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呪いのラジオって知ってる?
そんな噂がネット上で流れ始めたのはとある夏のこと。
フリマアプリに頻繁に出品される古いラジオ。
その安さに飛びついた落札者は後悔することになる。
21時。
それは鳴り始める。
「会いたい」
少しかすれた男の声で乞うように。
スイッチを切っても電池を抜いてもコンセントを抜いてもそれは鳴り続ける。
会いたい。
会いたい。
会いたい。
何度も何度もそう言って、15分後、ピタリとやむ。
落札者は怖くなり、またそのラジオは出品される。
そして、真実を知らない人がまた買ってしまい――。
呪いのラジオは人から人へと渡っていく。
さあ、次の犠牲者は誰になることやら――。
「わ~、すご~い」
夏休み。自分の部屋。
箱から商品を取り出した私は目をキラキラさせながらそう言った。
若林夏菜。17歳。趣味は昔のものを集めること。
友達には変な趣味って言われるけど、自分がまだこの世界にいない頃に発売されたものって、何だか新鮮で私は好きなんだ。
今、私の手の中にあるのは昔のラジカセ。
ずっと欲しくてフリマアプリで探してたんだけど、高かったり壊れてたりでなかなか良いのがなかった。
でも、昨日、なんと1500円で見つけてしまった。
送料と手数料を引いたらほとんど利益が残らないような値段。
安すぎる気もしたけど、出品者の評価も悪くなかったし、これを逃したらこんなにお得な買い物はもうないような気がして思い切って買ってしまった。
落札したらすぐに出荷完了通知が来た。まるで待ち望んでいたように。そのスピードにびっくりしたけど、はやく届くのは嬉しいことだよね。
届いたラジオをじっと見る。長方形型。1970年代に発売されたものって書いてあったっけ。色は銀色で、古いものだからやっぱり傷や汚れが目立つ。でも、このラジカセが過ごしてきた時間が感じられて、それもまた味になる。
さて、と。
机の上に置いてコンセントにつないでみる。
スイッチを入れてチューニング。
雑音しか聞こえない。
電波が悪いのかな?
えっと、こう言う場合は確か……。
後ろのアンテナを伸ばす。
角度を調整。
ここか? それともここ?
いじっているとある角度でラジオDJの良い声が聞こえ始めた。
ああ、このアナログな感じ、たまらない!
おっと、そうだ、感動している場合じゃない。
私は携帯電話を手に取るとフリマアプリを起動した。
「良い」の評価でコメントを書く。
「無事に届きました。とても素敵な商品で嬉しいです。また、ご縁がありましたら、よろしくお願いします」
受け取り評価完了。
少しして出品者からも返ってきた。
「良い」評価でコメントは──
「ん?」
私は首を傾げた。
コメントに書かれていた言葉は一言。
「ごめんなさい」
どう言う意味だろう。
不思議に思ったけど考えても分からなくて、「まあ、いっか」と私はアプリを終了した。
その夜のことだ。
21時。
ニコニコしながらラジオを聴いていると音声が乱れた。
「……いたい」
ん?
ラジカセを見た。
また電波が悪くなったかな。
アンテナをいじろうとした時、聞こえた。
「会いたい」
少しかすれた男の人の声。
なに、これ……。
声は止まない。
「会いたい」
「会いたい」
「会いたい」
ど、どうしたらいいの?
パニックになりながらとりあえずスイッチを切ってみる。
止まない。
コンセント!
止まない。
「会いたい」
「会いたい」
「会いたい」
何をしても「会いたい」が止まらない。
耳を塞いで蹲る。
もう、やだ、なんなのこれ……。
そのままどれくらいたっただろう。
気付くと声は止まっていた。
私は呆然とラジカセを見つめる。
見つめながら、ふと、この話、聞いたことがあると思った。
携帯電話を手に取り検索する。
キーワード「呪いのラジオ」
表示される結果。
やっぱりそうだ。
少し前から流れ始めた噂。
フリマアプリに頻繁に出品される古いラジオ。
安さに飛びついた落札者。
何をしても鳴り続ける「会いたい」。
全部あてはまる。
どうしよう、私、次の犠牲者になっちゃった……。