一章 7
「でもよかったのか?ハルキ。結衣ちゃん普通に帰らせて」
「ん?まぁ近藤さんも付いてるし大丈夫だろ」
「いや…そういう話をしているわけじゃなくてですね…」
渡辺と小野は、明日も早いからと言って、あの後のカラオケが終わったら二人を帰らせた。
そしてとあるBARに飲み直しにに来たのである。
「だーもう!じれったいから言うが、結衣ちゃんはお前に気があるんだからな?」
「んなことわかってるよ。俺もさすがにそこまで鈍感じゃねーよ」
ウィスキーを一口飲み、ゆっくりコースターに置く。
「じゃあ何で帰らせたんだよ!完璧にお持ち帰りコースだろうが!」
渡辺は黙ってスマホを小野に向けた。そこにはLIENでこう書いてあった。
『今日はありがとうございました。先輩を癒すつもりが何だかこっちばかり話しちゃって…。どうもすみません。またいつでも誘って下さいね。今度は私がいっぱい話を聞きますから。今日はありがとうございました。おやすみなさい』
最後に可愛らしいスタンプが押してあった。
「お前、お持ち帰りする勇気あるか?」
小野はうつむき、グラスを片手に持つ。
「何でお前なんだろうな…」
「知らねぇよ…」
「お前どうすんだ?」
「…」
黙り込みウィスキーを口にする。
「まさかまだあの女の事引きずってんのか?」
しばしの沈黙が包み込む。
「何年経つ?」
「4年かな…」
「もうそんなになるか…。あれから忘れようと女をとっかえひっかえだったもんな」
「言うなよ。もう過去の事だ」
「でもあの女は過去じゃねぇんだろ?」
「…まぁな」
「一つ言っておくぞ」
「ん?」
「結衣ちゃんは良い女だ。あんな女は滅多にいない。意味わかるよな?」
「あぁ…。わかってる。わかってるさ…」
それからしばらくお互い無言だった。