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終末世界の"ジャック"・ランサー  作者: 小説を書きたい猿
8/15

天使と悪魔 #悪魔

*ーーーーーーーーーーーーーーーーー

欲望の街(バビロン・シティ) 下層

 歓楽街(ネオン・シティ)

 大娼館"ヨシワラ"#大倉庫

ーーーーーーーーーーーーーーーーー*/

レグルスとアイは、先程映像で見た倉庫を捜索していた。

食料品や酒、煙草等の嗜好品をはじめ、銃やナイフといった武器、ラブドール、手錠、蝋燭など"プレイ"用と思しき道具類。

更には般若の面や熊の着ぐるみなど、用途がよくわからないものまでありとあらゆる物が揃っている。


それらが雑然と放り込まれた不潔な倉庫を、草の根を分けるように探す。

「本当にこんなところにいるんですかねぇ」

見張り番のようにレグルス達の後姿を眺めるレディ・マスキュラーが吐き捨てる。

ありありと"さっさと出ていけ"というメッセージが込められているが、従う気などレグルスには毛頭ない。


もともと散らかっていた倉庫を、さらにかき乱しながら捜索を続ける。

ふと、通路の傍に黒い塊が落ちているのを発見する。

近付き、臭いを嗅いでみると、排泄物の刺激臭が鼻を突いた。

表面が水分を含んでいることから、最近になって排泄されたものだと分かる。


「近くにいるな」

「ええ…」

レグルスとアイはより慎重に歩を進める。


「見て、あれ…」

アイが何かを発見した。

白い塊と黒い塊。

「見つけたわ…」

2匹の子猫が身を寄せ合うようにして眠っている。


アイはおずおずと猫たちに近付く。

ぴくりと猫の耳が動き、黒い子猫が目を覚ました。

警戒するように、アイを見ている。


「大丈夫よ…何もしないから…」

赤子に語り掛けるように、アイが声をかける。

不思議なことに、アイに対する警戒が解除されたようだ。

黒猫のほうから擦り寄っていく。

「いい子ね…」

アイは優しく、子猫の頭を撫でている。


「案外呆気なかったな。」

レグルスは拍子抜けしたように呟いた。

様子を見守っていたマスキュラーが近付いてくる。


「こんなところに…まさかこいつらが…?」

レディ・マスキュラーは何事か呟きながら、眠っている白猫の方に歩み寄る。

黒猫が、それを見て警戒の鳴き声を上げる。

マスキュラーは構わず、白猫の方に手を伸ばした。


ブッ…

その時、突然()()()がレグルスに向けて飛んできた。

(何だ…?)

レグルスは顔を拭うと凍り付いた。

掌は真っ赤に染まっている。

血…血飛沫だ。


レグルスはアイの方を見る。

彼女も同じく、凍り付いている。

アイが凝視する先を、レグルスも見た。


レディ・マスキュラーだ。

マスキュラーは腕を、白猫に伸ばしていた。

しかし本来繋がっているべき、手と腕が切り離されている。

血飛沫が上がり、白猫が紅く染まっている。


マスキュラーは衝撃のあまり声を忘れてしまったようだ。

金魚のように口を閉じたり開いたりしている。

訳もわからず、財布でも拾うかのように、地面に落ちている自分の手を拾おうとした。

「動くな!」

レグルスは咄嗟に声を上げる。

レディ・マスキュラーは呆けたようにレグルスを見た。

足がふらつき、白猫の方に倒れかける。


シィァァァァッ…

黒猫が怪物のような声を上げる。

猫の身体に異変が起きた。

下半身をアイの元に残したまま、上半身だけが異様に長く、伸びていく。

まるで液体のように形を失った上半身が、黒い波となって走る。

「逃げろ!」

一瞬のうちにマスキュラーの目の前まで到達した、黒猫の上半身だった物質は、爆発的に膨張してその身体を吞み込んだ。


「やめろぉぉぉぉぉっ…」

今更のようにレディ・マスキュラーが悲鳴を上げた。

黒い波はその声にさらに反応し、マスキュラーの身体に巻き付き、締め上げ、切り裂き始めた。

衣服、皮、肉…人体が膾斬りにされていく。

凄まじい絶叫と血飛沫をまき散らして、ズタボロの肉塊と化したレディ・マスキュラーを、さらに執拗になで斬りにする黒い波。

やがて絶命して動かなくなると、黒い波は徐々に落ち着いていき、やがて黒猫の下半身の元に戻っていった。


レグルスもアイも、息すら忘れてその光景を見守っていた。

"対象となる生物に関して、いかなる詮索も禁ずる"…

Yの言葉が甦る。

(あの野郎、とんでもない仕事持ってきやがって…!!)


*ーーーーーーーーーーーーーーーーー

欲望の街(バビロン・シティ) 下層

 歓楽街(ネオン・シティ)

 大娼館"ヨシワラ"#監視ルーム

ーーーーーーーーーーーーーーーーー*/

「ちょうど1か月程前からです。うちで惨殺事件が続くようになったのは」

黒猫は"責任者"を殺した後、疲労したのか眠りについた。

レグルス達は2匹の子猫をその場に残し、再びモニタールームに戻っていた。


「警察には?」

「言える訳ありませんよ。ウチはそもそも裏商売なんですから。」

黒服の男は青ざめた顔を横に張る。


一応、終末世界にも警察は存在する。

といっても自警団に近く、賄賂や違法行為が横行する、腐敗し切った組織ではあるが。

「それにどうせ呼んでも、大したことはできんでしょう。」

旧世界で確立されていた捜査手法は、国家の崩壊とともにその多くが失われてしまっている。

子猫が殺戮を行っていたなどという答えには、到底辿り着けなかっただろう。


「お前、俺がジェルマンからの紹介だと言った時、()()()、と言ったな。あれはどういう意味だ?」

黒服は怯えた様子で答える。

「どうもこうも…ジェルマン…様はこのヨシワラの大口出資者なんすよ。だから無茶苦茶な事言ってくるのなんてしょっちゅうあるんです。」

聞けばジェネラルは、ヨシワラの匿名性を良いことに相当汚い事を行なっていたそうだ。

裏取引に人身売買、そして…人体実験。


(あの化け猫…まさかわざとここに逃がされたのか…?)

確証は無いが、ジェルマンなら十分にあり得そうだ。

「それで、どうします?」

黒服がレグルスを見上げる。

「…今までの死体は見られるか?」

「一応、映像に残してますよ。正直、見ない方がいいレベルのモンですがね」

黒服は心底嫌そうに言う。

「見せてくれ。」


黒服は抽斗から外部メモリーを取り出すと、先ほどレグルス達が見ていた端末にセットした。

死体の映像は、3つ。

1つ目の死体は、女だった。

ずたずたに引き裂かれ、辛うじて性別が分かる、そんな凄惨な死体だ。

ゴクリと、誰かが唾を飲み込む音がした。


2つ目の死体も、女。

四肢が引きちぎられ、苦悶の表情を浮かべて絶命している。

状況を知らずにその死体を見れば、怨恨により拷問されたのだと思っていただろう。

(まるで生ある者を憎んでいるようだ…)

レグルスは考え込みながら、横目でアイの様子を確認した。

蒼白な顔で、必死に唾を飲み下している。


「次を。」

レグルスの指示に、黒服は躊躇する。

「どうした?」

「次のはもっと…ヤバイですよ?いいですね?」

黒服は自分に言い聞かせるように呟くと、端末を操作して次の死体を映し出した。


男女の死体。

女の死体は切り刻まれ、全身の皮が剝ぎ取られている。

その表情は、生きたまま皮を剥がれたのであろう、凄まじい激痛に歪んでいる。


そして男の死体は、どろどろに溶けたような状態になっていた。

薄ピンク色のヘドロとなった人肉が、骨やエンチャントメントの残骸とともに部屋中に飛び散っている。

本来臓器があるべきところは、肉と内臓が入り混じって溶け合い、赤黒く変色している。

半分溶けた目玉が、何かを訴えるようにこちらを見詰めていた。


「うっ…」

黒服の男が口を押えて部屋を出て行った。

「……」

その間も、レグルスは3つの映像を冷静に観察する。


(あの生物の攻撃方法は、自分の肉体を液体状に変化させて相手を切り裂く、あるいは抉り取る、そんなところか…。だが、この男の死体…溶けている…?一体どういう攻撃なんだ…?)

「レグルス、子猫が…」

その時アイが、別のモニターを指差した。


黒と白の毛玉のようなものが、もそもそと動き始めている。

「ちっ…!行くしかないか…!」

今逃がせば、さらに被害が広がるだろう。


サム・ジェルマンとYは、意図的にあの生物の危険性を隠していた。

恐らく話せば断られると考えたのだろう。

そのツケは必ず払わせなければならない。

その為に、あの生物は生け捕りにする。

動かぬ証拠を押さえ、サム・ジェルマンを脅して金を払わせる。


レグルスはそう決意して、倉庫へと向かった。

読んで頂き、どうもありがとうございます!


サム・ジェルマンという名前…錬金術師のジェルマンさんから連想していったんですが、よく考えるとサッカーチームのサンジェルマンに響きがそっくりだ…

知らない間に影響受けてたのかしら…


感想、コメント等頂ければとても励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

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