表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の"ジャック"・ランサー  作者: 小説を書きたい猿
14/15

嘘つき #Z変異体

/*ーーーーーーーーーーーーーーーーー

超深度地下構造体(ダンジョン)上層

レベル5 重汚染区域(ブラック・ゾーン)

"ドゥブロブニク旧市街"保存区域

隔離防壁門(シャッター・ゲート)

ーーーーーーーーーーーーーーーーー*/

目の前に、見上げるほどの巨門が立ちはだかっている。

それはブラック・ゾーンを隔てる防壁であり、生と死の領域を分つ冥界の門でもある。


アイはごくりと生唾を飲み込んだ。

ブラック・ゾーン…知識としては知っていたが、実際に来るのは勿論初めてだ。

というより、ここを訪れた事のある者はほぼ存在しないだろう。

中に入れば、まず間違いなく死ぬからだ。


知らず、ワルサーPPK-HEに手が伸びていた。

グリップに触れ、その確かな存在感に僅かながら安堵する。

無力では無い…

その感覚が、アイを勇気づける。


「これからゲートを開ける。教えた事を覚えてるな。」

レグルスの問いに、微かに揺れる声で答える。

「アンチ・ウィルス・セキュリティをレベル3以上に設定。奴らの弱点は腫瘍体(ネオ・プラズム)。それ以外の場所は撃つだけ無駄。」

「そうだ。後は…」

「後は、なに?」

「死ぬなよ」


レグルスはゲート右側のコンソールに有線接続した。

ステラがハッキングを行う。

不気味な鳴動と共に、巨大なゲートが稼働した。

「さて…地獄に行くとするか」


/*ーーーーーーーーーーーーーーーーー

超深度地下構造体(ダンジョン)上層

レベル5 重汚染区域(ブラック・ゾーン)

"ドゥブロブニク旧市街"保存区域

ーーーーーーーーーーーーーーーーー*/

暗がりに浮かび上がる、石造りの城壁。

ドゥブロブニク旧市街は、全長約2000mの城壁で囲われている。

ゲートの中にさらに城壁が存在するのはいささか珍妙であるが、レグルスはそんな事には目もくれず、視線を左右に走らせていた。

「何もいない…か。」


意外にも、城壁の外側は静寂に包まれている。

レグルスは慎重に、市街地への入り口であるピレ門へと続く回廊を進む。

よく見ると、そこかしこに紫色の液体が飛び散っている。

また弾痕や、薬莢、赤い液体…血痕なども見てとれた。

「戦闘の後…でも…」

死体は…?


アイはそう言おうとしたのだろう。

しかし言葉が発せられる前に、レグルスが手で制した。

ピレ門の手前、暗がりにになっている部分を指差す。

「なに…あれ…」

そこには、何かが蠢いていた。


アイは息を吸うのも我慢して、少しずつ近付く。

まず見えてきたのは、人の脚。

奇妙に折れ曲がり、血に濡れている。

続いて腰、腹と進むのだが、腹の上には別の物体…

男…だろうか。

横たわる人体の上に、別の男が覆い被さっている。


上側の男は、顔を下の体の腹に埋めている。

ぐちゃっぐちゃっと、乾燥肉を咀嚼するような音が聞こえる。

その時、アイの足元で微かな音がした。

落ちていた空薬莢を踏んでしまったのだ。


その音に反応して、男がこちらを向いた。

ライトに照らされ、その顔が顕になると、アイは小さな悲鳴を飲み込んだ。

半分が腐り落ち、残り半分は紫色の血管が蜘蛛の巣のように走る、異様な顔。

口元はくちゃくちゃと動いており、赤い汁が滴っている。

男はアイを認めると、呻き声を発した。

口元から、肉片がこぼれ落ちる。


「落ち着け。こいつは第一段階の変異体。動きは鈍いし、戦闘力は大したことない。」

レグルスの声で、アイは自分が息を止めて固まっていた事に気付く。

変異体…Zウィルスに感染し、変異した()人間。

それはゆっくりと立ち上がると、ふらつく足取りでアイの方に向かって来た。

反射的に、アイは後退る。


「下がるな。」

レグルスの声で、アイは足を止める。

「コイツは雑魚だ。お前ならやれる。」

冷静な声に励まされ、アイは冷静さを取り戻した。

「抜け。」

レグルスの声と同時に、アイはワルサーを抜いた。


瞬時に指紋認証が走り、マイクロディスプレイが起動。

Z変異体の急所…ナノマシンを供給しているネオ・プラズムをマークした。

頭ではなく、左脚の大腿部。

「腫瘍がある場所は個体によって様々だ。問題ない。」

とレグルス。


アイはワルサーを構える。

微かな振動。

照準補正(エイム・アシスト)によって自動的に狙いが補正された。

トリガーを引く。

9mm珠が放たれ、ネオ・プラズムを貫いた。

Z変異体が硬直する。


破裂した腫瘍から不気味な紫色の液体が大量に噴出した。

液体のように見えるそれは、実はZウィルスに汚染されたナノマシンの集合体である。

変異体を維持・運用しているのはそのナノマシンであり、実質的にはナノマシンこそがZ変異体の本体なのだ。


ネオ・プラズムは変異体の全身にナノマシンを供給する心臓のような役割に加えて、ナノマシンの修繕、エネルギー補給を担う中心機関であり、それを失ったナノマシン達はやがて機能を停止する。

またナノマシンの循環が失われた変異体は、肉体を稼働させる事ができなくなり、活動を停止する。


Z変異体はふらつきながら近寄って来ようとしたが、その脚はすぐに力を失い、崩れるように倒れた。

アイは念の為ワルサーで狙いを付ける。

変異体は暫くもがいていたが、徐々に動きが小さくなっていき、やがて止まった。


「良くやった。」

レグルスは、未だ銃を構えているアイの肩を、優しく叩いた。

「もう大丈夫だ。少し休んでろ。」

アイはやや青ざめた顔をこくりと上下させると、後方に控えるtype93にもたれかかった。


レグルスは残された人体…変異体に食われていた方の死体に歩み寄った。

死体の性別は男。

四肢はエンチャントメントに換装されており、その手にはサブマシンガンが握られていた。

マガジンを抜き取ってみると、回廊に落ちている空薬莢と同じ弾丸が込められていた。

生体部分はまだ腐敗しておらず、ナノマシンによる侵食もほぼ見られない。


「なるほど…それなりの戦力は揃えてきたって事か」

恐らく、ここに変異体が少なかったのは、グレイ・マクレガーの一団と交戦して撃破されたからだろう。

レグルス達にとっては好都合だ。


とはいえ油断は禁物。

レグルスは気を引き締めて、ピレ門に向かう。

門扉は破壊されており、壁内への入り口が大きく口を開けていた。

これならtype93も問題なく通れるだろう。

レグルスが振り返ってアイに合図を出そうとした、その時…


「銃声…だと?」

レグルスの聴覚モジュールが、城壁内から響く微かな発砲音を捉えた。

それはつまり、まだ生きている人間がいるという事だ。


「ちっ…!行くしかないか…!」

レグルスは意を決して、城壁内へ飛び込んだ。

読んで頂き、どうもありがとうございます!


Z変異体。

これは勿論、カプコンさんの"バイオハザード"や"ワールド・ウォー・Z"などに出てくる、ゾンビさんです。

それをこの世界観に当てはめた結果、あのような形での登場となりました。

また、ウィルスに汚染された隔離エリアというのは、UBIソフトさんの"THE DIVISION"シリーズに登場する、"ダークゾーン"のオマージュでもあります。

好きなんですよね、ディビジョン。


感想、コメント等頂ければとても励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ