一章 5
酔いも良い感じに回ってきたころ、結衣がしきりにスマホをいじっていた。
「結衣ちゃ~ん何してるの?もしかして彼氏?」
小野が聞くと結衣は違いますよと否定し、スマホを見せてきた。
「SNSです」
「へ~、結衣ちゃんもSNSやってるの?俺もやってるんだ」
「小野さんもやってるんですか?あっ…ちなみに景子先輩もやっていますよ」
「ちょっと結衣ちゃん!余計な事言わなくていいの」
「えっ?お前もやってるの?何だよ~俺が聞いた時やってないって言ってたくせに」
すると近藤がうんざりそうに言う。
「あんたとは繋がりたくないからね。いい結衣ちゃん。あの男から申請が来ても承認しちゃダメよ?」
「何だよそれ。ひどいな…。結衣ちゃん!今すぐ繋がろうぜ。ほらこうやって検索で…」
次の瞬間、またもやパンッという乾いた音がする。
こういった会話の中、渡辺だけが?マークを並べていた。
「渡辺先輩はSNSやってないんですか?」
「いや…聞いたことはあるんだけどね」
「あぁコイツそういうのには全く疎いんだ。最近になってやっと俺がLIEN教えたところだからさ」
結衣は驚いた顔つきで言う。
「え~っ!先輩LIENもやってなかったんですか?」
「そんなに驚く事か?」
渡辺が不思議そうに聞くと
「だって彼女とかとの連絡とかどうやってるんですか?」
「ん?俺今彼女いないし」
「先輩、彼女いないんですか。せっかくカッコいいのに…彼女とか作らないんですか?」
渡辺は困った様に鼻の先を掻いた。
「作らないんじゃなくて、作れないんだよな?」
小野がすかさずフォローを入れる。
「え~先輩モテそうなのに?」
「まぁまぁ…ちょっとトイレ行ってくるわ」
渡辺が席を立つと小野が意味深に言った。
「ちょっとばかりまずかったかな~結衣ちゃん。アイツ、恋愛に対してはすごく臆病になってんだ」
「何かあったんですか?」
「ちょっとね…」
結衣が聞くと小野は話しづらそうに答える。
「アイツ女と付き合ってもどこか上の空なんだよ。まぁ元カノと色々あったみたいで…」
「小野君!そこまで!その事は誰にも言わないって約束でしょ?結衣ちゃんも聞きたかったら自分で聞いた方がいいと思うわ。他人から聞いたって言ったら渡辺君も気分悪くしちゃうでしょ?」
「私悪い事聞いちゃいましたかね…」
しゅんとする結衣にさらに続けた。
「でもそんなに心配しなくても大丈夫よ。渡辺君もそんな男じゃないから、それにそろそろいいんじゃないかしら…」
近藤は意味深に言う。
「まぁ楽しく飲みましょ!今日は渡辺君を慰める会なんだから!」
「そうそう。今時SNSもLIENも知らない面倒くさい奴なんだけど悪い奴ではないからさ。人がせっかく紹介した女も1週間で捨てる様な男なんだけど…」
その時、小野は背中に悪寒を感じ、ゆっくりと振り返った。
「誰が面倒くさいだって?誰が捨てただって?てめぇ緑川さんに変な事吹き込んでんじゃねーよ!」
「げっ!ハルキ…」
近藤が結衣の脇腹をつつく。
「渡辺先輩…。ごめんなさい…」
「ん?あぁ…いいって気にしないで。それよりさSNSって面白いの?」
「はいっ!えっとですね…」
結衣が懸命に説明する。