二章 15
「私、最低な女だよね…」
亜矢は俯き、つぶやいた。
「でも亜矢の気持ちもわかるよ…」
優子は優しく諭すように更に続けた。
「私でもそうすると思う。だってアイツの生き生きした姿、大好きだから…。自分のせいでその姿が無くなるのは絶対に 嫌!好きだから…。好きだから仕方ないよね…。凄く辛いけど…。けど…」
優子も共感したのか、目に涙を浮かべる。
「大橋さんはその事知っているの?」
優子がそっと口を開いた。
「うん…」
優子が想像したのとは違い、意外にも亜矢は前を向き、少し笑みを浮かべた。
「彼ね…。拓海はね…。優しいんだ。私が泣きながら話してるのを、ちゃんと聞いてくれて。そして最後ね…、そっと抱きしめてくれたの…。俺も一緒に背負ってやるって。お前の悲しみ、苦しみ、全部…」
「大橋さんらしいね…」
「彼の優しさがすごく暖かった。彼のぬくもりを感じたら、また一気に涙が溢れ出して…。ハルの事、忘れたいわけじゃないの。でも彼と一緒にいるとハルの事忘れられる。ううん…。彼の事で頭がいっぱいになるの」
亜矢の顔に笑顔が戻ったような気がした。
「それだけ大橋さんの事好きなんだよ。あ~あ…。結局最後は惚気話か」
優子は、冗談半分に冷やかし、さらにこう質問した。
「ならそろそろじゃない?」
亜矢は、何の事?という顔をして優子を見た。すると優子は一言言う。
「結婚」
「ないないない。それは無いよ!」
亜矢はかぶりを振り、精一杯否定する。
「だって拓海は主任になるんだし、仕事だってこれから忙しくなるんだし、それに子供なんて…」
「亜矢…。落ち着こうか」
焦る亜矢を笑いながら取りあえず静止させる。そして少し真剣な顔つきで聞いた。
「亜矢はどうなの?」
この問いに対し亜矢は、少し照れくさそうに顔をした。
「…結婚はしたいよ。拓海となら幸せになれる。そう信じてる…」
亜矢の顔がさらに赤くなる。




