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 それから、私と呪いのラジオの生活が始まった。

 毎日毎日、21時になるとラジカセは「会いたい」と鳴く。

 そして、21時15分にピタリと止む。

 今、私は21時が怖くて仕方ない。

 返品したいと出品者にメッセージを送ってみたけど、ぜんぜん返事が返ってこない。

 事務局に相談しようかと思ったけど、返品理由「呪われていたから」では、ただふざけていると思われるだけだろう。

「……菜」

 どうしたらいいんだろう。

「夏菜」

 どうしたら……。

「夏菜!」

「はい!」

 ビクリとしながら返事をすると目の前におばあちゃんの顔があった。

「あんた、何、ぼーっとしてるんだい」

 素麺片手におばあちゃんがジッとこちらを見ている。

 あ、しまった。今はお昼ごはんの時間だったんだ。

「ご、ごめん、ちょっと考え事してて。手伝うね」

 慌ててリビングのソファーから立ち上がる。

 共働きの我が家では夏休み中はいつも一緒に暮らすおばあちゃんがお昼ご飯を用意してくれる。

 素麺つゆをガラスの容器に注ぐ。私とおばあちゃん。それぞれの前に置く。

 机の真ん中には素麺と薬味が置かれていた。

「夏菜、何か最近、様子がおかしくないかい。悩みごとでもあるのかい」

「いやだな、おばあちゃん、悩みごとなんてないよ。わ~、お素麺、おいしそう! いただきま~す!」

 ごまかすように素麺に手を出す。おばあちゃんはまたジッとこちらを見ている。視線が痛い。

「そう言えば、あんた、昔のラジカセを手に入れたんだよね」

「ぶっ」

 素麺を吹く。

 なぜそれを。

 あ、呪いのラジオと分かる前にはしゃいだ私が言ったのか。私のバカ。

「ばあちゃん、掃除してたら昔のカセットテープがたくさん出てきてね。貸してくれないかい」

「だめ!」

「どうして?」

 呪われてるからとはとても言えない。

「あ、あの、ちょっと壊れてて。たぶん、聞けないと思うんだよね」

「壊れてる?」

「うん、そう! あ、ごめん、今日もう食欲ないや、ごちそうさま!」

 慌てて逃げ出す。

 おばあちゃんは黙ってこちらを見ていた。


 返品も出来ない。捨てることも怖くて出来ない。そうなったらこうするしかないよね。

 部屋に帰った私は今までにないほど暗い顔で、出品する商品の説明を書いた。自分がだまされたのと同じ文章。値段は1500円。

 商品の閲覧数はどんどん増えていった。いいねと押してくれる人も多い。

 コメントが一つ入った。

『おばあちゃんが昔に使っていたのと同じもので、ずっと探していました。購入しても良いですか?』

 一つ唾を飲む。

 購入、してくれる?

 コメント欄にメッセージを書き込む。

『コメントありがとうございます。ぜひ、お願いします。』

 送信ボタンの上に指を持っていく。

 これで私は楽になれる。

 名前も顔も知らない人だ、別にいいよね。

 ぜひ、ぜひ、ぜひ、

 私は送信ボタンを──押した。

『申し訳ありません。確認したところ、壊れているところが見つかったので出品を取り消します』

 メッセージを変えて。

 うなだれる。

 売れなかった。

 名前も顔も知らないおばあちゃんが悲しんでいるところを想像したら売れなかった。

 もう、どうしたらいいのか分かんないや。

 私は一生、この呪いのラジオと暮らしていくしかないんだ。

 じんわりと涙がにじんでくる。

 その時、コンコンとノックする音が聞こえた。

 ゆったりと立ち上がってドアを開ける。

 そこにはおばあちゃんが立っていた。

 おばあちゃんはまっすぐに私の目を見て言った。

「夏菜、話しな」

 最小限の言葉。弱った心にグサリと刺さる。

「おばあちゃん……!」

 私は思いっきりおばあちゃんに抱きついていた。


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