二章 1
店の入り口の鐘が鳴る。
「いらっしゃいませ!」
店の奥から『店長しげの』という名札を付けた店員がこちらに向かって歩いてきた。顎鬚を生やし、端正な顔立ちの茂野。
「おぉ!大橋さん。いらっしゃいませ!」
笑顔で迎える茂野。大橋も笑顔で答えた。
「おう!シゲさん。後からもう一人来るんだけど…。とりあえずカウンターいい?」
コートを脱ぎながら聞いてくる大橋。
「全然構いませんよ。どうぞ!…お客様!1名様ご来店です!いらっしゃいませ!」
茂野が言うと、店の奥から一斉に聞こえてくる。
「いらっしゃいませ!」
店内に活気のある声が響く。
大橋は3つの樽テーブルを横目に奥にあるカウンターに通される。
カウンターに座ると目の前には日替わりで入るアルバイトの女性。
「いらっしゃいませ!」
「おう! さんお久しぶり」
「大橋さん、いらっしゃいませ!」
更には奥の厨房からも聞こえた。『わたなべ』という名札を付けた目鼻の整った顔立ちの男性が顔を出す。
「おう。佑紀。久しぶり…でもないか。先週来たもんな」
日替わりで入るアルバイトと違って、店長の茂野大輝と渡辺佑紀はここの店員。
なので来る度に顔を合わせている。
常連の大橋にとっては馴染みの顔だった。
もちろんアルバイトの女性も常連になれば、たとえ日替わりでも馴染みになるであろう。
「とりあえず…。レーベン!」
カウンターに座り、そう注文すると大橋はスーツからスマホを取り出し、親指を滑らせる。
やがてがドイツの伝統的なレーベンブロイコースターの上に置かれると、待ってましたと言わんばかりに半分近く一気に飲み干した。
「相変わらずいい飲みっぷりっすね」
茂野が感心しながら言うと、大橋は照れるように頭を掻いた。
「いや~…やっと昇格が決まってさ。今日はそのお祝いをしようということになってね。4月からついに主任だぜ?主任!」
「おめでとうございます!」
カウンター越しに拍手が起こる。
「まぁまぁまぁ…」
大橋も両手を広げ拍手を収める仕草を取ったが、顔は誇らしげに笑っていた。




