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シロツメクサ  作者: 大神 葵
第一章  渡辺 晴樹
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一章 3

渡辺は定時を過ぎても会社にいた。お疲れ様でしたの声があちらこちらから聞こえてくる。


「お疲れ!いいか。六本木駅集合だからな」


と小野の言葉も聞こえたような聞こえなかったような…。もしかしたら生返事で返したのかもしれない。


気がついたら渡辺は地下鉄に乗っていた。とりあえず約束を守るためである。


「行きたくねぇなぁ…」


会社の最寄り駅の大手町駅から日比谷へ向かう地下鉄で渡辺がぽつりと呟いた。


「ハルキ!今日飲み会決定な!場所は六本木!安くていい店とったからよ。しかもなんとあの総務課の結衣ちゃんまで来るんだぜ。 …ん?ハルキ?聞いてんのか?まぁどうせこっ酷くやられたんだろ?そんな日は飲んで忘れようぜ。なっ?とりあえず仕事終わったら六本木駅集合な!必ず来いよ!あっ!今日は俺らの奢りらしいから、宜しく!」


課長との話が終わり、自分の席に座った瞬間これだ。相変わらず小野は人の話を聞かない奴だ…。

正直今回のミスは非常に重い。


「疲れているんだろ。少し休め。午後からのミーティングは出席しなくていい」


課長からの言葉はこれだけだった。言葉の少なさが、どれだけの事か物語っている。

こっ酷くやられた方がマシだった。

定時までの時間、全くと言っていいほど仕事が手につかなかった事は、これが2回目だった。


今日の出来事を振り返り、一言呟いた。

「外されたんだよな…」


電車の窓の外を見るが、ここは地下鉄。真っ暗な景色しか見えない。


このプロジェクトは自分が中心に進めてきた。それは自負している。会社としても大きなプロジェクトで失敗は許されないのはわかっていた。


何で?何で…?自分の不甲斐なさに腹が立つ。

考えれば考えるほど、どんどん気持ちは落ちて行った。

日比谷に下りると同時に小野に電話をした。

やはりとても飲む気分ではなかったので断りの電話をしたのだった。


「もしも~し」


2コールほどで小野の調子のいい声が聞こえてくる。


「もしもし。タカ?悪いな。やっぱ今日とても飲む気分じゃねえんだ」


「そう言うと思ってたよ」


返ってきたのは意外な答えだった。渡辺が不思議そうにしていると


「だから迎えに来てやった」


いきなり後ろから声がした。驚いて振り返ると小野と近藤。そして可愛らしい女性が立っていた。


「はじめまして。総務課の緑川結衣です」


渡辺は総務課に会社で一番の可愛い子がいるとかいないとか色んな噂は聞いていたが、実際に会って話をするのはこれが初めてだった為、どうもと軽く会釈をする。


「ささ、人数も集まった事ですし、行きますかね」


小野が間髪いれずに、肩を組んでくる。


「だから俺は…」


「後ろの二人見てもか?」


小野は小声で話す。


「何て言ったってあの結衣ちゃんが来てるんだぜ?せっかく来てくれたのに帰らせるのも悪いだろ?それに落ち込んでる時はパァーっと飲んで騒ぐのが一番じゃねーか。今日はゆっくり愚痴聞いてやっからよ。何より近藤さんを怒らせると怖いし…」


二人で話してると後ろから催促の声が掛かる。


「何してるの?人がせっかく付き合ってやってるのに!こっちはお腹ペコペコなんだからね!」

「先輩早く行きましょうよ!」


「なっ?行くしかねぇだろ?」


「ったく…」


渡辺は少し笑いながら言った。正直なところ救われた。

一人でいれば確実に落ちるところまで落ちてただろう。

今日は誰とも会いたくない。しかし誰かにいてほしいという気持ちも少しはあったのもまた事実である。


「…ありがとうな」


「ん?なんか言ったか?」


「うるせぇな!わかったよ!今日は飲むぞ!タカの奢りで!」


「ちょっ…、誰も奢りなんて…」


小野が慌てて訂正しようとするが…


「あら?今日は小野君の奢りって聞いてたわよ?ね~結衣ちゃん」


「そうなんですか?わぁ!小野先輩カッコいい!御馳走様です!」


近藤がそうはさせてくれなかった。


「そうと決まれば、早く行こうぜ!六本木駅に着いたらまずはATMかね?小野君!」


小野はしばし呆然としながら電車に揺られていった。

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