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終末世界の"ジャック"・ランサー  作者: 小説を書きたい猿
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謎の少女 #ザ・"ジャック"・ランサー

「|何でも屋《"ジャック"・ランサー》?」

驚く相手の顔を、レグルスは黙って見詰める。

大方予想通りの反応だ。


「あ、いや、すいやせんね。意外だったもんで…」

「別に構わんさ。自分でも驚いてるところだよ。」


欲望の街(バビロン・シティ)下層、退廃地区(ザ・スラム)

欲望の掃き溜めといえる、バビロン・シティの影。

血と暴力、狂気が支配するこの街で今、レグルスは新たなスタートを切ろうとしていた。


「わざわざ"ジャック"を名乗るってのは…金に困ってるんで?」

サングラスを掛けたスキンヘッドの男が、黒いレンズの奥から窺うような視線を浴びせてくる。


|何でも屋《"ジャック"・ランサー》とは、文字通りどんな仕事でも引き受ける者の事だが、ザ・スラムではさらに別の意味合いを持つ。

"ジャック"とは過去に実在した伝説の人物なのだ。


ジャックはシティ下層部の更に陰部とも言えるザ・スラムで生まれ育った。

幼少期から卓抜した頭脳と度胸、身体能力を誇った彼の元には、数多のギャング、マフィア、果ては企業に至るまでその力を欲さんとする者が日参していた。

しかし彼はそのいずれをも蹴り、自らの腕一本で成り上がっていく。


ジャックは18になったのを契機に、自らを”何でも屋”と称してあらゆる筋からあらゆる”ヤバイ仕事”を請け負った。

手始めにザ・スラムで幅を利かせていたギャングチームをいくつも壊滅させ、中層以上にもその実力を知らしめた。


そこから始まるジャックの伝説には俄かには信じがたいものも多い。

例えば、”ヘルモント本社殴り込み”事件。

生物兵器開発を主たる事業とするヘルモント社は、ザ・スラムにて非道な人体実験を繰り返していた。

子を奪われた母、妻を失った夫…。

被害者たちは金を無心し、ジャックに依頼をした。

ヘルモントをぶっ殺してくれ、と。

それを請けたジャックは数人の仲間たちと上層に侵入。

ヘルモント本社ビルを強襲すると、無数の護衛を突破して社長室に乗り込み、ヘルモントCEO以下経営陣を全員撃ち殺した…とされている。


企業はそのような失態を決して公表しないため、真実は闇の中だ。

しかしジャックの存命中、ヘルモントは突如としてジェルマングループに買収され、経営陣は全員解雇された。

解雇された経営陣の行方を知る者は誰一人いなかったという。


またジャックは超深度地下構造体(ダンジョン)に挑むトレジャーハンターでもあった。

彼は単身でダンジョンに挑むソロ・ハンターであり、初めて中層の地を踏んだ先駆者でもあった、とされる。


基本的にダンジョンは、下に進めば進むだけ、リスクとリターンが加速度的に増していく。

そして上層と中層を隔てていた、通称”死の門”に、迷宮の怪物(ミノタウルス)がいた。

上層のミノタウルスはその名の通り牛を思わせる二本の突起を備えた、巨大な機械兵であったという。

凄まじい戦闘力を持ったミノタウルスに、数多のハンター達が挑み、そして散っていった。


ミノタウルスを攻略するために、ハンター達は徒党を組むようになる。

ソロで挑むのは死にたがりだけ…

そんな中、ジャックはソロでミノタウルスに挑み、そして勝った、と言われている。

真相はわからない。

ある日ジャックは血まみれでダンジョンで発見され、目を覚ますことなくそのまま死んだからだ。

その同時期に、確かにミノタウルスが破壊されていた。

それをジャックと結びつけて語る者もいれば、自分の手柄だと吹聴する者もまた、数多くいた。


このように疑問符のつくものも含めて、数多くの伝説を持つのが、ジャックという人物であった。

そして彼の死後、自営業者(フリーランサー)の中でも実力と悪運、そして死に魅入られたような狂気を備える者を、"ジャック・ランサー"と呼ぶようになったのだ。

それを自ら名乗るということは、いわば裏市場に向けた宣言である。

"俺を殺せる仕事を寄越せ"と。


「ああ。大金が必要になったんでな。手っ取り早く稼ぐ事にした。だからこうしてお前を呼んだんだよ。"M"。」

レグルスは男を"M"と呼ぶ。

名前は知らない。

Mは裏仕事の仲介業者(ブローカー)であり、いくつもの名前、いくつもの顔を持っている。

レグルスにとって彼はただ"M"であり、それ以上の情報は不要であった。


「…まあ、旦那の実力は知ってますんで、別に構いやせんがね。」

そう言ってMは立ち上がった。

「んじゃま、ヤバそうな仕事が入ったら連絡しますよ。」

「宜しく頼む。」

Mと別れた後、レグルスはそのままそこに居座る。

レグルスはここ数日、知っている限りのブローカーに面会し、仕事を回すよう依頼していた。

その目的は、金を稼ぐ事。


伝説上のジャックはどうだったか知らないが、レグルスの知るダンジョンは何の準備も無しに進めるところでは無い。

下に潜るに連れて危険は増していく。

まして狙うは前人未到の下層。

それに備える為の物資、武器、そして人材…

レグルスの手持ちの金ではとてもそれを賄う事は出来ない。


「ビールをくれ」

運ばれてきた小麦色の液体を口に含む。

イマイチ冷えていないビールはキレが悪く、苦かった。


アイ…

神秘的な少女の姿が浮かぶ。

彼女が何者なのかは、もう考えない事にした。

しかしいつまでも目的を果たせなければ、レグルスなどすぐに切り捨てるだろう。


ルーシーの為…

レグルスはハイリスク・ハイリターンの道を選んだ。

すぐにでも金を稼ぎ、ダンジョンへ。

レグルスはスチール製のジョッキを呷り、残っていたビールを飲み干した。

暫く喉奥に感じる苦味を味わった後、現金を払い外に出る。


スラムの空はシティ上層の構造物に遮られ、いつも薄暗い。

生臭く、生温い空気。

これから進む道は、この空気よりも血生臭くなるのだろう。


(望むところだ)

レグルスは熱い息を吐き出し、帰路についた。


/*ーーーーーーーーーーーーーーーーー

欲望の街(バビロン・シティ) 下層

 レグルスの自宅兼事務所

ーーーーーーーーーーーーーーーーー*/

野良犬(ストレイ・ドッグス)?」

レグルスは目の前に座る若い女が言った言葉を反芻した。


「最近、下層で暴れてるガキどものチームですよ旦那。」

女の代わりに、Mが答える。


Mから仕事の紹介があったのは、あれから1週間後。

依頼主の希望により、直接会って依頼内容を確認する事になった。


「殺して下さい…」

女のか細い肩が震えている。

「息子が…アイツらに……殺してやりたい…あいつらも同じ目に…あわせたいんです…」

女は焦点の合わない瞳で、譫言のように呪詛を呟く。


彼女には一人息子がいる。

いや、()()

名前はリック。


リックには親はいない。

女が1人で、彼を育てた。


貧しい生活で、時に食うのにも困るほどだったが、女は幸せだった。

すくすくと元気に育つリックが、彼女の生き甲斐だった。


リックが6歳になって間もないある日の事。

その日から女の地獄は始まる。


公園で遊ぶリック。

女は少し、ほんの少し彼から目を離した。

その僅かな間に、リックは姿を消した。


女は血眼になってリックを捜す。

スラムの住人は他人に無頓着だ。

誰も助けてくれず、女は靴が破れるまで、リックを探し回った。


それでもリックは見つからなかった。

途方に暮れた女は、泣く泣く家に向かう。


そこで彼女は発見した。

玄関の前に、リック()()()()()が、無惨に投げ捨てられているのを。


そこまで話し、女は口を押さえて立ち上がった。

レグルスがトイレの方を指差すと、女はトイレに走った。


「…支払い能力はあんのか?」

レグルスは残されたMに聞く。

「問題ありやせん。()()()()()()()。」

「……。」


女が戻ってくる。

青い顔で、全身が震えている。


「わかった。引き受けよう。」

レグルスが言うと、女は顔を上げ、狂気に染まった笑みを浮かべた。


「…1つ提案がある。」

レグルスの言葉に、Mが訝しげな表情を浮かべる。

レグルスは構わず、続ける。


「報酬を2倍にしてくれ。その代わり、()()()()()にしてやるよ。」

女は、何を言われているのか理解できないようだ。

口を開くが、言葉が出て来ない。

女がMに助けを求めるが、Mは推し量るような表情でレグルスを見詰めるだけだ。


女は暫く困ったような表情を浮かべていた。

しかしある瞬間、女は口が裂けそうな程の笑みを浮かべた。

レグルスの提案の意味が解かったのだ。

そして、激しく首を縦に振る。


「幾らでも払います。お願いします。」


女の凄惨な笑みを見ながら、レグルスは宣言する。

「契約成立だ。」

読んで頂き、どうもありがとうございます!


ここでタイトル回収できました。

ジャックというのは、"何でも屋"を英語で、"Jack of all trades"というところから取ってきております。

それとフリーランサーのランサーを組み合わせて、"ジャック"ランサーとしました。

造語をタイトルに持ってくるのは、正直今のタイトル付けの流れには反してるだろうなと思いつつ…


感想、コメント等頂ければとても励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

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