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最後の恋

作者: takako
掲載日:2022/10/16

何故知りあったかも忘れた彼にランチと言うか、昼食を当日に誘われた私は特にお洒落する訳でもなく、出掛けた。

徒歩で待ち合わせ場所に行くと、何と彼は同年代の友人らしき人と一緒にいた。

友人ですと紹介された私は怒って帰っても良かったが、穏便に昼食だけ食べて帰って二度と連絡しなければいいかと気持ちを切り替えた。

しかし道中彼は友人と話し込み私をチラッとも見もしない。また彼等が歩く速度に着いていけず、少し距離が空いてしまった。

流石にカチンときて、何も言わず道すがらにあった定食屋に入った。

入ったは良いが怒りが脳内の空腹感を司る器官を麻痺さすのか、さっきまであった空腹は嘘のように何も食べる気が起きなかった。

水を一杯飲んだのみで、店員さんに、すみません、急用が出来たのでかえります。と告げ、そそくさと店を出て自宅へと帰った。

1週間ほどして仕事帰りに本屋に立ち寄り、物色しつつも、あまり興味をそそる小説や専門書も無く、入口付近にある雑誌を見るともなくパラパラとめくっていた。

その時、少し大柄な男が話しかけて来た。

一瞬恐怖で固まってしまったが、1週間前に昼食に誘われた彼だと認識すると、少し安堵した後、怒りが再度込み上げてきた。

1週間前の出来事と、何故本屋で話しかけるような無粋な振る舞いをするのかと思ったが、昼食に友人を連れて来る程の人なら元々デリカシーを求めるのも無理があると気持ちを切り替えた。

本屋を出て隣の携帯ショップとの間で、彼は、この間はごめんなさい、夕食が済んでいないのであれば、今から一瞬に行きませんか、と話した。

けんもほろろに断ってやろうかと思ったが、泣きそうでもあり、恥ずかしそうでもあり、感情のない混ぜになった彼の

表情を見ると可哀想になった。

また私も35歳を一月程超え、結婚を一度失敗した身であり、自身の商品価値を考えるとバカらしくなり、良いですよと少し不機嫌そうな表情を取り繕い答えた。

彼は私に何が食べたいかも聞かず、近くのチェーン店の鉄板焼屋の前まで行き、ここで良いですか、と訪ねた。

2人で階段を上がり窓際のテーブルに座り、彼は生ビール、私はレモンサワーを注文した。飲み物がすぐに届くと食べ物の注文は後にしますと彼は店員に告げた。

そして彼は、改めてこの間はすみませんでした、乾杯とグラスがなる音で手打ちとして、無かった事にして頂けますか、と言うような事を彼は話した。

ニュアンスで全体的には理解出来たが、手打ちと言う言葉がふさわしいかわからず、友達とLINEをしているフリをして食事中に調べたので、その言葉のみが頭に残った。

朴訥な彼の印象はアルコールが進むごとに少しずつ滑らかになり、また語彙力が豊富なのか、私には理解出来ない日本語を織り交ぜながら、話の全体としては面白く、予想を大きく超えて楽しかった。

その帰り、私からホテルに誘った。

川を渡った先のラブホテル街の中でも特に古くてチープなラブホテルで私にはお誂向けかなと思った。

しかし彼は挿入してもイケず、すみませんと本日3回目の謝罪をした。

私は可哀想になり、大丈夫と答え、明日の仕事時間を聞き、私のiPhoneにアラームをセットした後、寝るよう促した。

すると彼はモノの数秒で私とは反対を向き片手を頭の下に敷きイビキをかきはじめた。

腹が立つでもなく、可愛らしいと彼に感じたのは少し自分でも驚いたが、直ぐに私にも睡魔が襲い寝ることにした。

夢ウツツに名前を呼ばれ、すみません、今からお願い出来ませんか、と半ば強引に胸を揉み絆され舐められ、濡れていないのに挿入されたので少し痛かったが表情を取り繕い彼の顔を眺めていた。

少しすると彼は果ててしまい、ゴムをしているのか確認するのを忘れたと慌てたが、しっかりしていたので安堵した。

後日彼はあの時の無表情は怖かった、歴代の彼女は感じて、声を出し、表情があったのにと話したが、それは感じているフリをしているだけで、私も普段ならするが夜中に起こされ半ば強引にされたら皆あの表情になると少し腹が立った。

ともあれ総合的に楽しく過ごせたので、その後、数回同様の行動を繰り返し、はっきり付き合っていると言葉には出さなかったが、彼の部屋には出入りするようになっていた。

夜LINEが入り、コロナとインフルエンザ同時にかかり、暫く自宅待機する為、来ないようにと連絡があった。

食べ物や飲み物も市から段ボールで届くので不要と書いてあった。

少し女の影を疑ったが、コロナとインフルエンザを同時に感染した人を初めて見たと完全防備の医療スタッフに伝えられ、捉えられた宇宙人の気持ちになったと詳しいディテールの長文を見て安堵し、また彼らしいと微笑ましい気持ちになった。

それから数日仕事も忙しく彼の事はひどく心配したが、私からLINEすると、気を使って返信してくるのではないかと思い、私からはLINEを入れなかった。

気付けば3日経ってもLINEが入っておらず、急に不安になり、仕事中18時10分に彼にLINEしたが、20時の帰宅時も、日付を越しても既読にならず、段々と不安から、何故返信しないのかと怒りが込み上げてきた。また不安になり、怒りが込み上げるを繰り返した為、明日彼の自宅を訪ねようと決心した。

翌日少し仕事を早く切り上げ、スーパーで急いでレトルトのお粥やスポーツドリンク、直ぐに食べれる果物やゼリーをカゴに入れ、レジをすまし、彼の部屋に急いだ。

何度チャイムを鳴らしてもノックしても応答が無いのに不安が募り、なりふり構わず、何度もLINE電話を入れたが部屋の中で鳴っている様子も無くシンとしていたので、諦めて帰ることにした。

ふと思い直すと、一階の玄関横に入居者募集の看板があり思い切って電話してみたが、女性の機械的な音声で営業の終了を告げられたのみだった。

何故最初出会った時に彼の友人の名前やLINEを聞いておかなかったか、と一瞬頭をよぎったが、それは無理な状況だったと思い直し、また、それ程気が動転しているのだとも思った。

いても経ってもおられず友人に電話して相談したが、大丈夫を繰り返し、あなたは何時でも結論を急いで出す癖があると何の根拠もない励ましと私の分析に2時間近く費やし電話を切った時には時間潰しにはなったと思うと同時にひどく自己中心的な性格だと思ったが、非常事態なので仕方がないと思い直した。

改めて少し冷静になり情報を整理すると私は合鍵を持たせてもらってはおらず、彼の会社も社名も知らず、商社だが凄く小さな会社で営業で仕事自体は余り面白くはなく、親の存在は分からず、当初会った友人の顔も忘れたという絶望感が増しただけだった。

気を取り直して彼のマンションの看板にあった連絡先のみが手掛かりで営業時間、早々に連絡することにした。

眠ったのか眠らなかったのかもイマイチ分からずに仕事に出かけ、トイレに行く風を装い、非常階段で電話をして、しどろもどろになりつつ状況を説明したが、家賃が振り込まれている以上、勝手に部屋に入る事は法律違反になると立板に水な反応だったが、電話に出た中年の営業も少し不安になったのか、本人と緊急連絡先には一度電話を入れてみますと電話を切られた。

営業の名前を聞く時間すら与えられず電話を切られた事に腹立ちもあったが、今日が木曜で前日が定休日だったらしく、仕事が立て込んでいる為、仕方がないことかとも思った。

昼休憩に昼飯も食べず、不動産屋に連絡を入れると運良く先程電話を取った営業だった。

緊急連絡先のみに電話が通じて貴方の連絡先を教えて貰うよう言われた。と伝えられ、またそれ以上の事はわかっていない為、答えられないとの事だった。

名前と電話番号を伝え電話を切ると2時間程後に知らない番号から着信が入っていた。

仕事中で出られなかった為、仕事を17時半には切り上げ恐る恐る折り返すと〇〇の父です。と重々しく話され、

私の下の名前を確認され彼との関係性を聞かれた。

彼女と言ってよいか、迷ったが、それ以上に的確な言葉が無く、そう伝えると、4日前の2月11日の夜に、あまりの息苦しさに自ら救急要請をし人工呼吸器を装着したが肺炎が急速に悪化し2月13日未明に亡くなり、コロナの関係もあり、既に荼毘に付したとの事だった。

小児喘息を子供の頃に患っており、アレルギー体質もありワクチンを打ってなかった事も重症化した因子ではないかと医師に告げられと話した。

彼の父も息子に似て朴訥な語り口だったが、事実のみを淡々と伝えられ、それが返ってリアルな現実として肌感覚として彼の死が伝わったような気がした。

目の前が真っ暗になり、足元も暗くなり大きな穴が開き、落ち込んで行く錯覚を起こし、今にも気を失いそうになり、ようやくタクシーを捕まえ、自宅の住所を告げ、帰ってベットに横たわった。

余りのショックに食べること、風呂に入ることすら出来ず、

一晩横になり、翌日は会社に熱が出たと嘘を告げ、病院にもかかりたいが、自身の体調を考慮すると行けないと話すと、上司は必要以上に心配し、何度も親に連絡とるよう促され、暫く会社には来なくてよいとの返事を貰った。

その日も彼に買ってあったスポーツドリンクを飲んだのみで固形物は摂れず、ずっとベットに横たわっていた。

3日目に漸く空腹を覚え、どうしても自ら何かを作る気がせず、外に出る為、鏡を見ると食べなかった影響か、やつれてもいたが、それ以上に明らかに中年になりつつある自分の顔が彼の死で更に老け込んだように見えた。

どうやら、これが人生で最後の恋愛になると思った瞬間だった。


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