、その力は発揮され、学徒動員まで起こり、兵数5万の規模まで膨れ上がるのだが、その、学徒の中にアシエラもいた。


 彼女は、護国卿の長女であり、優秀な水属性魔法の使い手で、学業も優れ、ムネヴィス辺境伯領にある、魔法学校の生徒会長を務めていることもあり、学徒兵の指揮を任された。

 


 傷を治療する属性魔法はいくつかあるのだが、その中でも効果の高い魔法が扱える水属性は戦場では、大忙しで、前線には出ていなかったがアシエラは獅子奮迅の活躍をみせるのであった。

 だが、12年前のスタンビートでは、いつもとは違い大魔森林の奥深くにあるとされる、龍の峰から成竜のドラゴンが1匹出てきているのが確認されたのだ。ドラゴンの力は凄まじく、特に成竜となると、1匹で国を壊滅させる事ができるとされており、LV10の魔物に指定されている。


 この知らせを受けた護国卿は、すぐさま王都に救援の要請を送った。しかし、大魔森林のスタンビートと示し合わせた様に、隣国のウガリット王国と、プランシー王国が連合を組み攻め入ってきたのだ…



 この国の存亡が掛かった危機に、王座に就いたばかりの、イラーフ・フィリスティア王の決断は早かった。フィリスティア王国軍の全兵力を隣国が攻めてきているゲティングズ辺境伯領、フィリスティア王国西北にある国境に向かわせ、自分は臣下数人とムネヴィス辺境伯領に飛んで行ったのだ。


 奮戦の末、ドラゴンを追い返す事に成功したのだが、サーヤとアシエラの父達は戦死、イラーフ王自身も大けがを負ってしまう…

 そこで、イラーフの治療に当たったのが、後の第5王妃、アシエラだった…



 1カ月後、傷の癒えたイラーフ王は、隣国との戦いを繰り広げていたゲティングズ辺境伯領に赴き、これを撃破。

 この活躍から、国民や近隣諸国からは畏怖を込めて、暴風王と称されていくのだ。



 全ての戦闘が終結してから数カ月後、段々と落ち着きを取り戻した国中で、この危機で亡くなった英霊達の葬儀が王国葬として執り行われた。

 そこで、サーヤはアシエラと出会った…












 ボールドウィン準男爵の一人娘として、大切に育てられてきた6才のサーヤは、父の死を受け入れられていなかった。誰にでも優しく、領内に出る魔物は父自ら討伐しに向かう事で、領民からの信頼も厚かった父。

 

 寄り親である護国卿には、代々臣従しており、建国以来、全てのスタンビートにボールドウィン準男爵自ら領兵を率いて参戦していた。


 その護国卿も戦死してしまい、ムネヴィス辺境伯領は騒然としており、新しくムネヴィス辺境伯領を継いだ、アシエラの兄には、ボールドウィン準男爵領を気に掛ける余裕が無かった…




 ボールドウィン準男爵領でも、領主が亡くなり、共に参戦した領民達は大怪我を負った者や亡くなった者も多く、見舞金や報奨金の捻出など執務を仮の領主として、サーヤの母がこなしていた。しかし、執務など経験のない母には荷が重く、借金は膨らみ続けた… 


 また男の後継ぎがいないボールドウィン準男爵領の領主の座を狙い、幼いサーヤの婿になろうと、実家の跡を継げない貴族や元貴族から結婚の申し込みが殺到し、中にはサーヤの父より年上の貴族からの求婚まであった。


 まだ父の葬儀も行われていない内から、毎日大人の男性とのお見合いが続き、自分の実家の方が爵位が高い事を盾に取り、サーヤと既成事実を作ってしまおうと、下種な行為に働く者まで出てくる始末である。

 普段なら結婚等の取り決めは、寄り親の護国卿を介して行われるのだが、要請を出しても、連絡は来ず…


 ムネヴィス辺境伯を飛び越えて求婚に来る貴族達は、後に新護国卿から実家に批判を向けられる前に婚姻を決めてしまう腹積もりであった…








「モーリスさまぁ… 皆が見ておりますぅ~ おやめくださぃ…」




「皆が見ておらぬ所ではいいのか? そなたと儂はその内に夫婦になるのだ!このくらいで恥ずかしがっておったら、赤子を作る時にどうするのだ!? はぁはぁはぁ…」


「儂の実家のスコテ子爵家の力を借りれば、そなたの領地もまた潤うし、借金もなくなるのだぞ?母君にこれ以上苦労を掛けさせてもよいのか?」




 

 このモーリスと呼ばれた男は、幼いサーヤを膝に置き、右手は後ろから回し抑え込む様に抱き着き、左手はサーヤの顎にやり、クイッと自分の方に無理やり向けさせていた。

 モーリスの手には、チェリーがつままれており、まだ穢れの知らないサーヤの口に直接食べさせようとしているのだ!







 ここは、ムネヴィス辺境伯領都アシュケロン。今日は、大魔森林の魔物達が起こしたスタンビートで命を落とした者達の王国葬なのだ…



 魔物との戦いで亡くなった者の亡骸が残っているというのは珍しい。なぜなら、食べられたり…溶かされたり…バラバラにされたり…グチャグチャにされたり…



 新ムネヴィス辺境伯からサーヤの母へと手紙が先日届き、父の指とそこにはめられていた指輪だけが見つかったとの知らせと、王国葬を執り行う旨が書いてあった。







 王国葬に参加する為に、ムネヴィス辺境伯領都アシュケロンに赴いた母と娘のサーヤ。母は、父の亡骸の一部と一緒に見つかった指輪を受け取りにと、亡骸の捜索の感謝を伝える為に新護国卿との謁見をしに行ってしまい…

 残されたサーヤは、モーリス・スコテと言う、スコテ子爵の三男と宿のテラスで昼食を摂っていた… この男は、サーヤの父達英雄を弔う為に、王国葬に参加するという名目で親子に無理やり同行してきたのだ。

 

 貴族の後継者以外の子供は、法官貴族と言う領地を持たない、司法もしくは行政上の官職に就く事で、身分を保証された貴族の事なのだが、それになれない者は平民になるしかないのだ。


 モーリスも法官貴族になれず、実家の後ろ盾を得て商人をしている平民なのだが、商売をする上で身分と言うのは、思いのほか影響があり、サーヤをモノにできれば自動的に貴族になれる、この機会を逃すまいと実家の援助も貰い大枚を叩き、お見合いまで持ち込んだのである。






 モーリスはチェリーをひと舐めし、涎で湿り滑りのあるチェリーを幼いサーヤの唇を押し分け中に侵入させてくる…




 王国葬に参加する為に、領内は人で溢れていたが、サーヤを助け様とする者はいなかった。先ほどから聞こえる子爵と言う言葉で皆尻込みしてしまっている。平民がこの様な変態貴族と関わっても良い事がある訳がない…




 そうこうしているうちに、モーリスの右手がサーヤのスカートの裾を捲くり上げようと、ゆっくり下りてきた…



 


「んんんんんっーーーー」





 滑ったチェリーを指押し込まれていて声をあげることができないサーヤは心の中で叫んだ。





 だ、誰か… 助けてくださいですぅ~~~!!



 その時であった。






「其れは水の恩恵なり、天より裁きの雨を降らし給え、ジャッジメント・レイン」




 空中から拳大の水の塊が、物凄い速さで落下してくる… サーヤ達のいるテラスのある宿の屋根に大きな音を立てながら穴が1つ2つと空いていき、その穴の数が数百に上った時、宿の形は原型を留めていなかった。




「あらま… 少し手元が狂ったわね…」


「まあ、でも、こんなちっちゃな女の子が襲われているのに、助けない店員がいる宿も同罪よねぇー」




 そこには、サーヤを背に庇い、モーリスに剣を突き付けている銀髪で凛とした面持ちの少女が佇んでいた。




「わ、わ、わ、儂は、スコテ子爵家の者だぞ!こんな事してタダで済むと思うのか!」





 銀髪の少女は答える。



「ふーん、スコテ子爵ねー」


「私は、ムネヴィス辺境伯家の者だけど?なにか?」








「「・・・・・・・・・・・・」」









「「えぇぇぇーーー!?」」






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