二章 11
「自暴自棄になってた私の前に満面の笑顔であいさつに来たの。すっごいテンションでね」
笑いながら話す亜矢。しかし何かを思い出したのか次第に話し声に影が出始めた…。
「今までも会社の人達が心配して、明るく振舞ってくれたりしたんだけど、何かダメで…。どうせこの人もと思ったんだけど、あの笑顔がね…」
「笑顔?」
優子は笑顔という言葉が気になり聞いてみる。
「うん。笑顔が彼に似てたの…。雰囲気というか何て言うか…。それで思わず笑っちゃったの」
「彼って拓海くんじゃないわよね?」
この優子の質問に対し亜矢は少し俯いた。
「ごめん…」
優子も思わず謝る。
「いいの。私もちゃんと話さないといけないよね…」
「無理しなくていいよ?」
優子が気遣うように言うと、亜矢は小さく首を振り言った。
「ううん…。聞いてほしいの。優ちゃんに聞いてほしいの…。彼…。ハルの事を…」
そんな亜矢の姿を見て、優子も意を決す。
「彼の名前は渡辺晴紀。私にとって1番大切な人…」
亜矢は時に明るく、時に悲しそうに淡々と話していった。
「彼…。ハルとは大学のサークルで知り合ったの。優しそうな人。これがハルの第一印象だった。サークルの歓迎会で新入生に馴染めない人がいると率先して話しかけててね。
常に周りに気を配ってるって感じだった。私もハルのお陰でサークルの先輩達と仲良くなるのも早かったし、県外に一人で来て、初めての一人暮らし。
ハルと出会ってそんな色んな不安が一気に吹き飛んじゃった。
最初は憧れの先輩って感じで色々と教えてもらったり、飲み会に誘ってもらったり。
それがいつの間にか二人きりでごはん食べに行くようになって、二人きりで遊ぶようになって…。
本当に自然にハルを好きになっていった。
付き合うのが当然みたいになって、いつの間にか私の中でハルが1番になっていたの…」




