嘘つき #Z変異体第二形態β型
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超深度地下構造体上層
レベル5 重汚染区域
"ドゥブロブニク旧市街"保存区域 #ピレ門前
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「何なのよこの数は…」
ピレ門を潜ると、そこには小さな広場がある。
中央に枯れた噴水があり、左手には大きな石造りの建物。
右手には狭い路地へと続く小道。
そして、あらゆる道を埋め尽くすZ変異体。
「おかしいわよ!?ここ、封鎖されてた筈でしょ?!どこから…」
「γ型か、あるいはδ型がいるんだろうな。」
Z変異体とは、まず素体となる人間がいて、その換装式強化義身をナノマシンが侵食、生体部分諸共も変異させてしまった姿。
当初はそう考えられていた。
よって封鎖によって新たな生贄を提供しなければ、やがては自滅していく筈…だった。
ところが実際は、封鎖された後もZ変異体は増殖し続けてしまう。
それはγ型やδ型と呼ばれる、素体を複製する事で増殖する変異型が出現したのがその原因だ。
「どこかに複製役がいるんだろうが…生憎今日は殲滅が目的じゃねぇ。立ち塞がる奴らを抜いていくだけだ。」
「了解…と言っても…」
散らばっていたZ変異体達が、こちらに気付いて集まって来ている。
立ち塞がるも何も、どこに行く道も全て塞がっている。
「type93に乗れ!まずはここを突破する!」
「わかったわ!」
アイはtype93の操縦席に入る。
「コンバットシステム起動」
モニターに、
type93 Anti-"G"-Special-Strike-Tank
という文字が映し出された。
続いて、
Combat System "Hyper X" Loading…
というロード画面を挟み、コンバットシステムが起動する。
コンバットシステムは、type93の兵装をコントロールするシステムだ。
ただし、これは現在の仕様に合わせてインストールし直した九十九オリジナルのシステムである。
HyperXのサブモジュールであるFCSが起動し、敵対勢力を危険度に応じて色付けする。
と言っても視界を埋めたくさんばかりのZ変異体のおかげで、モニターは不気味な青色に染まっている。
「やれ」
「了解」
R.F.C(Remote.Fire.Control)により、重機関銃が稼働する。
モニター上にレティクルが表示され、ターゲットをロックオンしたことが、赤い発光で示された。
「Fire!」
12.7x99mm弾が毎分2000発の怒涛の奔流となって放たれた。
12.7x99mm弾は終末戦争以前から広く流通していた弾丸だ。
戦争を経て様々な弾丸が考案、開発され、この弾丸以上に強力なものは多数存在する。
しかし高度なテクノロジーを利用する武器・弾薬はそれだけ維持管理に技術やコストが必要だ。
また、戦争によって製造方法やメンテナンス技法などの技術的蓄積が失われ、ロストテクノロジーと化しているものも多い。
そのため安定性や信頼性という側面から、過去…20世紀から21世紀初頭あたりまでの兵器には一定の需要が存在し、今でも現役として活躍するものも多い。
オールド・テクノロジーの弾丸が、変異体の群れを切り裂いた。
動く屍達を、あっという間に紫色の肉塊に変えていく。
広場中に、足の踏み場の無いほど死体が散乱した。
「掃討完了。楽勝ね」
アイは拍子抜けした様に言った。
数は多いが、1体1体の戦闘力はたかが知れている。
これならtype93の機銃斉射で十二分に対処できそうだ。
「油断するな。第一形態は雑魚だって言っただろ。問題は第二形態から…」
『新たな敵性反応を検知』
レグルスの言葉を裏付けるように、コンバットシステムがアラートを出す。
街の奥へと続く通路から、また無数の変異体が押し寄せてくる。
そして今度はその群れの中に、緑色でマークされる個体…危険度が高い変異体が混じっている。
「こいつらが第二形態…」
マークされた第二形態がマシンOSのデータベースと照合され、サブディスプレイに情報が表示された。
Z変異体第二形態β型。
侵食が進んで素体を完全に支配下に置いたナノマシンが、宿主を造り変えたのが第二形態だ。
そしてβ型は、戦闘に特化して改造された変異体。
重機関銃の斉射が始まる。
第一形態変異体がボロ雑巾のように蹴散らされる中で、β型は予想外の動きをした。
ある者は大きく飛び跳ね、ある者は強固な表皮で弾丸を防ぐ。
軽装甲車なら軽く貫通し、900m/sの初速を誇る12.7x99mm弾を掻い潜り、type93に迫る。
「高機動タイプにはアベンジャーを使え!正面の火力を落とすと押し切られるぞ!」
「言われなくても…!」
アイはコンバットシステムのコンソールを操作して、車輌後部に設置されているミサイル防空システムを起動した。
サブディスプレイに、ロックオンサイトが表示される。
空を飛ぶように跳ね回る高機動タイプを自動的に追跡し、サイト内に捉える。
「これでもくらえ!」
叩きつけるように発射ボタンを押す。
type93に装備されたミサイルサイトが稼動し、ターレットが4連装発射装置の方向を調整する。
発射装置が仰角に向き、ミサイルのブースターから白い煙が噴出した。
対空ミサイルが射出され、空中を舞う高機動タイプに迫る。
敵の動きに合わせて、ミサイルの軌道が微調整される。
爆発。
「…っ!?2匹逃した!」
煙の中から、ミサイルの直撃を免れた変異体が飛び出してくる。
「俺がやる!アレを寄越せ!」
「頼んだわよ…!」
アイは素早くコンソールを操作し、type93で牽引していたコンテナを切り離した。
すぐさま、コンテナが変形を始める。
レグルスはM500を連射して敵を牽制する。
当たりこそしなかったが、銃弾は高機動タイプを怯ませることはできた。
その僅かな隙に、コンテナの展開が完了する。
携帯用電磁加速砲。
コンテナには大型蓄電池及び砲身、各種機構が格納されており、あらゆる場所で展開、即席の狙撃砲となる兵器だ。
レグルスは右腕のエンチャントメントを、モバイル・レールガンのドッキングユニットに挿し込む。
レグルスの視覚と照準機構がリンクされる。
視界にレティクルがオーバーレイ表示され、視線と砲身の動きが同期する。
高機動タイプは異様に長い腕を周囲の壁に引っ掛け、空中で軌道を変えながら移動している。
レグルスが目を挟めると、ステラの予測軌道が3本、赤く表示された。
その内の1つを瞬時に選択する。
理由は無い。
直感だ。
レグルスの神経パルスにレールガンが連動し、仰角及び方位角が調整される。
今敵がいる位置よりも、ほんの少し先。
ステラが変異体の移動速度と弾体の速度を計算に入れ、レグルスが経験則に基づいて最後の微調整を加えた。
(当たる…!)
その瞬間、レールガンが発射された。
ローレンツ力により極限まで加速された射出体が、音速を遥かに超える速度で空を切り裂いた。
瞬きすらする間も無く、腹に大穴を開けられた変異体が、力無く落下した。
モバイル・レールガンの砲身から、大量の水蒸気が噴き上がっている。
プラズマによる発熱を急速冷却。
次弾が装填され始めるが、既にもう一体の高機動タイプが目前に迫っていた。
(間に合わん…!)
瞬時に判断し、レグルスは右腕をレールガンから引き抜いた。
横に転がるとほぼ同時に、高機動タイプの長い腕が振り下ろされる。
間一髪攻撃を回避し、レグルスは敵を睨み付けた。
高機動タイプは見た目からして第一形態と大きく異なる。
上半身は全体が変質し、黒い鱗のようなもので覆われている。
腕は異様に長く、鞭のようなその先端にはナイフのような鉤爪が付いていた。
また、下半身は膝が逆関節になっており、大腿部の筋肉が異様に発達している。
その脚力は尋常ではなく、地面を蹴る度に数mの距離を軽々と跳躍する。
アイとtype93は既に広場からプラッツァ通りへと進撃しており、その先には重装タイプの変異体が待ち構える。
ここで高機動タイプを逃せば、アイは背面を突かれ窮地に陥るだろう。
レグルスはM500を抜き、敵を迎え撃つべく移動を開始した。
読んで頂き、どうもありがとうございます!
type93のマシンOS、"ハイパーX"の元ネタは、勿論イーロンマスクさん…ではなく、これまた平成ゴジラシリーズに登場する対ゴジラ兵器"スーパーX"です。
元ネタといっても、名前だけお借りして少し変えただけですけど…
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