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終末世界の"ジャック"・ランサー  作者: 小説を書きたい猿
13/15

嘘吐き #出撃準備

/*ーーーーーーーーーーーーーーーーー

超深度地下構造体(ダンジョン)上層 レベル5

ーーーーーーーーーーーーーーーーー*/

「どうするのレグルス…殺すの?」

「……」

レグルスはしばし思案する。


「依頼の条件は…」

ズドンッ

薄暗いダンジョン内に、銃声が響いた…


/*ーーーーーーーーーーーーーーーーー

欲望の街(バビロン・シティ) 下層

 レグルスの自宅兼事務所 @数日前

ーーーーーーーーーーーーーーーーー*/

重汚染区域(ブラック・ゾーン)だと…?」

レグルスは依頼人を前にして低く唸る。

「はい。具体的にはダンジョン上層 レベル5。"ドゥブロブニク旧市街"保存区域。そこで、弊社CEOグレイ・マクレガーが消息を断ちました。」


ダンジョンに保存されているのは、何も物だけではない。

建物や、()()()()()が保存されていることすらある。

ドゥブロブニク旧市街は、旧世界で世界遺産とされていた歴史ある街だ。

ダンジョンの上層には、壁に囲まれた旧市街が()()()保存されている。

街を再現したものなのか、それとも何らかの方法で本当に街ごと移したのか、今となっては誰にもわからない。


ただ、ドゥブロブニク旧市街が終末世界において特別視されているのは、その歴史的価値から…ではない。

「Zウイルスが蔓延した超危険地帯。なんでそんなところにCEOが出向くわけ?」

レグルスと同じ疑問を、アイも感じていたようだ。

舌鋒鋭く疑念をぶつける。


「ドゥブロブニク旧市街に、未確認の超級遺産(レガシー)が存在するという情報を得たのです。」

レガシーとは、ダンジョンに保管されている遺産(アーティファクト)の中でも、特に歴史的価値…いや、()()()価値が特に高いものを指す。


「当社の状況はご存知のはず。苦境を打開するためにはAIスコアの飛躍が必要でした。」

マクレガーグループは中堅どころの兵器製造企業だ。

古くは終末戦争時代から、先進的な兵器設計により名を馳せてきた。

既存の概念に囚われない、斬新な発想とデザインが売りであった同社だが、近年は振るわない。

年々売上は下がり続け、今や他社に買収される寸前である。


故に製造AIのスコアを高め競争力を強化すべく、レガシー確保に動いた、ということらしいが…


「そんな眉唾物の情報に、わざわざトップが出向くわけ?」

「はい。グレイはそういう人物ですので。」

今回の依頼を持ってきたマクレガー社取締役を名乗る女は、訝しむアイの声などどこ吹く風といった様子だ。

(また企業の謀略絡みか…)

レグルスは散々な目にあった過去の依頼を思い出して、内心げんなりしていた。

しかしこういった"怪しい"依頼はそれだけ金になる。


ジェルマングループから取りっぱぐれた2000万$$(エクスドル)のことを、レグルスは考える。

治療費に換装式強化義身(エンチャントメント)の修理代、弾薬代等、出費ばかり嵩んでしまった。

損失を取り戻す為には、腹を括らないといけないだろう。


「わかった。その無謀なCEOを連れて帰れば良いんだな?」

「いえ。グレイはもう死んでいるでしょう。必要なのは、彼の持つレジストリです。」

アイの可憐な顔が、さらに険しくなる。

レグルスは何か言いたげなアイを目線で制して、続きを促した。


「レジストリ?」

レジストリとは、旧世界では登記謄本などと呼ばれていたものに近しい。

行政機関が存在しない現在では、その企業が"誰のもの"なのか、それを管理、承認しているのがレジストリである。


「グレイは誰も信用しない人物でした。故に彼は、レジストリを常に持ち歩いていた。」

「そしてそのまま行方知れずになった?」

「そのまま、死にました。」

女はわざわざ訂正して、言い直した。

「レジストリに記された所有者が死んだ場合、キー情報を書き直して新たな所有者に会社を譲渡する必要があります。」

「…わかった。要はそいつの死体からディスクを引っこ抜いて来ればいいんだな。」

「その通りです。では、契約を…」


やや前のめりになった女を、レグルスは遮った。

「待て。報酬が少な過ぎる。5000だ。」

「…。3000万$$では不満が?十分な金額だと…」

「お前はブラック・ゾーンがどんなところか、まるでわかってないようだな。今までどれだけのハンターがあそこで死んだことか。」

「しかし…」

「嫌なら他を当たれ。尤も、こんな怪しくて危険な依頼、誰も受けない。違うか?」

「……」


女はしばし沈黙した。

レグルスはそれを黙して待つ。

「わかりました。5000万$$、お支払いしましょう。」


契約を済ませた女が事務所を出て行った後、アイが咎めるように口を開いた。

「ちょっと、大丈夫なの?」

「何がだ?」

「何って…わかってるでしょ?あからさまに怪しい仕事じゃない」


レグルスは苦笑する。

ワルサーを贈ってから、アイはクライアントやブローカーとの打ち合わせにも立ち会うようになった。

すっかり相棒といった振る舞いだ。

当初の冷徹な様子よりは余程良いが、お陰で毎度彼女の小言を聞かされる羽目になった。


「仕方ないだろ。金がいるんだ。多少の無理は承知の上だ。」

「それはそうだけど…」

アイは唇を尖らせている。

ジェルマンのペット探しの一件で、すっかり企業アレルギーになっている感がある。

尤も、レグルスとてそれは同じである。

「心配はわかる。だから今回は、下準備を念入りにする。」


そう言ってレグルスは立ち上がった。

「行くぞ」

「行くって…どこへ?」

火薬の街(バルカン・シティ)だ。」


*ーーーーーーーーーーーーーーーーー

欲望の街(バビロン・シティ) 下層

 火薬の街(バルカン・シティ)

 ガン・ショップ

ーーーーーーーーーーーーーーーーー*/

「いらっしゃいませぇぇぇいっ!!!!」

ドアを開けた途端、レグルス達は異様なハイテンションで出迎えられた。

「九十九…だったな。悪いな急に。」

「いえいえいえいえいえ!ご指名いただき恐悦至極でござい!!!」

九十九は手を揉み揉みしながら、ずずずっとにじり寄ってくる。


(指名したのは俺じゃなくてガンのおやっさんだけどな)

レグルスは内心呟きつつ、さらに迫ってくる九十九をさりげなく手で押し留めた。

「相変わらずエキセントリックな人ね…」

アイはレグルスの後ろに隠れて様子を窺っている。


「それで、頼んでたものはあるのか?」

「もちもちもちもちもちろん!!!ささ!こちらへどうぞ!!」

レグルス達は九十九に連れられ、ガン・ショップの奥側にあるエレベーターから、地下へと向かった。

「広い…」

アイが目を丸くしている。


そこは様々な武器や兵器が並ぶ、ドーム上の巨大空間になっていた。

「こちらへどーぞ!!!」

居酒屋の店員のように声を張り上げて、九十九が張り切って案内してくれる。


()()は仕上がったか?」

道すがら、レグルスは九十九に尋ねる。

「あいやー、すいません…あの子は損傷が激しくて、リメイクする事になったんですよ〜だからもうちょい時間掛かります!!」

「わかった。じゃあとりあえずタンクだな。」

「はい!!こちらです!!!」


ジャジャーン!と効果音が付きそうな動作で、九十九が指し示す先には、独特の形状をしたタンクが鎮座していた。

「type93…また珍しいもんを仕入れたな…」

それは2門の主砲を備えた、8輪駆動自走式装輪戦車であった。

「メーサーは…流石に無理だったか」

「そ〜なんですよねぇ〜完全に壊れちゃってまして…仕方ないので実弾兵器に取り替えましたぁ…」

九十九はとても残念そうだ。


type93はアジアの島国で設計開発された対真核生物兵器(E.B.W)特殊戦車である。

"G"と呼称された巨大E.B.Wが猛威を振るった某国では、Gを抹殺すべく様々な兵器が投入された。

type93はその中でも中核となった戦車で、1対の荷電粒子砲(メーサー)がその最大の火力となる。

大気中で荷電粒子を飛ばす際には莫大なエネルギーが必要であるため、本来のtype93は有線接続で外部電力に接続して運用されていたらしい。

現在においてはというと、それに適合できる発電施設は既に存在せず、また有線接続という汎用性を捨て去った運用は用途が限られすぎる為、発掘されたtype93からはまず最初にメーサーが取り外す、という本末転倒な不問律がある。

わざわざそんな手間を掛ける物好きは少ないため、あまり日の目を見ない戦車である。


目の前のtype93にはメーサーの代わりに主砲、ミサイルポッド、機銃の3つをセットにしたT.W.S(Tank.Weapon.System)が2セット、搭載されている。

「R.F.C(Remote.Fire.Control)か?」

「勿論ですよお客様ぁ〜!!」

九十九が広げて上を向けた左手の上で、握った右手をすりすりと擦り合わせている。

「この子は元々対巨大生物用の戦車なんで、防御力と生物汚染対策はピカイチ!レグルスさんのご要望に一番マッチしてると思いますよ〜!!!」

「なるほどな。」

確かにそれは、これから向かう場所には最も必要な能力だろう。

「わかった。これにしよう。あとは前に発注しておいた…」


「はいぃ!!出来ておりますよぉー!!!ささ、こちらへこちらへ!!」

九十九は待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべてアイの手を取ると、引き摺るようにどこかへ去って行った。

「……」

若干不安を感じつつ、待つ事5分。


「ちょ、ちょっと…!待ってよ…!こんな格好…!?」

「いーからいーから!!似合ってますよぉ〜!!」

また引き摺られるように戻ってきたアイは、先程と大きく格好が変わっていた。


全身にピッタリとフィットした、白く光沢のある人工皮膜(スキン)外装式強化装甲(スーツ)

生身であるアイを補助する為に、レグルスが発注していた特注品である。

白いスキン部分は極薄の人工筋肉であり、着用者の動きに合わせて伸縮、身体能力を大幅に強化する。

擦れば破けてしまいそうな見た目に反して、その強度はかなりのものであり、生半可な刃物では切り裂けないほどだ。

肩、肘、膝などの関節部分はアーマーで保護されており、内蔵されたアクチュエーターにより関節駆動を加速させ、驚異的な瞬発力を引き出す事も可能。

これで攻守ともにアイの能力を強化できる…のだが。


レグルスは少し困った様子で頭を掻いた。

「ちょっと…これ…透けすぎじゃない…?」

アイは恥ずかしげに腕で身体を隠している。

スキンはあまりにもフィットしており、引き締まった身体のラインが激しく強調されている。

さらに何故かその生地はうっすらと透けており、その下に隠されるべき艶やかな肌を、逆に際立たせてしまっている。


「……九十九。」

レグルスは猛禽のような眼で九十九を睨んだ。

当の本人は、アイの恥じらう様子を見て涎を垂らさんばかりに喜んでいる。

(まあ、性能は問題ないようだし、上に何か着せれば良いか…)

レグルスはそう自分を納得させる事にした。

アイの方を見やると、若干涙目になって助けを求めている。

「はぁ……もう良いから着替えて来い。」

そう言うと、アイは脱兎の如く駆けて行った。


その後姿を見送って、レグルスは独りごちた。

「兎にも角にも、一応準備は整ったな。」

読んで頂き、どうもありがとうございます!


この話は設定がてんこ盛りで、めちゃくちゃ時間が掛かりました…


type93は、私の大好きな平成ゴジラシリーズに登場した93式自走高射メーサー砲のオマージュです。

メーサー砲がこの作品で実現できるのか、色々調べたのですが、やはり難しいだろうと考えたので、昔はメーサーというのが付いてたぞ、という形にしました。


また、アイが着る事になったスキン・スーツは、だいたい想像がつくと思いますが、プラグスーツから着想を得ています。


次話でようやくダンジョンに行ける…

頑張って書きます…!


感想、コメント等頂ければとても励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

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