二章 12
「ハル…」
大橋は声になるかならないかの大きさでふと呟いた。
「何ですか?」
茂野が当然のように聞き返す。
「…シゲさんって自分の彼女の元カレって興味ある?」
「全く興味が無いって言えば嘘になりますよね。みんな一緒じゃないですか?」
「だよな…」
大橋はビールから変えたウィスキーを一口飲む。茂野が続けた。
「自分が好きになった女を同じように好きになった男。興味はありますよね」
「あいつにもいたんだよ。そういう男がな…。その男は本当にアヤを愛してた」
「聞いたんですか?」
「あぁ。俺と付き合う権利があるかどうか、その男の話を聞いて判断して欲しいって言われてさ。俺と付き合う権利って…」
大橋は何かを喉の奥にしまいたいのか、やけにウィスキーが進む。
「聞かなきゃよかった。正直最初はそう思った。俺の知らない亜矢ってやつが次々と出てくるんだからな。それまで勝手に持っていた自信が一気に崩れ去った。俺はコイツを幸せに出来るのかってね…。その男といた方が幸せに出来るんじゃねぇか…ってね…」
「でも今は貴方が彼女の隣にいる。この事実は残念ながら変える事は出来ません。今大橋さんにとって一番大切な存在は亜矢さんで、亜矢さんにとって一番大切な存在は大橋さん、貴方です。この事実もまた変わらないんです。端から見ててもこれくらいわかりますよ」
茂野は静かに呟いた。大橋も残り少ないウィスキーを一気に飲み干した。
「今は聞いてよかったって思ってる。アイツの色んな面を知れたし、アイツの苦しみや不安。優しさに強さ。すべてを受け止める覚悟が出来たからよ…」




