二章 14
「病気?」
大橋はうつむいたまま、この茂野の問いに答えた。
「あぁ…。こんな事話してもいいのかどうか分かんないけど、お前にならいいだろ…。酔っ払いの戯言だと思って聞いてくれ」
大橋も酔いが回ったのか、随分と口が軽くなっていた。行きつけの店で気の知れた店員。この要素も少しだがあるだろう。
「病気でこっちに戻って来たんだと。人の介護が必要だからって。まぁ一人暮らしの大学生にとっちゃ、流石に友達や彼氏から介護してもらう訳にはいかないだろうな…」
茂野は、黙って席を立ち、カウンターの方へ周り、大橋の正面に立ちながら皿を洗った。
「結果的に彼氏を裏切る事になってしまったんだよ。彼氏にとってみれば、いきなり音信不通になり、住んでいたアパートもいつの間にか出ていってるわ、もう何が何だか分からない状況だよな…」
「仕方なかったんじゃないですか」
茂野がそっと相槌を打つ。
「あぁ。もし知ったら俺が支えるって言っていただろうな…。俺でもそうするよ…」
「でも亜矢さんは言わなかった」
「あぁ。言わなかった。いや…言えなかった。言える訳ないよな…。自分の希望した会社の就職し、研修や教育もある程度終わり、これからって時に、自分がお荷物になるなんて絶対に嫌だもんな…」
「人間って不思議ですよね…。もし自分が彼氏さんの立場なら、絶対に言って欲しいし、亜矢さんの立場なら、俺も黙って去ります。お互いがお互いを思っているからこそ、このようなすれ違いが起こってしまうんでしょうね…」
「馬鹿な奴らだよ。全く…」




