二章 4
アイリッシュパブに来たらまずギネスというほど、ギネスはアイリッシュパブのポピュラーな飲み物でもある。
しかもここシロツメクサでは、生樽のギネスが飲めるのだ。ギネスは生樽での保管がかなり難しく、すぐに味が変わってしまう。
更には通常の生樽と違い、2種類のガスを使用する為、スペースの問題も発生してしまう。
その為か、あまり生樽のギネスを飲める所は少ない。
美味しい料理に舌鼓を打ちながら、二人ともいい感じで酔いがまわってきた頃だった。
不意に電球の温かみのある明るさが徐々に消えていく。
そしてアイルランド特有の陽気な音楽が静かに消えていき、誰もが聞き覚えのあるバースデーソングが流れ始めた。
周りの客も何事かと周りを見渡す。すると突然、どこからともなく手拍子が起こり始め、
「Happy Birthday to you♫ Happy Birthday to you♫」
と茂野が世界で最も多く歌われている歌を歌いながら、ロウソク替わりの小さな花火が灯ったプレートを手に持ち、あるテーブルへと持って行った。
そのテーブルの客は驚いた顔をして、照れながら手で顔を半分隠した。その間、小さかった手拍子がいつの間にが店の客全体を巻き込み大きな拍手へと変わっていた。
もちろん大橋と亜矢もいつの間にか参加していた。
「Happy Birthday dear 祥子♫ Happy Birthday to you~♫ 祥子さん!お誕生日おめでとうございます!」
茂野が歌いながらプレートをテーブルの上に置いた瞬間、おめでとうと見ず知らずの客も拍手で祝福する。
どうやら本人に内緒で友達が計画をしていたようだ。
余りの突然の出来事に唖然とする本人。
「やっぱりいいね…」
亜矢が拍手をしながらポツリと呟く。
「ああ…」
大橋も笑顔で頷く。
見ず知らずの客もいつの間にか一体となり、祝福をしてくれる。それがこの店のサプライズのいい所の一つだ。
店長の茂野を始め、店員の明るさもそのサプライズを成功させる要因の一つであろう。
大橋と亜矢は満面の笑顔で写真を撮るお客にしばし癒された。




