一章 6
「全く…」
小野はひと段落した様子で座敷の隅に座りなおしハイボールを啜った。
「結衣ちゃん盗られたわね」
近藤が冷やかしに言うと、
「よく言うぜ。最初っから脈なしだとわかってるくせに」
「あら?ばれた?」
「今日の飲み会だって、アイツと飲むって言ったから結衣ちゃん誘ったんだろ?大方、結衣ちゃんの方からハルキが気になるって相談受けてたんじゃねーの?」
「まぁね…。でも中々誘うにも誘いづらくてさ。そしたらあんたからお誘いが来てびっくり。これはいいチャンスと思ってね。正直渡辺君がミスしてくれて助かったわ」
「あ~あ…結局俺らはダシって事かよ…」
「まぁいいじゃない。渡辺君も結衣ちゃんも何気にいい感じよ」
「何か気にくわねーけど…。でもアイツ楽しそうだからいっか。でも何でハルキなんだ?確かに優しいし、顔もまぁまぁとは思うんだけど、あの結衣ちゃんがねぇ…」
「あんたには一生わかんないわよ」
小野と近藤は楽しそうに話す二人を見ながら飲んでいた。
「これでアイツも少しは前進してくれればいいんだけど…」
「元カノさんね…」
「まぁな…。 しっかし!結衣ちゃんも変なのに引っかかっちゃったな!」
「…誰が変なのだって?」
いつの間にか渡辺が隣で指をポキポキ鳴らしていた。
「おわっ!冗談ですよ。冗談…。ん~っと…ハルキ君…怖い顔して何か用かな?」
小野が言うと渡辺はスマホを取りだした。
「SNSの登録の仕方を教えてくれ」
「おっ結衣ちゃんに即発されたか?」
「ほい!これで登録完了っと…。後は…」
小野が手慣れた手つきでスマホをいじる。その様子を渡辺は感心しながら見ていた。
「意外と簡単なんだな」
「先輩。あの…申請しても良いですか?」
SNSへの登録が完了すると、結衣が意を決したように言ってきた。
「あぁ。お願い。やり方教えて」
渡辺はスマホを差し出す。
「ここに緑川結衣って入力して…。出てきた!これが私です」
スマホの画面上にテーマパークでコスプレをして、可愛らしい耳を付けた可愛らしい女性がピースをして写っている写真が表示された。結衣が照れながら、
「これ友達と行った時の写真です。ほらここに申請追加っていうボタンがあるでしょ?ここを押せば申請完了です」
渡辺は言われた通りにボタンを押す。
「あっ来た!」
結衣がうれしそうな顔でスマホを見せてきた。
「これで私の投稿や写真が渡辺先輩にも見れるはずですよ」
「へ~そうなんだ…。まだよくわからないけど、慣れれば楽しくなるのかな?」
「きっとなりますよ」
「ん?何か来てる…」
渡辺が通知ボタンを押すと、小野と近藤の名前が載っていた。
「承認宜しく!あっ結衣ちゃんにも送っておいたから後で承認宜しくね」
小野が調子よく言う。
「あっ…ちょっといつの間に?結衣ちゃん承認なんかしちゃダメよ!危ないから!」
「ちょっ…何でハルキは良くて俺は駄目なんだよ!」
小野を無視し、近藤はスマホを見ながら言った。
「承認ありがとう。渡辺君」
「いえいえどういたしまして」
慌てて小野もスマホを確認する。
「おいこらハルキ!俺は承認されてねーぞ!」
「キミは危ないので承認は見送らせて頂きました」
「てめぇら…。泣くぞ?なぁ俺泣くぞ?」
結衣は3人のやり取りを見てクスクス笑っている。
「ところで渡辺君。LIENも登録したんだよね?教えてくれる?」
小野を完全に無視して近藤が聞いてくる。
「あぁ良いですよ。確かQR教えればいいんですよね?」
渡辺がスマホをいじってる横で、近藤が結衣に目で合図を送った。
「あっ…あの…。私も良いですか?」
「あぁ。別に構わないよ。え~っとQRは…。これだな」
渡辺がスマホを見せる。近藤と結衣がスマホに入力する。その脇で…。
「おい!てめぇら…俺マジで泣くぞ?」
小野がいじけた顔で言ってくる。
「うるさいわね!ちゃんとスマホ見なさいよ!承認しておいたわよ。まぁあんたには投稿見せないけどね」
「小野先輩。ちゃんと承認しておきましたよ。これからも宜しくお願いしますね」
「おぉ~サンキュー。ありがとー!…でハルキは?」
「悪い…リクエスト消しちまった…」
「…」
あっという間に飲み放題の2時間は過ぎて行くのであった…。